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人類のために

いつもより星が多いなと見ていると、眩い光は瞬く間に増えて空は嘘みたいに大きな宇宙船で埋め尽くされた。抑揚のない声か音で彼らは告げる。

ー私達は侵略者では無い。あらゆる星の生命体を研究し、必要であれば保護しようと考えている。サンプルを志願する者が予定数確保出来れば、こちらから無作為に連れ去ることはしない。人類のため、よく考えてほしい。ー

世界はパニック状態となった。無作為に選ばれたりしないように大人は子供達を隠し、自分もトイレやクローゼットや地下室に身を隠し、PTA役員を決める保護者会みたいに息を潜めて気配を消した。

サンプルになったら、どんな実験をされるか分からない。志願者など現れないだろうと思っていたが、何名かが宇宙船へと向かって行った。

志願者達は白い部屋に集められた。壁も床も天井も白く窓のない部屋だった。何人かは分からないが予定数集まるまで待機させられそうだ。誰からともなく「どうも」「こんにちは」などと挨拶し会話しながら待つようになった。

「あなたはどうして志願したんですか?」髪の長い若い女性が質問されて、少し戸惑っていたが、自分の指先を触りながら話しだした。

「実は…私、ずっと死にたかったんです。けど誰かに殺されるのは嫌だし、自殺もしたくなくて。」聞いていた年配の女性が「まだ若いのに、勿体ないわ。」と言い出した。「あなたの歳なら色々あってもやり直せるじゃないの。…私にはもう未来なんか無いけど。」若い女性は首を横に振った。「私にも何も無いんです。だからせめてサンプルに志願した事でヒーローみたいに死ねるかなって思ったんです。」少しざわついたが、他にも同じような考えの人達がいて「きっと語り継がれるよ。」「歴史に名を残す死に方だ。」などと立ち上がって賛同し出した。

「死んだら何も無いよ。」端に座っていた若い男が言った。「宇宙船の声が真実を言っているとは限らない。志願者以外は絶滅させられるかも知れないのに、歴史に名を残すだって?バカバカしい。死んだらヒーローになんかなれない。本当に何も無くなるんだ。」歴史に名を残そうと盛り上がっていた人々は若い男に水を差されて憤慨した。

「だったら、お前はどうしてここにいるんだ。」若い男は周囲を警戒し、彼らを集めると小声で「反撃するんだ。」と言った。「反撃だって?どうやって?」「俺はたくさんのSF映画を見てきた。奴らには必ず何か弱点があるはずだ。それを探って撃退して…本当のヒーローとして名を残す。」しん、と静まり返った。

「勝算はあるのか?」若い男は首を横に振った。「水だったり空気だったり、奴らの弱点は映画ごとに違うからな。何が効くのか今はまだ分からない。だけど何もしないで死ぬより、きっとマシだ。」男の瞳は真剣でキラキラしていた。聞いていた若い女性も「そうね…。ただ志願して死ぬより、地球を救う方がかっこいいわ。」他の者たちも頷く。「どうせ先なんか見えないんだ、やれるだけやってやろうぜ。」「最後に一花咲かせるのも悪くないわね。」「人類のために。」「みんなで生き残る未来に。」

死にたかった人達も、未来を悲観していた人達も、地球を救うという使命感に瞳を輝かせた。

え!?サポートですか?いただけたなら家を建てたいです。