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猫のたかは考えた『他人の心配をしていること』について

まめ子の家に、まめ子の夫の妹夫婦がやってきた。まさかその妹夫婦が、こんなにも、たくさんの子連れだとは思っていなかったから、僕はすっかり疲れてしまった。

まめ子が僕とボール遊びをしてくれる時は、まめ子は僕に向かってちゃんとボールを投げてくれる。けれども、この子供たちは、一体どこに向かって投げているのか?複数のボールがどこからも飛んでくる。階段の上からも、下からも飛んでくる。そして僕は追いかけようとしているけれども、ボールが複数ありすぎて、どうやって追いかけようか。そんなことを考えていると、突然、僕はつまみあげられたりする。

僕は子供と遊ぶということに慣れていないと気づいた。とはいえ、こんなに多方向から飛んでくるボール遊びのチャンスは逃したくない。僕は僕なりに一生懸命に参加した。

急にガシャンと大きな音がした。大人たちが声を上げて、子供がしゅんとなったのを僕は見た。何事かが起きたんだようだ。見てみると、いつもまめ子の目を盗んで、爪とぎをしているマットの前がガラスでぐちゃぐちゃになっていた。

どうやら本棚の上にあった写真立てが、子供の1人が投げたボールによって当たってしまい、落下したようだ。ガラスが割れる音は結構大きかった。子供たちはしょんぼりしてしまい、ボール投げは終了になってしまった。騒がしかったボール遊びが、急に静まってしまった。ガラスの威力とは強大だ。

まめ子は、ボールを写真立てに当ててしまった男の子が、2階のベッドの中に潜っているのを見た時に、少し胸を痛めていた。僕は最初、まめ子は写真立てが壊れてしまったことを、気にしていると思った。でも実際は全然違ったから、びっくりしてしまった。

まめ子は、写真立てのことなどはどうでもよくて、こういうアクシデントが起きてしまったことを、男の子に気にしてほしくない、という風に考えているようだ。これを知り、僕の頭の中には一気にクエスチョンマークが3つ以上並んだ。

どうして、他人が何を考えるかを推測し、心配しているのだろう。まめ子には、心配をし始めると、際限なく、いろんなことを想像し始めるところがある。

せっかく来た叔父叔母の家で、自分は失敗してしまったという嫌な思い出として、記憶に残ってほしくないとか、申し訳ない気持ちが残ってほしくないとか。まめ子が考えていることは、全く理解できない。

どうして、他人がしてしまったことを、まめ子が心配しているんだろう。それに本人が何を考え、何を感じるかを、まめ子はまるで全てをわかったかのように勝手に想像して、勝手に結論付けている。

時間はもう夜の10時になろうとしていた。だから単純にベッドに戻っただけかもしれないし、本人は特に何も思っていないかもしれない。それに子供なんだから、そんな失敗はよくあることで、別に大げさな話でも何でもない。気にしているのは、まめ子だけだ。

まめ子にとって、とても大切なものが割られてしまったわけではないのだから、もうどうでもいいじゃないか。それに100歩譲って、まめ子が考えてるように、この子供が自分がやってしまった失敗を気にしているとしても、それがこの子供の人生の中において、どのように活きてくるかなんて、まめ子に分かりっこない。

他人にとって何がベストかなど、他の人が分かるものではないし、他の人が何を考え、何を感じ、それをどう思うかなどは、まめ子の仕事ではない。なのに、心配しているまめ子が、僕には全く理解できない。

思えば、まめ子はよくこういうことがある。例えば、まめ子の夫が仕事で落胆して帰ってくると、まめ子も落ち込む。まめ子は、いつも、夫には悲しんで欲しくないとか、凹んでほしくないとか、落ち込んでほしくないと考えているからだ。まめ子の夫は、既に落ち込んでいるのに、さらにまめ子まで落ち込むと、こちらとしては、たまったもんじゃない。

まめ子には、こうやって、すぐに他人の感情を自分の方に引きこもうとするところがある。まめ子が落ち込むと、ボール遊びの回数が減ってしまったり、ボールは投げてくれるけれども、全然力がなくて、ただ適当に投げたり、とにかく上の空になってしまう。

まめ子は、自分と深く関わりのある人には、良くないことは、一切起きてほしくないという風に思っているのだろうか。そんなこと、まめ子のコントロールを超えている。だって、僕だって落ち込むことがあるから。この間、まめ子がチューブのおやつの切り口を切った時、僕はすごく嬉しかった。なのに、まめ子は、僕が一口舐めたら、すぐに冷蔵庫にしまってしまった。僕はてっきり全部与えられるのかと思っていたから。

他の人のことをあれこれ推測しているまめ子が僕は全く理解できない。そして、他人が落ち込むとま目子も落ち込むことも僕はあんまり理解できない。

僕はまめ子が落ち込んでいてもあまり気にしない。もちろん、まめ子のそばに行くし、まめ子が泣いている時は、あまりにもワンワンと声が出るから、僕はまめ子の顔をじっと見つめる。でも少し経ったら、僕は昼寝の続きを始める。

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