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2023年のベストアルバム【50枚】


noteを始めた暁には絶対に手を出そうと(そして執筆が阿鼻叫喚の苦しみという声も沢山聞いてた)思っていた年間ベストアルバム50枚をやります。
この序文はなんとなくアルバムをリストアップしながらもまだ一枚も本文を執筆していない段階で作成しているので果たしてこのテンションを保ったまま50枚書き終えられるのか、ねこラジは五体満足で「事」を終えられるのか、こうご期待!(旧譜もガンガン有ります)


50.Warhaus / Ha Ha Heartbreak

2022

ベルギーのインディーロック・バンド BALTHAZARのフロントマン、Maarten Devoldereによるソロ・プロジェクト「Warhaus」のアルバム。冒頭から直近だとアクモンの最新作「The Car」を彷彿とさせるような流麗かつムワリと、ムスクの香りと香り立つラウンジサウンドに腰を砕かれる。時にイタリアの避暑地でまどろむように、時に殺し屋の追跡に怯えるように、甘いポップ&ソウルを基調にしながらも古典絵画の名作選のように豊かに表情を変えるサウンドに翻弄される。

49.Shalom / Sublimation

2023

NYブルックリンのシンガーソングライター「Shalom」によるアルバム。パキパキとひたすら力強く、かつ明晰な音を聴かせてくれるインディーロック&ポップ。オープナー『Narcissist』は痛みを伴うような切なエモーションを孕みつつも、緻密に積み上げられたアレンジであくまでポップの範疇に収める構成力が素晴らしい。

48.Yves Tumor / Praise a Lord Who Chews but Which Does Not Consume; (Or Simply, Hot Between Worlds)

2023

アメリカのアーティスト「Yves Tumor」によるアルバム。今作に置いては過去のアブストラクトな音楽性を更にロックと結びつける形で深化させてインダストリアルやポストパンク、ニューウェーブに近い質感まで迫っている。ドープでドラッギー、セクシャルで怪しげなロックの「陰」の魅力が詰め込まれたアルバム。蠢くベースラインにポストパンクの美学を感じる『Lovely Sewer』が最高。

47.gglum / Weak Teeth

2022

ロンドン出身のシンガーソングライター「gglum」のアルバム。ガレージめいた煙たいインディーロックサウンドと流麗なメロディラインが正に極上。特にメロディラインはインディーロック的なぶっきらぼうさを廃した、真摯でフック満載の凝った仕上がり。『Teen Sweat』のシューザイザー的な広がりに乗せて歌われるとびきり美しいメロディがたまらない。


46.youra / (1)

2023

韓国のシンガーソングライター「youra」によるアルバム。既発のEPやシングル群が非常に良かったので気になってたんですけど期待に恥じない素晴らしいアルバム。インディーらしい幽玄なサウンドを主軸に作品のたびにソウルであったりフォークであったり、器用にジャンルを越境するフットワークの軽いアーティストなんですが今作は何処かネオクラシカル的かつ不穏なサウンド。



45.Texas 3000 / tx3k

2023

日本のインディー、オルタナティブロックバンド「Texas 3000」のアルバム。シュールでカオティック、かつ本場USオルタナ顔負けのリアルな虚脱感が漂う作風ながら、時たま顔を出すキラキラとしたエモーショナルな情感に心を打たれる。刹那的なシンガロングチューン『Tomorrow’s King』のダイナミックさが素晴らしい。



44.Ryan Hall / POSTTEENANGST

2023

あんまり情報が無いんですけどアトランタのシンガーソングライターとの事。硬質なグリッチ風味のビートが全編を覆うダークなサウンドながらポップスからは外れないバランス感覚に魅了される。グランジィなギターサウンドとグリッチノイズに塗れた深淵にして異形のミドルバラード「IRIS」が飛びぬけて良い。


43.wave to earth / 0.1 flaws and all.

