不器用父ちゃん

父ちゃんは家族に優しい言葉をかけたり

誰かの誕生日にケーキを買って帰ったり

子どもたちのテストの点数を褒めたり

そういう気の利くタイプの人ではなかった。

私にだけじゃなく、兄や妹に対してもそうだったし

母に対してさえもそうだった。

だからと言って暴力的とか冷たいとかそういうわけでは決してなかったが。


表面的なことしか見えていなかった私は友達のお父さんと比べたりして

そんなに私たちは可愛がられてないんだな、

父ちゃんは仕事が大切で家族のことにはそれほど興味もないし

大切だと思ってないんだな、とずっと思ってた。


自分が働くようになってお金を稼ぐことの厳しさを身を以て知り

また、その苦労して稼いだお金を

自分は少しのお小遣いのみで家族のために使う。

それがどれだけ大変で責任を必要とされることかを知った。

私ならもうちょっと小遣い欲しいと思うし、もっと大切に使えよ!と

嫌味の一つも言いたくなるだろう。


習いごとを始めたいと言ったときも

遠く離れた私立の女子大に進学したいと言ったときも

卒業後、さらに遠い東京に行きたいと言ったときも

父ちゃんは反対しなかった。

「頑張りなさい」と一言。

いつも私のやりたいことを尊重してくれた。

快く送り出してくれた。

励ましたり、応援したり、寂しがったり

そういうのは一度もなかったけど

私を信じることが父ちゃんにとっての優しさだったんだなと

大人になって思う。


今でも実家に帰省して東京に帰るとき

帰ってきてくれて嬉しいも

東京に戻ると寂しくなるなあとも言ってはくれないけれど。

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