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『無の少年』

魂のコクピット


昭和の小さな小さな田舎町
信号もないような狭い路地
手付かずの雑木林
やたら攻撃的な近所の飼い犬
木製の電信柱
井戸水だから美味しいという謎の理屈
排他的でありながら知らない女の子のために赤飯を炊くような

そんな街に私は産まれた。

最古の記憶は空に向けて放った水鉄砲の水が
重力に従って私の顔面に着弾したときだ

幼馴染の女の子は何故か泣いている
私は何が起きたかわからぬまま
2発目を撃とうと銃口を向けようとしたが
おそらく母の制止によって記憶ごとそこで終わっている

私は私の脳みそに乗っている
さながらロボットアニメのように
2つのアームで操る何者か
なんでこの身体を器として選んだのだろう?
それが私の魂の最古の記憶
3歳にして最初の自問自答

身体の記憶は外部からのエラーで強制終了されたが、魂の記憶には別角度の続きがある。

私はこの身体に乗り込む前
その様子を空から見ていた
人の形はしていない
強いて言うなら霧のような存在だ
そこによちよち歩きの天然パーマの男の子が私に向かって水鉄砲を撃ったのだ

天地がクルクルと掻き乱され
空と粗悪なアスファルトが
水で溶いた絵の具がぬるりと混ざり合うように私はその水滴に捕らわれた
その水滴はなす術無く重力に操られ男の子の額に着弾し美しく弾けた

貧血でズシンと倒れるような感覚の後
おそらく一重の狭い視界がひらけた
幼馴染の女の子は何故か泣いている
私は…
自身に何が起きたのかわからぬまま
2発目を…

これを自我の目覚めと言うのだろうか
私はこの身体に乗り込み生きていくことになった


続く


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