2023

韓国のインディーロックバンド「wave to earth」のアルバム。メロウなギターとソウルフルなボーカルハーモニーに彩られたサウンドはひたすらにスウィート。日本のシティポップ半インディーロック的なバンドとも共通する良さがあるような。


42.Lionmilk / sauna saudade

2023

LA出身のキーボーディスト「Lionmilk」のアルバム。ジャンル的にはアンビエントジャズ、らしいのだけれど成程vaporwave的な(というかvaporwaveの元ネタ的な)ノスタルジックな淡く染みるサウンド。90sリバイバルのイイ~感じのインディーゲームのサントラで聴きたいですね。


41.Spencer Zahn / Statues I

2023

アメリカを拠点とするマルチインストゥルリスト「Spencer Zahn」による連作アルバムの一作目との事。タッチ、空気感の一つ一つが妥協無く追求された繊細なピアノインストゥルメンタル。今年一番読書用のBGMに使わせていただいたアルバムかも。最近リリースされた続編アルバムも聴いてみなくては。



40.Laura Misch / Lonely City

2019

ロンドンのサクソフォニスト「Laura Misch」のアルバム。サクソフォニストだけにジャジーのインストゥルメンタルかと思ったら中々本格的なエレクトロニカ、トリップホップでビックリ。夜の孤独な思索にひっそりと寄り添ってくれるアルバム。


39.All Dogs / Kicking Every Day

2015

フィラデルフィアのインディーロックバンド「All Dogs」のアルバム。サブポップ周辺を彷彿とさせるグランジィで粒の荒いサウンドながら突き抜けるようなメロディにはインディポップ的な「陽」の喜びを感じる。竹を割ったような疾走感とアルバムの中では比較的ナイーブなメロディが交錯する『Flowers』は起爆剤的なキラーチューン。



38.Carnation / Carousel Circle

2023

日本のベテランロックバンドカーネーションによる2年ぶりのフルアルバム。前作Turntable Overtureが近年のカーネーションで最もタフなロックアルバムだった反動か、幾分トーンを落とした渋めのアルバム。注意深く聴くとプログレッシブロック誕生前夜のサイケ&アートロックのような程よい実験性が随所で顔を出し,アルバムに奥行きを与えている。ゲスト田中ヤコブが最高のプレイで魅せるオープナー『ここから - Into the Light』はイントロから心が躍る。



37.Blush / Supercrush


2023

シンガポール出身のシューゲイザーバンド「Blush」によるアルバム。憂いをたっぷり秘めた男女混合ボーカルとひしゃげたギターサウンドが空間を埋め尽くす、ニンマリとしてしまう程ツボを抑えたシューゲイズサウンド。1曲目『All I Wanna Do』はボーカルパートに入った瞬間あ~コレコレ!と全シューゲイザーファンが膝を打ってしまうでしょう。間違いなく。

36.Frost Children / SPEED RUN

2023

ちょっと情報の少ないNYの兄弟ユニット「Frost Children」のアルバム。2000s~2010sくらいを彷彿とさせるゴツゴツとしたサウンドのオールドスクールな宅録電子音楽。一応ハイパーポップらしく突飛なサンプリングを散りばめながらも一切取っ散らかった印象は受けない、確かなソングライティング能力に舌を巻く。ちょっとだけHadouken!なんかを思い出すかも。



35.bar italia / Tracey Denim


2023

イギリスのポストパンクバンド「bar italia」のアルバム。ポストパンクらしいドライな荒涼感を根幹に据えながらも、そこにドリームポップとローファイのエッセンスを注ぎ込んだサウンド。曲によっては耳障りな程のローファイな音作りを、アンビエント寄りのテクスチャーを織り込む事により独自のミステリアスなサウンドへ昇華している。人力トリップホップと呼べそうな『NOCD』の極上の陶酔が良い。


34.Hum / Inlet

2020

イリノイ州シャンペーン出身のレジェンド的ロックバンド「Hum」の22年ぶりのアルバム。22年ぶりのカムバック自体は知りながら何故か聞き逃していた。ヘビィなポストハードコア&グランジながら線の細いボーカルと神秘的な広がりの空間処理がシューゲイザーにも通ずるトリップをもたらす稀有なサウンドが特徴なんですけど、22年ぶりとは言え音楽性はしっかり健在。



