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ペンパルは地下へ行く

 ペンパルは地下へ行こうと思った。そういえば生まれてこのかた9年も過ごしたこの家には地下室があるのだということにペンパルは今の今まで思い当たらなかった。なんせ、そんなこと、母親も父親も先生も友達も誰も教えてくれなかった。

 教えなかったのにはわけがあった。誰も地下室なんて知らなかった。いや、知っていた。知っていたけれどわからなかった。見えなかった。見えたところで、どうせそれは、埃にまみれて、コウモリなんかが飛んでいて、蜘蛛の巣も張って、薄暗く、大して面白いものもなく、わずかな灯りは蝋燭で、じめじめして、残念ながら、掃除する気にもならない、さいわい地下は地下で、扉なんかでも閉ざされて、大丈夫、地上とは関係がない、こういうことだった。

 ペンパルはそんなわけに感づいてもどうとも思わなかった。ふうん。そうなんだ。

 地下への扉は固く閉ざされていた。コンコンと叩いたらずいぶん遅れてゴオンという音がした。さすがのペンパルも調子が崩れた。これもわけのひとつだなと思った。それでも少し経てばさあ行こうと思えた。そんな気持ち、どこからくるのだろう?

 ガタゴトとやって扉を開けると階段があった。ペンパルは階段を降りる。降りる。降りる。

 冷んやりとする。風。空気。それでもコウモリはいない。埃も舞っていない。思っていたのとは違うなとペンパルは思う。降り続ける。

 妙な怪獣がいた。火を吹いている。ちょっと怖い。これはわけのひとつかもしれない。凶暴そう。それでも退治する気にもならない。怪獣は怪獣で、怪獣なりの言い分があるのだろう。生きている。ペンパルが挨拶したら怪獣も小さく頭を下げた。もっと降りる。

 変な場所に出た。見たこともない生き物がいる。たくさんいる。ペンパルと似ているようで似ていない。細長い。たまにペンパルのようなふっくらもいる。

 みんなぼんやりしている。たいして面白そうでもない。たまに面白そうなのもいる。それでもたいていは疲れた感じでぼんやり地面を眺めている。あるいは空を。これもわけのひとつだなと思った。

 たまにウワッと燃えるようなのもいる。あるいはフワッと安らぐようなのもいる。この辺はペンパルにも理解ができた。ふうん。こんなのが地下にいるのか。もっと降りる。

 降りる。降りる。降りる。

 気づけばペンパルは屋根裏にいた。ここは生まれてこのかた9年も過ごしたペンパルの家の屋根裏部屋。不思議なものだなあとペンパルは思った。ペンパルの家の地下室は、屋根裏部屋に繋がっていたのだ。

 ペンパルはなんだか素敵な発見をした気がした。とても嬉しかった。

 それは意識と無意識。わたしたちの顕在意識と潜在意識。9歳のペンパルにはまだ難しい言葉。でも感じていること。誰もが終わらない旅の途中。それでもひとつひとつ見つけていくもの。

 よかったね! ペンパル。

(2020.10.10)

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