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続編のようなオマージュを #花束郵便

たなかともこさんの企画に参加します。

ふみぐらさんの短編・写真に添えられた短い一文、そしてがっつりと書かれた文章。どれもふみぐらさんの「らしさ」が滲みます。同じ様に、とは行かないけどどうでしょう、自分なりのそんな「いつもとは違った視点」の文章をお手本に書いてみるというのは。

ふみぐらさんのマガジン「熊にバター(行き場のない掌編集)」から私が選んだお話はこちらです。

↑タイトルから好き。

『おでん屋のきょうのおすすめ』


「厚介さん、今日はまた一段とやる気がないですね」
顔を上げるとカウンター越しにおでん屋の店主が僕を見ていた。甘辛いダシの湯気の向こうで、薄茶のタテガミがほのかに揺れている。

「どうでした?例の面接」
「ダメだった」
「そう、それは」
店主はほんの少し気の毒そうな目を僕に向けた。
「まあ、またチャンスは巡ってきますよ」
「そうだろうか」
「そんなものです」

右のほうからコトン、と音がした。カウンターに何か当たる音。自分の右肘のあたりを見やると、胡桃がひとつ置かれてあった。リスが小さな丸い目で僕を見上げている。

店主が言った。
「厚介さんに譲るそうです」
「僕に」
ありがとう、とリスにお礼を言った。リスはくるっと身を翻すと、カールした大きな尻尾を左右に振ってどこかへ消えた。

僕は胡桃を手の中で弄びながら、ちびちびとビールを飲んだ。面接でやる気のなさをアピールしすぎたことを、まだ僕は悔いていた。

「今日のおすすめです」
店主が大根の乗った皿を僕の前に置いた。僕は割り箸を入れて一片を口にした。

噛み締めた瞬間、脳が七色に光った。

「虹の味がする!」

店主は満足気にタテガミを揺らして笑った。


私の好きなふみぐら風味を、ところどころに散りばめました。

もともと異世界やSFなど現実にはありえそうもない話が好きで、星新一のショートショートが中学生のときの愛読書でした。だからもう、ふみぐらさんの掌編は、私にとってばっちりストレートど真ん中!

実を言うと、ふみぐらさんをフォローしたのは「東京嫌い」がきっかけでした。(めちゃ最近!)その前からお名前はもちろん知っていたんだけど、「20年の実績があるプロのものかきを、私なんかがフォローしなくても別に」という謎の遠慮というか、敷居の高さみたいなものをこちらで勝手に感じていて、なにやら高尚な方々が交流されているサロンにいらっしゃるお方という印象を持ちながら、遠目に眺めておりました。
フォローしてからもその感慨が抜けず、ふみぐらさんの作品をじっくり読みに行くことはこれまでなかったんです。

今回オマージュを書くために、「熊にバター」に入っている21本をすべて読むにあたり、「スキの連打はかえって失礼にあたるだろうから、本当に好きだと思った作品だけにスキをつけるぞ!」と厳しいルールを自分に課して読み進めた結果、合計21個のスキをつけるに至りました。仕方ない。好きなんだもの。どの作品にも必ずどこかに惹かれるフレーズがあるんだもの。(鼻血が出るほど好きな作品はこれ

いま私は、みんなが推すふみぐら作品を、みんなの感想文を添えて文庫本にまとめる企画をやっています。印刷会社に渡す原稿を作る準備として、みんなの推しふみ作品を縦書きアプリにコピペし、行間を詰めたり漢数字に直したりしているのですが、作業をしながら一つ一つの作品の完成度の高さにいまさら驚嘆しています。

ちょっと想像してみてください。

いきなりですよ?

「あなたのnote作品全部の中から、誰かがどれでもその人の好きな1本を選んで感想書くので黙って見ててね」なんて言われたら、ビビりません?

「え、ちょ、ま、あの、(昔書いたしょーもない記事の数々が頭に浮かんだ状態で冷や汗をかきながら)ちょっと自分でもいろいろ整理したいので、お時間いただけませんか?」ってなる人多いと思うんです。私だったらなる。そんでいま600本ぐらいある記事が、厳選に厳選を重ねて50本ぐらいにまで減ると思う。なかなか言えないと思うんですよ。「どれでもどうぞ」って。

どこを切り取ってすくい上げても、鮮度よく美しくおかしみを混じえながら静かにたたずんでいるふみぐらさんのnote。本当にすごい。選ばれしみんなの推しふみ作品に私もつい読み耽ってしまい、編集作業がぜんぜん前に進まないという幸福感に浸っています。

敬愛するふみぐらさんの作品オマージュを書く機会を与えてくれたともこさんに大感謝!書いたらちょうど500字になったので、寄せ文庫のひと隅にも入れさせてくださいね。

「#花束郵便」にはいまのところ、写真での参加が多いみたい。一輪をそれぞれみんなで持ち寄って、大きな花束をふみぐらさんに届けましょう(^^)


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猫野ソラ
最後まで読んでくださってありがとうございます。あなたにいいことありますように。