33.Bnny / Everything

2021

シカゴを拠点とするインディーロック、ドリームポップバンド「Bnny」のアルバム。不確かで曖昧で、不穏ですらある掴みどころの無さと深く甘い歌声がインディーロックに我々が求めている入り組んだ快楽を余すところなく提供してくれる。素晴らしい夜のアルバム。


32.Water From Your Eyes / Everyone's Crushed

2.23

アメリカ出身のインディーユニット「Water From Your Eyes」によるアルバム。エクスペリメンタル、インディーロックに括られる事が多いけれどUSインディー界隈でも特異な立ち位置というか、ニューウェーブ、インダストリアル、ノイズロック等を際限無く取り込りこんでしまう節操の無さによりちょっと他では聴けないオリジナリティを確立している。イントロから不協和音がさく裂しながらもカラフルにすら感じる不気味な明るさの『Barley』が最高。




31.Matti Bye / Bethanien

2020

主に映画音楽の作曲家として活躍するスウェーデンでのピアニスト「Matti Bye」のアルバム。アンビエント寄りのピアノインストゥルメンタル。心地良く揺蕩う様ながら裏で密かに流れるホワイトノイズとアクセントとして顔を出す不協和音が空間を引き締める。随一感傷的でシリアスな『Brought into Light』が素晴らしい。



30.U.S. Girls / In A Poem Unlimited

2018

トロントを拠点に活動するエクスペリメンタルポップユニット「U.S. Girls」によるフルアルバム。表面だけ見れば歪ながらサイケデリアをたっぷり纏ったポップスと呼べなくも無いがその内面では今にもドロドロとした生物的怨念が外骨格を打ち破ろうと渦巻いているような複雑な音楽性。アルバムのラストにアンコールのように始まる熱狂的なジャズロックナンバー「Time」は必聴。



29.Conor Albert / Collage 2

2022

サウスロンドン出身音楽プロデューサー「Conor Albert」のアルバム。多数の女性ボーカリストをフューチャーしながらお手本のような端正なネオソウル&ポップスを聴かせてくれる。「I Think You Should Know」は柔らかくドリーミーな、小粋なポップネスが輝く。



28.Ethan P. Flynn / Abandon All Hope

2023

ロンドンを拠点とするシンガーソングライター「Ethan P. Flynn」のアルバム。根幹はフォークながらオルタナティブロック顔負けのギターノイズや低音のエグみの効いたグロテスクなストリングスが要所要所で絡みあい、出口の無い迷宮のような底知れない奥行を作り出している。朗々とした『No Shadow』は美しいメロディが響く、比較的素直な良曲ながら先行きの見えない展開が決して安心させてくれない。


27.Personal Trainer / Big Love Blanket

2022

アムステルダムを拠点とするインディーロックバンド「Personal Trainer」。7人組の大所帯らしくおもちゃ箱のような多彩なアレンジを聴かせてくれる。大所帯サウンドといい、ラウドかつ多幸感溢れる陽性のアンサンブルといい、アレンジは違えど何処となくオインゴボインゴの姿を思い出してしまうような。ハードで仰々しい『Key Of Ego』はインパクト大の名曲。



26.Laundromat / En Bloc

2022

イギリスのコンポーザーTOBY HAYESによるローファイプロジェクト「Laundromat」のEPを締めたコンピレーションアルバム。音はローファイらしく、くぐもった作りながら全体に溢れるユーモアと中毒性の高いメロディラインも相まって驚くほどポップな仕上がりとなっている。『Bureau de Fatigue』のまるっきり調子の出ない朝のような、ルーズで気だるげな雰囲気が良い。



25.Launder / Happening

2022

LAを拠点とするアーティスト「Launder」によるアルバム。近年のシューゲイザーを代表するアルバムとの呼び声もちらほら聞くような。シューゲイザーらしさを保ちながらも、ボーカルを埋もれさせないミックスや粒の立ったギターのコード感が楽曲をしっかりとした歌モノとして成立させている。『Intake』はシューゲイザーアンセムとして後世に残してもいいんじゃないか。



