同棲日記〜ハルキとエミの場合〜
今回の物件→東京メトロ千代田線 根津駅 徒歩8分
※まずは物件と間取り、写真や名前だけであなたが想像する物語をお楽しみください。ここから僕の物語を随時更新していきます。
2019/02/27更新(『エミ』更新と物件を変更します。)
エミ
「ピアノの音色には不思議な力がある。私はそう信じてやまない。ピアノ以外にも楽器はたくさんあるし、それぞれの楽器には良いところもあるとも思ってる。
でも、私はピアノが好き。好きなの。」
ポロンと部屋に響くソの音。量販店で購入したベットと簡単なテーブル、必要な洋服だけをしまっているクローゼットに音が反響して耳に返ってくる。
時計はデジタル時計。秒針がチクタクチクタク聞こえることが気になってしまうからという理由。音は他にも聞こえるのに。
エミはいつもピアノを弾きながら苦しんでる。自分が好きなものを弾いているし、ピアノが好きなのに苦しんでいる。ピアノを弾く表情は、楽譜をみる時の表情は、なんだか苦虫を潰したように見える。僕はいつもその姿を見ていながらどうしてそんなに苦しんでいるのか理解できないし、理解したいとも思わない。好きなことをしている時は楽しいはずなのに。苦しいなら辞めてしまえばいいのに。
ピアノの練習を終える時はいつも別の何かがエミを邪魔する時だ。
学校に行かなくちゃいけない時、バイトに行かなきゃいけない時、そして僕が邪魔する時だ。
エミが苦虫を潰している時に突然鍵盤の上に飛び乗る。リズムもメロディもハーモニーも関係なく部屋に不協和音が鳴り響く。エミはハッと僕の方を向いて一言。
「もう!邪魔しないでよ!!」
「邪魔したのは申し訳ない。でも今は遊びたい。遊ぼう。」
そう僕はエミに視線を向けるのだけど、エミの顔はひどく怒っている。
この顔が面白くていつもエミが苦虫を潰している時に邪魔をする。傑作だ。
ニンゲンのメスは何人も見たことがあるけれど、エミのこの顔に勝てるニンゲンはいない。テレビに出ている芸人たちよりも面白い。僕はいつもそう思う。
目が真ん中に寄っているし口はニワトリみたいにとんがらせて、声を荒げてくる。
はっはっはっ。ピアノなんて辞めてお笑い芸人になった方がいいと思うぜ。
ピアノから飛び降りてソファにの上に乗り移る。そろりそろり。
エミを怒らせるのは楽しい。苦虫を潰している顔を見るのはあんまり好きじゃない。
サポートしていただいた費用はたばこと生活費になり僕の血と肉と骨になってまた書けます。