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【小説】連綿と続け(50話まで無料)

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2023年9月の記事一覧

連綿と続け・あらすじと登場人物

連綿と続け・あらすじと登場人物

題名: 連綿と続け

(あらすじ)
東京都八王子市で生まれ育った一ノ瀬侑芽は
大学を卒業し、富山県の南砺市役所に就職が決まった。
南砺市では人口と観光客が年々減少し、その回復が急務となっていた。
その為には地域の人々の協力が必要となり、その間に入る担当者として新人の侑芽が選ばれる。様々なことに苦戦する侑芽であったが、足を運ぶうちに地域の人々の暮らしぶりやそれぞれの思いを知り、観光だけに頼らず地域の

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【小説】連綿と続けNo.1

【小説】連綿と続けNo.1

富山県南西部にある南砺市で
とある男女の運命が動きだした

2021年4月1日
南砺市役所・入庁式

市長)え〜、富山県の中でも、我が街は世界遺産に認定された五箇山を有する市です。そやから実質、立山や黒部よりも世界的に有名な土地ながです。やさかい皆さんには誇りをもって、さらなる市の発展に貢献していただきたい。そんな風に思うとります。

市長である壇之浦虎吉の
長い訓話を聞かされている新規採用職員達

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【小説】連綿と続けNo.2

【小説】連綿と続けNo.2

侑芽は一抹の不安を覚えながら
車窓から流れる景色を見つめていた。

そこには日本の原風景とも言うべき風景が広がっている。

砺波平野は庄川と小矢部川に挟まれた扇状地で、
そこかしこに水路がひかれ田畑を潤している。

その水田に点在するのが農家の屋敷で、
屋敷を囲む木々の事を"カイニョ“または"カイナ”と言う。

スギやアスナロ、
ケヤキといった大木や柿の木やカエデ、
ツバキなども植えられている。

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【小説】連綿と続けNo.3

【小説】連綿と続けNo.3

侑芽と高岡は富樫に連れられ
八日町通りにある純喫茶「あいの風」に入った。
席に着くと店主の庄司礼子が声をかけてくる。

礼子)おっ、富樫くん!いらっしゃい。久しぶりやね〜

富樫)ご無沙汰しとります!もう、くたびれてしもたさかい、ちょっこし休憩させて〜

礼子)ええに決まっとるちゃ!それよりこちらのかいらしい(可愛らしい)お嬢さんらは?

富樫)あぁ、そやった!この2人はね、今日から入った新人さん

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【小説】連綿と続けNo.4

【小説】連綿と続けNo.4

侑芽は航に睨まれたまま目を逸らすことができない。
西川と航は小中学校の同級生なのだが、
性格が合わず、
昔からあまり口をきかなかった。
だから大人になった今も、
さして話すこともない。

だが歌子は子供の頃から知っている西川を可愛がっており、
親しく話し込んでいる。
すると玄関先まで
航がドンドンと大きな足音をたててやってき来た。
そしてものすごい剣幕で怒鳴りつける。

航)やかましい!何しに来た

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【小説】連綿と続けNo.5

【小説】連綿と続けNo.5

航は生粋の職人で、
仕事においては実直な性格だ。

しかしそれが災いしてか、
武史や先輩職人である山崎洋平から
紹介された女の子と付き合った時期もあったが、
どれも長続きはしなかった。

何よりも仕事を優先して生きてきたから、
それを理解してくれる恋人はいなかったのだ。

そう思っていた。

武史)お前、そろそろ彼女作ったら?

航)はぁ?そういうの面倒やて前に言うたがに。それにお前やて彼女おらん

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【小説】連綿と続けNo.6

【小説】連綿と続けNo.6

侑芽の噂が街中に広まっている頃、
当の本人は、よいやさ祭りの打ち合わせで井波八幡宮に来ていた。

ここはかつて井波城という中世の城があったという。
戦国時代、越中一向一揆が勃発し
一向宗の総本山となったのが瑞泉寺で
その目と鼻の先にあるこちらが彼らの拠点となった。

今ではその動乱が嘘のように静まり返り
城の痕跡は土塁や枡形など僅かに残っている遺構だけである。

緩い石段を上がっていくと
参道から

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【小説】連綿と続けNo.7

【小説】連綿と続けNo.7

それから数日間、
侑芽は井波よいやさ祭りのパンフレット作りに取り掛かっていた。

デスクワークをしていると、
外回りから戻ってきた高岡が
隣の席にどかっと座り大きな溜め息を吐いた。

高岡)はぁ……そりゃあ誰かさんはやる気になるよねー。あんなイケメンと一緒に仕事できるんだからさー。あたしなんて自転車で走り回って、爺さん婆さんの話を延々と聞かされたり、富樫さんから雑用任されたり…ほんっと不公平だわー

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【小説】連綿と続けNo.8

【小説】連綿と続けNo.8

航の車で井波の皆藤家に戻ってきた侑芽は、
夕飯の準備を手伝った。

歌子)ええから座っとって〜。疲れとるが〜

侑芽)お手伝いくらいさせてください!

歌子)そ〜お?ほんなら野菜切ってくれる?

侑芽)包丁お借りします!

台所を覗きこんだ正也は
微笑ましいといった表情でニヤけている。

正也)そうや!「一ノ瀬さん」って長いさかい「侑芽ちゃん」て呼んでもええ?

侑芽)はい!大丈夫です!

歌子)

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【小説】連綿と続けNo.9

【小説】連綿と続けNo.9

侑芽が航に飴玉を渡す。
それを受け取ろうと航が手のひらを差し出したその時、侑芽が航の手に触れる。

航)え?…な、何!?

「父と同じ手」と呟き
懐かしそうに航の手に触れる侑芽。

航)……!?

航は驚きつつも拒むこともせず、
それを受け入れた。

航)親父さん…何の仕事しとるが?

侑芽)自動車の修理をする町工場で働いています。子供の頃、父と手を繋ぐと分厚くて繋ぎにくくて(笑)ちょうど、こんな

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