24.Kevin Morby / More Photographs (A Continuum)

2023

アメリカのカンザスシティーを拠点とするインディーフォークアーティスト「KEVIN MORBY」のアルバム。前作の「This Is Photograph」をリワークしながら新曲も加えた若干特殊の立ち位置の作品。ギターノイズやストリングルを絡めた多様なアレンジを駆使しながらもメインは内省的な、正しくインディーフォークなムードでまとめ上げられている。



23.Tom Gallo / Tell Me the Ghost

2018

アメリカのニューイングランドを拠点とするシンガーソングライター「Tom Gallo」のアルバム。アンビエント的なシンセのサウンドスケープとフォーキーにつま弾かれるアコースティックギターが融合した、幽玄ながら粒の立った見事なサウンドプロダクション。冒頭の『Tell Me the Ghost』はミニマル的な抑えたアコースティックギターの反復フレーズの上でコロコロと転がり落ちていくような感覚を味わえる。



22.Yo La Tengo / This Stupid World

2023

各所で好評のアメリカのオルタナティブロックバンド「Yo La Tengo」のアルバム。もう既に年間ベストにちらほら入ってるのを見かけるので今年のロックを代表するアルバムと言えるんだろうな。9曲約50分と長尺ナンバーの目立つ構成も、時代に逆行するロックの美学を感じる。テンションコードが引っ張る『Fallout』の放つ、圧倒的ロックアンセムの煌めきに忘れていたロックキッズとしての心臓が高鳴る。


21.The American Analog Set / Know by Heart

2001

アメリカのインディーロックバンド「The American Analog Set」のアルバム。愛聴しているインディーロックバンド「Pinback」から辿って偶然見つけたバンド。バンド名が表す通りのヴィンテージなツボを押さえた甘いサウンドが緩やかに生活を彩ってくれる。想像通りの、ドンピシャな良い音が詰まったアルバムとなっている。ビターな映画のエンドロールを思わせる『Gone to Earth』は正に絶品。



20.Slowdive / everything is alive

2023

レジェンド枠。言わずと知れたUKシューゲイザーの大御所「Slowdive」。圧倒的にRIDE、swervedriver派だったねこラジにはずっとSlowdiveには心が入っていけなかったのだけれど今作でやっと引っ掛かることが出来ました。大々的に導入されたエレクトロニクスによりシューゲイザー的には若干の矛盾を孕むかもしれないけれど、ボトムが強力になったような印象。



19.yeule / softscars

2023

シンガポールの謎めいたクリエイター「yeule」が放つ、各界で絶賛を集めているアルバム。ハイパーポップ風のヴィジュアルが強烈な本人大写しのジャケットの先入観で聴くと、実は至って真面目にシューゲイザー、ドリームポップ、シンセポップを横断する誠実な音像に驚かされる。『sulky baby』のお手本のようなドリームポップ&シューザイズサウンドがノスタルジアを刺激する。


18.Grian Chatten / Chaos For The Fly

2023

2020sの第二次UKポストパンクリバイバルに置ける最大のバンド、Fontaines D.C.のフロントマン「Grian Chattenに」よる初のソロアルバム。Fontaines D.C.にて聴ける禁欲的な徹底したミニマリズムと極めてタイトな音像から離れてより(ソロアルバムだから当たり前なんだけど)パーソナルでオーガニックな造りとなっている。冒頭の『The Score』は吹きっさらしの、寒空の下のダブリンシティを当て所なく彷徨うような映像的なセンチメンタリズムが最高に染みる。

17.The Black Skirts / TEEN TROUBLES

韓国のシンガーソングライター「The Black Skirts」によるアルバム。前々作「TEAM BABY」が物凄く好きなアルバムだったのでそれくらいの輝きを…と期待したら並ぶ程の傑作。ポップながらどこか密室的なマニアックさも感じる音楽性のアーティストなんですけど青春をテーマにした今作では刹那的なパンク&ガレージ風のロックナンバーが目立ち、異様にエモーショナルな誇大妄想的青春絵巻を構築している。青春パンクナンバー「Baptized In Fire」の泣きの情感に居ても立っても居られず、当て所なく走り出してしまう。



