洋館の猫

今日は猫の日らしい。
自分の名前が名前なので、
猫の話題には平素事欠か無いのだけど、
久しぶりにとある猫を思い出した。

中学生のころ、
よく同級生の家に遊びに行っていた。
心地が良く、おしゃべりしたり
ゲームをしたり、
同級生が飼っているお犬さんの散歩を
させてもらったり。
のびのびと過ごさせてもらう時間だった。

とある猫とは、
その同級生の家の近くで出会うことになる。

その友人の家の前に、
少しだけ寂れた、それでいて上品な
白い洋館があった。

入り口前には広いスペースがあって、
その周りには木々が植わっていた。
入り口の横には緩く突き出したような
窓があって、
私はよくそこを遠目にみていた。

ある日、窓の向こうで
ちらちらと揺れる白が目に入った。

なんだろう、とこっそり近づいた。
入り口まで近づいたのはそれが初めてだった。
せりだした窓に近づいて、そっと覗いてみた。
白いレースのカーテンの手前に、
これまた白くふわふわとした
一匹の猫がいたのである。

物語みたい…!!

と胸が高鳴った。
こんな、本の中でしかみた事ないような
素敵な景色が本当にあるのか、
と中学生の私は一瞬呆然とした。
呆然として、すぐに我を取り戻す。

長毛の白い猫。
ふわふわで長い尻尾が、
窓の端で揺れている。

猫の目がこちらをじっとみているものだから、
こんにちはと目を見て、そのあとすぐに閉じた。

祖母の家で昔から猫達と過ごしていた時に、
目を見つめ続けると挑まれてるように感じる
子達もいると学んだからだ。

あまり目線を合わせすぎ無いようにして、
窓の前でその猫を見る。
綺麗だった。

深窓の令嬢って、
こんな感じ?

と小説で知ったばかりの言葉が
頭の中で反芻する。
深窓の令嬢、美しい。
優雅で素敵だなぁと
一人で心がいっぱいになっていた。

ふと、後ろから同級生の呼ぶ声が聞こえた。
慌てて振り向くと、こちらに近づいてくる
同級生。

どうしたの?と聞かれ、
ねこちゃんがね、
と窓の方を指差した時、
見えたのは微かに揺れる
白いカーテンだけだった。

少し寂しいような、
ただイメージ通りというか、
と思いながら
呼びに来てくれた同級生と入口に向かう。

綺麗な白猫ちゃんがいたんだよー、
と話す。
私見た事ないや、と
同級生が応える。

そっか、
またお会いできるだろうか、
と一人にやけて
一連の出来事を心の中にしまった。

そんなとある洋館の猫との話。

ちなみに、
その後その猫ちゃんと会うことは一度もなく、
その洋館は今、空き家になっている。

それでもちらちらと揺れる白い尻尾は
心に残り続け、
世の中にはお話のような
素敵な物語が沢山あるのだなぁと
色んな場所に旅に行くきっかけになったのだけど、
それはまた別の機会に。

よき猫の日を。
では。



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