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「愛してる」と軽率に言いたい

「好き」とか「愛してる」というセリフを大切な日のためにとっておいたのに、いつまでも出番がこない。

あの日、確かに感じた胸いっぱいに広がる気持ちは、私の喉を通って口から飛び出すのを今か今かと待っているうちに、賞味期限切れになっていた。
お気に入りのワンピースをとっておきの日に着ようと思っていたら、出番がないまま冬が来てしまったように。

いや、ワンピースはまだいい。だって来年着れるから。

でも、あの日あの時あの場で感じた気持ちは、どんどん鮮度が落ちて野菜室の隅っこで干からびている人参みたいになってしまう。
忘れた頃に変わり果てた姿で見つかったそれを、「これ、なんだっけ?」と頭にはてなマークを浮かべながら、ごめんなさいという気持ちでゴミ箱に捨てるしかなくなってしまう。

野菜にも鮮度があるように、気持ちにも鮮度がある。

それが怒りや悲しみならいいかもしれない。
干からびてしまった方が小さくて捨てやすいし。

でも、「好き」とか「愛してる」とか「ありがとう」とかは、干からびさせたくない。
鮮度の高い状態で渡したい。
時間が経って変わり果てたそれらがなんだったのか、私自身も忘れてしまうから。

軽率だと思われてもいい。
軽々しく「君が好きだ!」とか「存在全てを愛してる!」とか言いたい。言いまくりたい。
感情ってそもそも軽率なものでしょう?

練習がてら、まずは猫にでも伝えてみようか。
「生まれてきてくれてありがとう。君を愛してるから長生きしてくれ」と。

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