小説を書き始めた原体験①
はじめに
普段、熱量が湧いたタイミングで小説を書いている。ジャンルは様々だけど最近は専らミステリかヒューマンドラマだ。読者としてもこの二つのジャンルが好きで、部屋の本棚に並ぶ作品の大半を占めている。
ふと「自分が小説を書き始めたきっかけ」を文章に起こしておこうと思い立ち、こうしてキーボードを叩いている。小説を通して伝えたいことを語ることはあっても、自分自身のことを書くのは意外にも初めての体験だ。大きな括りでいうところのエッセイにあたるのだろうが、これはあくまで自分の記録用として書いている意味合いが強い。
とはいえ、普段文章を書くことを趣味としているのだから、最低限人様に見せても恥ずかしくないように書き連ねていこうと思う。
最初は漫画家になりたかった
趣味として文章を書いている人でも、心のどこかで「できれば作家として生きていきたい」という願望があるのではないだろうか。少なくとも自分はそうだ。ただ、それを実現できるだけの腕前も情熱もないのだと思う。今の生活にもそれなりに満足している。だから、作家になるのは自分にとっては「努力目標」に近いもので、そんな気持ちでは到底なることは叶わないのも承地している。
物心ついた頃から作家になりたかったのかというと、そんなことはない。具体的には小学一年生の頃、最初に抱いた夢は漫画家だったと思う。
同級生の他の子に比べると漫画が多い子供部屋だったのも影響してか、その頃から色々な漫画を読み漁っていた。今は潰れてしまったが、近所にブックオフがあったのも大きかったと思う。夏休みの暇な時間は立ち読みをして過ごすのが常だった。
そこからどういう理由で「自分でも描いてみよう」と思ったのかは分からないが、A4のコピー用紙(父親が自営業だった関係で、家には業務用のコピー機があり、用紙も大量に入手できた)をセロテープで貼り合わせて漫画を描いた。主人公は自分と同じ年齢の小学生で、超能力を使って悪の組織と戦うという筋書きだ。
その頃、自分の中で一番格好いいのは「風属性」だったようで、主人公は風を自在に操る超能力を駆使する。ライバルは「氷属性」を、主人公の相方は「炎属性」を、といった感じで随分とオーソドックスなSFファンタジーものだ。
敵キャラクターは「闇」や「竜」や「鉄」など、どことなく悪役が持っていそうな特殊能力を割り振っていてなんだかそれっぽいのだが、今思い返せば当時読んでいた漫画に大きく影響されたのだと思う。
そうやって一応書き上げたものを親に見せ、友達に見せ、そして担任の先生に見せた。友達は「字が汚い。絵がわかりにくい」と忌憚ない?意見をくれたのだが、親や先生は「すごい。おもしろい!」と言ってくれた。
それが忖度であり、大人の対応であることが今なら分かるが、当時の自分は有頂天だった。こんなに評価の高い漫画を描けるのなら、自分もいつか書店に並ぶようなものを作れるに違いない、と本気で信じていた。
井の中の蛙と絵本
通っていた小学校は学年にクラスが二つしかないほどの規模だったが、それでも「自分より絵が上手い」子はいる。小学生の世界での絵の上手さは「模写の上手さ」だと思う。少なくとも自分の狭い世界の中ではそうだった。
自分よりも上手に漫画のイラストを模写できる同級生の存在は、ある種の挫折に近かった。この学校で唯一の漫画家、というアイデンティティが損なわれるわけだから、まあそりゃあそうだ。
その同級生にしても、なにもイラストレータになるわけでもなく、どの学校にもいる「絵の上手い子」ぐらいのスキルだったと思うが、兎にも角にも漫画家になるという夢は早くも諦めることになった。
そこから少し年月が経ち、小学校四年生ぐらいのことだったと思う。図工の授業で「絵本を作る」という課題があった。
これは大人になった今、周りの話を聞いても同じようなことをした人がいないので、自分の小学校の、もしかしたら自分の学年の時だけ先生の気まぐれで行われた授業なのかもしれない。
テーマは特に指定されなかったが、小学生の頃からバチバチのバトルファンタジー漫画を描いてきたので、ここでもファンタジーものを主軸にした。
ある日、主人公は突然異世界に飛ばされて、道中で色々な仲間に出会いながら元の世界に戻るために奮闘する。そんなあらすじだ。今でいうところの「異世界転生モノ」に近い。
今でもそうなのだが、ストーリーをサクサクと組み立てるのは割と得意だ。粗く全体の骨子を組み立てて、矛盾点をバリ取りのように潰していくのが普段のスタイルだが、それはその頃から確立されていた。
同級生の中には、その時初めて物語を作る。という体験をした子も多い。片や一年生の頃からバリバリ作品を書き上げてきた自分は、ここでもとてつもないスピード感で絵本を仕上げた。当然時間は余るので、それならと「続編」をどんどん書き進めていく。次第に「絵本」というより「小説」くらいのボリューム感となっていったそれが、人生最初に書き上げた小説なのかもしれない。
そこであることに気づく。どうやら自分は「文章を書くことが特に苦にならず、何なら得意だ」と。
というのも、周りを見てみると最初の一行すら書き出せずにウンウン唸る同級生もいる。書いてはみるが、明らかに苦行だといった風に鉛筆を走らせている同級生もいる。それに比べると自分は、文章を書いて、それに合うイラストを描くというこの作業がちっとも苦じゃないのだ。
人ができないことが自分にはすんなりできる。そうか、自分は絵を描くことよりも文章を書く方が向いているのかもしれない。そう気づいたのだ。
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