16.Hollie Cook / Happy Hour in Dub

2023

ウェストロンドン出身のレゲエシンガー「Hollie Cook」によるアルバム「Happy Hour(2022)」のダブミックスアルバム。今年は一時期このHollie Cookにハマり何枚かアルバムを聴いたんですけど最新作にしてこれがベストですね。ダブといえば地下水路で蠢くような得たいの知れない不穏な音楽って印象だったんですけれども、非常に端正でメロウな音像へと再構築されていてこういう切り口もあるんだなと。


15.Flaws / Coalescence

2023

ロッテルダムのシンガーソングライター「Flaws」のアルバム。柔らかな電子音と瑞々しいギターサウンドが彩る至高のポップサウンド。性急なビートの曲にも常に午後の日差しのような暖かさが溢れる。


14.Tanukichan / GIZMO

2023

サンフランシスコを拠点とするシンガーソングライター「Tanukichan」のフルアルバム。今年聴いたシューゲイザーの中で最も素晴らしかったアルバム、というかシューゲイザー史を振り返っても有数の名盤といえるんじゃないかって程素晴らしい。太く荒く容赦の無い轟音はSwervedriverが「Rise」にて提示した限りなくエモーショナルながら達観の境地に達したような凄味も持ちあわせている。


13.Soccer Mommy / Sometimes, Forever

ナッシュビル出身のシンガーソングライター「Soccer Mommy」のアルバム。キャリア初期のドリームポップ色は後退し、よりダークなインディーロック、グランジ色が強まったような。アンサンブルのロック化に伴い持ち前の美しいメロディも説得力を増し、各曲のキャラクターもグン濃くなったように感じる。前作「Color Theory」までは聴きこそすれ、正直そこまでの魅力は感じていなかったんですけど今作には相当ハマりました。

12.Maneskin / RUSH!

2023

快進撃を続けるイタリア出身のロックバンド「Maneskin」による全米ブレイク後初のフルアルバム。前作まではかいつまんで聴きつつツボに入る程では無かったんですけどこれはもう一皮、ならず数皮剥けたとでも言って良いくらいキラーチューンの洪水で正に最高の仕上がり。一聴して「ロック!」と叫びたくなる程カッチリとロックの定石を踏みしめながらも聴けば聴くほどダンサブルな軽やかさに気づかされる。中でもトムモレロ参加の『GOSSIP』は耳にこびりついて離れない中毒必須のダンスパンクの名曲。


11.George Clanton / Ooh Rap I Ya

2023

アメリカのシンガーソングライター「George Clanton」のアルバム。このアーティストを語るときどのメディアでも「90s」という言葉が取り沙汰されてますけど、ほんとに再生した瞬間飛び込んでくる忠実に再現された90sフレーバーに笑ってしまった。元々vaporwave畑の人らしいので納得。マッドチェスター、ビッグビート、トリップホップを平行に並べて一気に着火、延焼させたような怪作。


10.shame / Food for Worms

2023

サウスロンドンを拠点とするポストパンクバンド「Shame」のアルバム。前作「Drunk Tank Pink」の目まぐるしく静と動が入れ替わる危うい爆発力からは一転、曲全体を俯瞰しながらトータリティーを重視した幾らか理性的な作風になり、持前の英国らしい肥沃なメロディセンスがよりダイレクトに伝わってくるようになった。また動のパートにも前作までの闇雲で性急なパートに加え、鈍器を振り下ろすようなヘビィなパートも織り込まれるようになりバンドとしての成熟を感じる。


