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猫のたかは考えた「自分より小さな虫を怖がること」について

まめ子には怖いものがある。それは虫だ。まめ子は、虫が家の中にいると僕の方にやってくる。そして僕に抱きついてくるんだ。

僕はそんなまめ子をじっと見ている。僕は虫は全く怖くない。僕はもし目の前に、クマがいたり、牛がいたりしても、僕は怖いと感じない。

だけど、もしクマが口を開けて、僕を食べようとしたり、牛が口を開けて僕を食べようとしたら、僕はその時、初めて怖さを感じると思う。

なぜなら、僕よりもうーんと体がでかいし、僕よりもうーんと口がでかいからだ。恐らく僕の頭はすっぽり、彼らの口の中に入ってしまうだろう。だから、その瞬間僕は怖さを感じると思う。それにしても熊の口は何となく大きく開くのが想像できるけれども、牛の口はそんなに大きく開くのかな。僕の顔も、まあまあ大きいぞ。

まめ子が怖いと感じているほとんどのものが、まめ子よりも小さいんだ。小さいどころか、本当にまめ子の親指にすら及ばないほどに、ちっちゃいものなんだ。当然、まめ子が食べようと思えば食べれるし、まめ子が踏みつけようと思えば、踏みつけられる。それくらいちっちゃいものなんだ。だから僕はどうしてそんなものに怖さを感じるのかが、まったく分からない。

この家に、まめ子より大きいのは、まめ子の夫しかいない。だけど、まめ子の夫って言っても、たかが知れてる。まめ子の夫が口を開けても、まめ子の頭がすっぽり入るような大きさなんかじゃ、全然ない。

そう考えると、この家にまめ子の顔がすっぽり入ってしまうようなものは、何一つもない。だから、どうして僕は怖さなんかを感じるんだろうと、不思議に思う。

僕はハエが好きだ。僕はハエが飛んでるのを見ると捕まえたくなる。うまく捕まえられると、僕は食べるんだ。

まめ子は、まめ子よりうんと小さな虫がまめ子の命を奪うとでも思ってるんだろうか。何がそんなに嫌なんだろうか。音が嫌なんだろうか?それとも刺されて痒くなるのが、嫌なんだろうか?猛毒を持っているから、まめ子は死んでしまうと思うのだろうか。多分そういうふうにいろいろと想像して、怖いのだろうと思う。

それにしても、ゴキブリがなんで怖いかはやっぱり分からない。ゴキブリは静かだし、そしてまめ子を殺そうとなんてしていない。ゴキブリはただ食べ物を探して、はいずり回っているだけだ。一体何が怖いんだろうか?顔が怖いんだろうか?目が怖いんだろうか。僕は何が怖いのか、本当にさっぱりわからない。

まめ子はいつもゴキブリを見ると、ものすごいびっくりするような悲鳴をあげる。僕の家には火災報知器がうまく作動しないのか、たまに突然鳴ったりするんだ。まめ子の絶叫もそれに近い。最初の頃は本当にびっくりした。一体何が起きたのかと思ったら、何と目の前にまめ子の親指ぐらいの小さな虫がいただけだった。キャーキャー言ってるまめ子を横に、のんきあくびをして昼寝をしていたら、まめ子はそんな僕を見て、僕に助けを求めてくるんだ。

僕が怖いもの、それはやっぱり熊と牛が大きな口を開けて、僕の頭をすっぽり食べようとしたその瞬間かな。

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