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隠し絵本収蔵室

水月suigetu
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メリークリスマス!ということで、皆様に感謝の気持ちを込めて、プレゼントを贈らせていただきます。今回はショートショート「隠し絵本収蔵室」を朗読してみました(*´▽`*)
まだまだ書くのも読むのも弾くのも未熟なもので、プレゼントになっていないかもしれないのですが、少しでも楽しんでいただけたらと思います。
本当に寒い日々が続きますが、どうか皆様ご自愛くださいね。

ではでは絵本を開きまして…



「隠し絵本収蔵室」

なんとなく入った書店で、「懐かしの絵本、発掘大会」というイベントがやっていた。たくさんの絵本が並んでいる特設コーナーに、老若男女が集まっていた。

絵本。幼いころ、かじりつくように読んだ。宝物だった、お気に入りの絵本たち。なんとなく思い出せるものの、タイトルまでは正確に覚えていない。

自然と、絵本コーナーに足が動いた。

1冊ずつ手に取って、感動して。時々、お気に入りだった絵本と再会して、にやにやして。気づけば、何時間も絵本を見て回っていた。



少し涼しくなってきた秋のある日、実家の片づけに駆りだされた。父さんと母さんが兄夫婦と同居することになり、実家は取り壊されることになったのだ。

1ヶ月後には、消えてなくなってしまう実家。ペタペタと、大黒柱を触る。寂しいが、仕方ない。誰も住まなくなれば、すぐに朽ち果ててしまうだろう。残すほうが、より寂しくなる気がした。

兄と手分けして、物にあふれた実家を片づける。自分の部屋の片づけを終わらせた所で、ちょっと休憩だ。軋む廊下を歩いていると、漆喰の壁の下に、小さなドアがあった。

しゃがんで、よく見てみる。上部がアーチ状になっている、可愛い木製のドア。ちゃんと小さな取っ手までついている。こんなドア、見たことない。犬や猫を飼っていたことはないから、ペット用のドアではない。

じーっと見ていると、わくわくしてきた。もしかして、小人が住んでいるのだろうか?

片手に持っていた掃除道具とビニール紐を放りだして、取っ手を引っ張った。なかなか、開かない。もう一度、引っ張る。少しずつ動いている。鍵はかかっていないようだ。

ぐっと何回か引っ張ると、ドアが開いた。ドアの中に向かって、強い風が吹き始める。急激に眠くなって、意識が遠のく。風はどんどん強くなる。吸い込まれる、と思った瞬間、目の前が暗くなった。





目覚めると、薄暗い部屋の真ん中で座り込んでいた。四方の壁一面に本棚がある。床には、花柄の絨毯が敷いてあった。懐かしい。私が小さいころ、居間に敷かれていた絨毯だ。

立ち上がって、本棚を観察する。収まっている本は、すべて絵本だ。何となく天井を見て、ひっと声が出た。天上にも、本棚があった。絵本と思われる本が、みっしりと収まっている。なぜ、落ちてこないのだろうか。

「絵本収蔵室へようこそ。待っていました」

また、ひっと声が出た。暗い部屋の角から、ぬっと出てきたのは、体長約2mのペンギンだった。恐ろしさで、またその場に座り込む。

「ああ、やっぱり分からないか。ごめんなさい。私たち、初対面では無いのですよ。ほら、こうすれば、思い出してくれますか?」

ペンギンはクルクルッと素早く3回転した。次の瞬間には、ベレー帽を被り、木製のパレットを持っていた。

「……あ!『絵描きのペンギンさん』だ!うわぁぁ、懐かしい!あの絵本でしょ?お母さんが大掃除の時に間違えて捨てちゃった絵本!大泣きしたの、今も覚えてる。うわぁ……懐かしいなぁ」

「ふふ、私も、あなたと再会できて嬉しいです。あなたが私を想っていてくれたから、私はこの隠し絵本収蔵室の管理人として存在できたのです。私に言葉を与えてくれて、ありがとう」

絵本の中にいるはずのペンギンと、普通に話せている。感動しながらも、私の頭は冷静になっていった。そう言えば、ここはどこなのだろう。私は、実家にいたはず。確か、片づけをしていて、たまたま妙な小さいドアを見つけて……。

「ふふふ。あなたの心の声が聞こえてきます。そうです。ここはあの小さなドアの中にある部屋です。ここで私は絵本を集め、保管していました。この家以外にも、絵本収蔵室というものがありまして。皆で連携して、絵本好きな子供に絵本を贈っているのです。クリスマスの日にね」

ペンギンはまた、クルッと1回転した。ベレー帽とパレットが消えた。

「この絵本収蔵室っていうのは、いつからあったの?私、実家にいた時に、あんなドア一度も見たことないよ?」

「あなたが、絵本を愛してくれた時からですよ。絵本を真に愛してくれる人がいる家には、絵本収蔵室が生まれるのです。しかし、人に見つかってはいけないというルールがありまして。ドアは人間には見えないようにしていたのです」

「え、でも私さっき、ばっちり見えてましたけど」

「そうでしょう。今日は特別です。こっそり、私が見えるようにしました。最後に、あなたに会いたくて」

最後、という言葉に心臓が跳ねた。

「……もしかして、この家が取り壊されるから?この部屋も、無くなっちゃうの?」

「ええ。この部屋にある絵本は、他の家の収蔵室に移します。これから大忙しです。だから、あなたをこの部屋に招待できるのは、今回が最初で最後なのです。ぜひ、絵本をたっぷり読んでください。人間界の時間は、止まっておりますので」

「そっか……。招待してくれて、ありがとう。よし、読もう!おすすめは?」

「ふむ。これなんか、いかがですか?七色の金魚が集まって、回るレコードの上で競争するのです。あなたが6歳の時に大好きだった絵本ですよ」

「うわぁぁ!懐かしい!うわぁ……!」

夢中になって、ペンギンと一緒に絵本を読む。私はやはり、絵本が大好きだ。


ショートショート「隠し絵本収蔵室」
https://note.com/nekotoakinosora8/n/n07a94bea2985

お気に入りいただけましたら、よろしくお願いいたします。作品で還元できるように精進いたします。