9.Momma / Household Name

Wet LegやSnail Mailのオープニングアクトにも起用されているアメリカのインディロックバンド「Momma」のアルバム。冒頭2組より知名度は低いながら引けを取らないクオリティで鳴らせるバンドだと思ってます。ダウナーなメロディを抜群のハーモニーで歌う女性ツインボーカルと適度なルーズさを残しながらも「これ以外ありえない」と思わせ確かなフレーズ選びが冴えるギターのリフが武器。今年のインディロックでも最上と言える一枚。代表曲となりそうな『Speeding 72』は最高にエモーショナルなメインリフをなぞりながら更に高みへ昇り詰めていくサビが素晴らしい。Nirvanaの「lithium」ライクなダウナーグランジの美学が詰まった「Medicine」も良い。

8.Noel Gallagher's High Flying Birds / Council Skies

2023

これもレジェンド枠。イギリスを代表するロックバンドOASISの元フロントマンのソロプロジェクト「Noel Gallagher's High Flying Birds」によるアルバム。4枚目となる今作はバンド感は保ちながらもアコースティックな要素の目立つ、今までで最も肩の力の抜けた質感となった。艶やかなアコースティックサウンドにストリングスが絡むアレンジには自然とビートルズ等の正当なるブリティッシュサウンドの系譜を感じる。前作にして傑作「Who Build The Moon?」には劣るけど次点くらいには収まりそうな秀作。表題作「Council Skies」はボッサなアレンジにノエルの太く伸びやかなボーカルが映えるキャリア屈指の名曲。


7.Puma Blue / Holy Waters

2023

サウスロンドン出身のシンガーソングライター「Puma Blue」のアルバム。再生した瞬間に広がるのは極寒のトリップホップ。そのまま広がった冷気は決して温度を上げる事無く漂い、やがて台地に吸収されるように消えていく。11曲を通してそんなビジョンが浮かぶ徹頭徹尾冷たく暗澹としたサウンド。X(Twitter)のTLでもちょくちょく絶賛されているのを見るのでこれも今年を代表するアルバムと呼べるでしょう。Massive Attack「Risingson」を彷彿とさせるようなスモーキーなダンスチューン「Hounds」がベストトラック。


6.Queens Of The Stone Age / In Times New Roman...

2023

レジェンド枠、アメリカ出身のロックバンド「Queens Of The Stone Age」の8年ぶりにしてフロントマンジョシュ・オム復帰後初のフルアルバム。こう、後述となるフーファイターズといいこの年代のロックンロールレジェンド達が苦しみを乗り越えて傑作をリリースしている姿を見るとRock is not Dead!を感じる。内容もこれは現時点でのQOTSAの最高傑作と評しても過言では無いくらいの充実っぷりでは無いでしょうか。前作『Villains』で得た軽やかなファンクネスと従来のストーナーロックのヘビィネスの素敵な結婚。特にリード曲『Paper Machete』、『Emotion Sickness』では根幹はヘビィながらさらりとメロディアスに、過去最高に冴えわたったソングライティングを見せてくれる。


5.Foo Fighters / But Here We Are


2023

これもレジェンド枠。アメリカ出身のロックバンド「Foo Fighters」による前述のQOTSAと同じく、苦難と悲劇を乗り越えてリリースされたアルバムで、こちらも現時点でバンド史上最高傑作と呼んでも差し支えないような素晴らしいクオリティ。近年のアルバムで見せてきた実験性は幾分後退し、フーファイのオリジンとも呼べる「エモでは無いんだけどどうしようもなくエモーショナル」なロックが鎮魂歌のように現世と涅槃の狭間で鳴り響く。ドリームポップ~シューゲイザーに肉薄した「Show Me How」はタフなバンドのイメージを覆す異色の名曲。


4.TESTSET / 1STST

2023

活動を停止した日本のテクノバンドMETAFIVEより紆余曲折を経て派生した「TESTSET」による1stフルアルバム。METAFIVE時代に随所でフューチャーされていたユーモア感覚は鬱憤を晴らすかの如く廃され、メタリック(ジャンルとしてのメタルでは無く金属の表面をなぞるような冷たさ)なインダストリアルグルーヴが張り巡らされた一層タフなバンドへと変貌している。砂原良徳曰くとにかくローに拘ったとのそのサウンドは、LEO今井の吠えるボーカルと白根賢一、永井聖一による生のバンドアンサンブルと絡み合いMETAFIVEから数えても過去最高の強度、練度へと高められている。


