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【お題】踏切

第1話
こんなとき どんな歌なら あうのかな 
シャダンカンの 開かん 時間
 

学生時代の話。
バイトしながら音楽を続けている先輩がいた。
その人のことを、皆、バンドの名前で呼んでいた。
バンドの名前は、きれいだけどふつうの名前だった。

同じ名前のバンドがいて、活躍していることは知っていた。
ちょっと有名なほうのバンドの人から、
『名前を使いつづけるのをやめてほしい』と連絡があったそうで。
『でも自分らが先。変えたくない。
変えるくらいならバンド辞める』
って言ってたんだよね、と別の先輩から聞いた。

駅までの帰り道。
踏切の前で、ギターの入ったバッグを背負った
先輩の後ろ姿が見えた。
電車が通るまでの短い間、踏切が開くのを待っている。

最初は離れていた。
でも、後ろにもたくさん人が並びはじめたので、
押されるように前に立つ。
先輩の目も見ずに、”お疲れ様です”と並ぶ。
挨拶するのが精いっぱいだった。

電車が目の前を通る。
何て声かけたらいいのだろう。
言っても、どうせよく聞こえないし。

無言のまま、踏切の棒のしま模様を見つめる。
この棒たしか、名前があるんだよなと思う。
今ならスマホですぐ調べて、忙しいふりも出来るのに。
ついでに、『こんな名前どうでしょうねえ?』なんて
……今でも言えないな。

反対側からも電車が来る。
しかも車両が長い。

やっと踏切が開き、お辞儀をして追い越した。

その後、先輩はバイトを辞めてしまった。
あれからどうなったんだろう。

ちょっと有名だったほうの皆さんは、デビューしたけど、
今はもう活動していないようだ。


第2話
次までと踏切開いてもフレーズが 
続いて浮かぶよゆうやけのうた


土曜日の部活の保護者会の後、
夕方からの親睦会には行かないと決めていた。

たまたま親睦会に出ない人同士で
一緒に駅まで向かうことになった。
『知らない人ばかりだし』 『明日も朝から用事があって』
話しながら駅へと急ぐ。

3人の共通の話題が見つかる。
『あの歌の題名なんだっけ?』
答えが出そうで出ない、そんな感じで始まった。

ひとりはこちら側の改札で電車に乗るとのこと。
自分ともうひとりは向かい合う改札を通って電車に乗るから、
反対側に渡りたい。
よし、次に踏切が開く時間までなら、と立ち話を延長する。

電車が横切る時は、聞こえなくなって、一旦会話を止める。
踏切が開いても、話したいことが次から次へと浮かんで、
渡れなくなる。

電車が5本くらい通過した。

夕日を背中に浴びて、あたたかかったのが、ひんやりしてくる。
久しぶりの放課後みたいだった。
雰囲気も、年齢もたぶん違う。
初めて会った人同士なのに。
『こんどはゆっくり、お茶でもしようね』
と別れた。

それから緊急事態宣言となり、
さらにいろいろあり、叶っていない。



◆ ◆ ◆



私鉄沿線の線路沿い。

踏切を開くのを待つ時間は
長く感じたり、短かったり。
人を繋いだり、不自然な距離を作ったりもするのだなと
思い出す間に、ようやく遮断桿が上がった。

2023.1.23 夕焼け短歌ダンス同好会




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