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The Novembers 『The Novembers』Review


無邪気な不穏さ

ロックバンドThe Novembersによる割と久々のフルアルバム。約3年半ぶりとの事。

タイトルは堂々たる『The Novembers』。10数年活動するベテラン枠バンドがここにきてセルフタイトルとは、随分気合が入ってんな~と思ってたらすっかり忘れていたけれどこのバンド1st EPもしれっとセルフタイトルでリリースしているんですよね。『2度目のセルフタイトル』との事なんですけどこういうノベンバの複雑な(面倒くさい)美意識が結構好きなんですよ、コンセプト先行型の昔気質なバンドって感じで。リリースでも執拗に『2度目のセルフタイトル』の言葉が反復されていてノベンバはこれくらい面倒くさくなくっちゃと、ああ今回も聴く前からちゃんと「ノベンバを聴く姿勢」に背骨を正して聴かなくちゃあいけないんだなと、ドキドキ。



オープナー『BOY』は幾分従来の打ち込みのテクスチャを残しながらも曲を推進させる文脈は明らかに『ロック』な強烈なラウドナンバー。
イントロの開き直ったように、搔きむしるように響くギターが新生『ロックバンド The Novembers』の誕生の狼煙。要所要所のグリッチ風のSEや中盤で突然挿入される雄大なホーンセクション等本作のやりたい放題感を象徴する楽曲ながら最終的にロックの大枠にまとめあげるのが流石。ていうかデジタル期でも意外とこういうわかりやすいブレイクビーツ風のシーケンスって無かったような。

Seaside』は6th『Hallelujah』にも通ずるような屈託の無い80th歌謡ポップロック。『Hallelujah』のときのような敢えて!前時代的な程のクサいポップさを!といったような力みの無い、圧倒的な余裕さでポップスを物にする。

グランジや90s~2000sV系周辺のようなくぐもったヘビィネス『誰も知らない』、トライバルなビートと充満するサイケデリアが不穏な祭事を思わせる歪なワルツ『November』等を経由しながらの中盤は随一アグレッシブなポストパンクチューン6曲目『GAME』がハイライト。2分44秒の中に思いつくアイディアを全部ぶちまけたようなカオティックで毒々しい外連味がたまらない。エッジの効いたベースと極端なダイナミズムのギターにMO'SOME TONEBENDERの幻影を見てしまう。
ここまで聴いて気づいたけど、ミックスも従来とはかなり変えてきてますよね。打ち込みとバンドサウンドが深いリバーブの中で混然と溶け合いブラックホールのような壮大な音像を描いていた『ANGELS』~『at the beginning』とは正反対に、各テクスチャが極端な位相でデコボコと乱雑に配置されているような感触で、アルバム全体を貫くロックの風格はこのミックスに寄るところも大きいのかな。

Cashmere』は高松浩史のミックカーン風の違法建築の如き奇天烈なベースフレーズが引っ張る最も従来のノベンバに近い楽曲。サビもカタルシスも無い迷宮のような閉塞感。

Moning sun』はこれは….Common Peopleですよね??

ブリットポップの引用ってそもそもブリットポップにこれ!ていう確固たるフォーマットが定まってるとは言い難いので中々難しいんと思うんですけどまるでタイムカプセルのように忠実に再現する辺り本当に器用なバンドですよね。しかもパルプとかブラー方面のより捻くれたブリットポップっていう。オアシスとかオーシャンカラーシーンじゃねぇのかよって。かなり褒めてます。個人的にライブ本編ラストとかで聴きたい楽曲かも。



アグレッシブな前半から混沌の中盤、徐々にトーンを落としてふわりと祝祭の中へ招き入れるような終盤と『アルバム』としての構成も相変わらず相当に練られていますよね。こういう徹底して高い美意識がこのバンドを今の孤高のキャリアへ導いてきたのかな。

リリースで『2度目のセルフタイトル』と同じく執拗に強調されているのが『ロック』『バンド』という言葉。
前々作『ANGELS』、前作『at the beginning』での骨格までデジタル、インダストリアルビートが染み込んだ突然変異的な暗黒世界がドツボ(ていうかこの2作でファンになった)だった身としては執拗に繰り返される『ロック』『バンド』の二語にこれはデジタル路線の終焉?デジタル路線狂信者のねこラジは受け入れられるか?と一抹の不安を抱きながら聴き始めたんですけど、ああこれは本当に『ロックバンド The Novembers』の決定版だなとデジタル路線狂信者ねこラジも納得せざるを得ないクオリティでした。
ちょっと不安にさせられといて、圧倒的クオリティでボコボコボコボコボコボコボコと、殴られるのが死ぬほど気持ちいいんだな。結局。


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