3.John Roseboro / Johnny

2023

いよいよベスト3。ブルックリンを拠点とするシンガーソングライター「John Roseboro」によるアルバム。空間の響きを重視した、染み入るようなインディ・ボサノバ。訥々とすぐ傍らで言葉を紡がれるようなボーカルと適度にルーズな、ヨレたリズムが夜の孤独を紛らわしてくれる。今年最もリラックス出来た、心地良いリスニング体験を提供してくれた作品。「How To Pray」は肩の力を抜きながらもピリッとビターな凝ったコード、展開が見事な名曲。


2.The Novembers / The Novembers

2023

日本のロックバンド「The Novembers」によるアルバム。12月リリースにして2位に滑り込む当たり己が相当な信頼をノベンバに寄せている事を実感する。1位にならなかったのは聴いてる内に流石に近年の「At The Beginning」や「ANGELS」のクオリティには一歩劣るかな…と固まってきたから。そもそものバンドの水準が高すぎるので….。詳しくは下記レビューもどうぞ。


1.Miss Grit / Follow The Cyborg

2023

そして2023のマイベストアルバム。NYを拠点に活動するシンガーソングライター「Miss Grit」のアルバム。攻殻機動隊等の作品から触発されたと語る通り、アナログシンセ風のマシナリーなテクノビートと太く、極めて低いトーンで奏でられるギターサウンドがディストピアSF的な不気味な閉塞感を演出している。全体の音数は少ないながらテクノポップ、エレポップ、ミニマル等を器用に横断するアレンジが絶妙で、タイトで洗礼された音色が光る。どこか2010s以降のNIN、特に最もミニマルでオーガニックなアルバム「Hesitation Marks」に近いストイックで計算し尽されたトーンを感じる。名曲ぞろいなんですけど表題曲「Follow the Cyborg」はSFと神話が融合したような荘厳なスケールが圧倒的なキラーチューン。反復するギターフレーズのミニマリズムが丁寧に緊張感を練り上げていく不穏な「Like you」も出色の完成度。早くも次回作が待ちきれないアーティスト。


ねこラジ的2023年(に聴いた)ベストアルバムは以上の50枚となります。
書き始める前はこれほんとに50枚もレビュー出来るのか!?とまあまあ心配だったんですけど意外とコンスタントに執筆出来ました。(じゃあ年内に仕上げろよ)上位10枚は聴いてるうちにこっちが….いやこっちが….と入れ代わり立ち代わり変動するかなり白熱(?)した一人セレクト合戦になりめちゃくちゃ楽しかったです。

全体的な傾向としてインディーロック、インディーポップ、インディー、インディー…とジャンルとしての「インディー」を中心に聴いた一年だったかと思います。自分の中でなんとなく好きだな~と思いながら定義のわからなかった音像に一番近いジャンルがインディーロックだと気づいたっていう、かなり単純な理由なんですけど。ジャンル&シーンに対する見識をかなり深められて良い一年でした。

あと2023年はリスニング&ディグに大きな変化があって、実は初めてサブスク(Spotify)を導入したんですよね。元々浅めに量聴ければなんぼ!みたいな聴き方してたんでサブスク適合は高かったはずなんですけどイマイチ元取れるか不安で導入を先延ばしにするうちに初サブスクが2023年になってしまったっていう…でSpotify内で手当たり次第聴いてる内に意欲的にディグディグする時間が増え、音楽noteやメディアをチェックする習慣が身に付き、気づけば念願のAOTY記事をnoteで書き上げるにまで至りました。良い時代ですね。

いや~ほんとに書いててめちゃくちゃ楽しかった。腕一本取れちゃったけど。2024年も絶対やろう。お読みいただきありがとうございました。雑多なラインナップですが、皆様の新しい音楽との出会いに少しでも貢献出来れば幸い。です。


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