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世界の片隅

こんな酷い振られ方があるだろうか。僕はまだ彼女に告白していない。ただ、そっと見ていただけだ。話しかけたことすら無い。なのに。

「あー、あの人。名前も覚えてないんだけど。私の事好きらしいって、無理。絶対に無理。」僕は気付かれないように遠くから見ていただけなのに。告白する前に振られた事も、名前すら覚えてもらっていない事も、すごくショックだった。もう何もかもどうでもいいと思えるくらい辛くて、その日の日記に『このまま消えてなくなりたい。この世界の片隅で』と書いた。

するとぼくの書いた文のすぐ下に『残念。ここは世界の片隅じゃない。』と、炙り出しみたいに文字が浮き出てきた。なんて事だ。こんなに辛いのに、ここは世界の片隅じゃないのか。

それから僕は旅に出た。誰にも何も言わずに、日記とカードを持って。カードで電車とケーブルカーに乗り、山に登った。日記を開くと『こんな見晴らしの良い場所は片隅じゃない』と出た。なるほど、空気が澄んでて気持ちがいいし高い場所は違うのかもしれない。

また電車を駆使して海へ向かった。日記には『海は世界と繋がっているのに片隅なんかじゃない』と出た。最北端と書かれた場所も、最南端も違った。砂漠も断崖絶壁も違った。秘境と呼ばれる場所も違った。ついでに秘境温泉に入ってみたが当然違った。誰もいない天然の露天風呂は最高だった。無人島も湖畔も違った。青い沼はとても綺麗で神秘的だったからココだ、と思ったけれど『神秘的と片隅は違う』って否定された。お金もパスポートも持っていないから海外には行けない。日本中ヒッチハイクで巡り、たくさんの人に親切にしてもらったけれど、どこにも『世界の片隅』は見つからず、家へ帰ることにした。

「良かった、帰ってきた。」と家族は泣きながら僕の帰宅を喜んでくれた。学校へ行くと親友はもちろん、そんなに話したことがなかった奴までやってきて、僕がどうしてたのか聞きたがった。僕はフラれたことは秘密にして日本中の景色や出会った親切な人々の話をした。片隅を探す家出で僕は様々な経験と尽きない話題を手に入れた。なんだか、人気者になったみたいだ。

放課後、彼女が僕に「一緒に帰ろう。実は前から少し気になってたの。」と言ってきた。

もちろん、断った。僕の名前を知らなかったくせに。と思ったけど言わなかった。僕は少し大人になったから。

今は彼女の事より『世界の片隅』が気になって仕方が無い。日記を持って次は海外へ探しに行こう。もしも『世界の片隅』を見つけたら。みんなに話してあげたいから、消えてなくなってる場合じゃないな。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。