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ひさしぶりのこと

最後に出張らしい出張をしたのはたしか2020年の3月だったと思う。福岡空港の待合で、愛媛県でついにコロナ発症例が出たというスマホの速報を呆然と眺めたのを覚えている。これからどうなるんでしょうね、と話してから、一緒にいたプロデューサーは東京の自宅にほぼ帰ることができなくなり、これはいいのできたねと喜び合ったローンチ予定の動画は、1年半以上たった今も、いまだに公開の目処が立っていない。

大阪に来るのも本当に久々で、先月新潟に向かうためのトランジットで伊丹泊になったが、店を回ることはなかったし、空港のホテルだったのでほぼ軟禁だった。空港から梅田に向かうバスは何十回も乗っているけれど、なんだか新鮮に見えて、右から左へ流れる景色をずっと眺めていた。

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見慣れた道を抜けると視界に入るビル。かつてはいっとう高くて大きく見えたスカイビルも、いまではなぜか少し控えめに見えた。空に向かう長い長いエスカレーターで、上を向いていたことはおぼえていて。あのときはどんな気持ちで登っていたのだろうと思い出そうとするが、ワンシーンしか思い出さないものだな。人間の記憶は都合のいいように改竄する。いちばん残しておきたいと思った景色だけを残しておいてくれていたけれど、その前後はどこかで落としてきてしまった。

あの頃の自分はとにかく何かと戦っていて、悔し泣きばかりしていた。20代から30代の人生の華のような時代を傷だらけになりながら過ごしてきたから、40代になった今、わたしはいろんなことに臆病になり、石橋を叩き潰す人間に育ってしまったと思う。なんだかんだと崩れた破片をかきあつめては、もとどおりにならない穴を持っているほかのものでとりあえず埋めることを繰り返している。

ソーシャルディスタンスな店内で見た大阪の景色はいつもより静かで、昔とあまり変わらないように見えた。中之島図書館で、焦りながら100本コピーを書いていたあの頃の自分が見たらいまの私はどう映るのかな。

などとありていの感想を書くあたり、あんまりパッとしないな。





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