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【エッセイ】Nに捧ぐ…

この時期になると、あなたを思い出す。

浅黒い肌に白い歯を出して、私以外の人に屈託なく笑うあなた。

私はそれを、遠くから見てることしかできなかった。

あなたを想うあまり、うまく笑えなくて、話したくても、何から話せば良いか分からなくて、結局…遠巻きから仕事をするあなたを見つめることしか出来なかった。

あなたに少しでもよくみられようと、化粧も覚えて、毎日身綺麗にして、あなたの帰る時間を見計らって、こっそり目の前を通り過ぎて、着飾った姿を見てもらうような真似もした。

あなたと仲の良かった、共通の同僚の方に頼んで、誕生日や好きなもの聞いて、甘いもの好きだって言うから、クッキー焼いてその人伝に渡してもらったら、めちゃくちゃ美味いって言ってくれたの、私一生忘れない。

そうしてバレンタイン。

勇気を出して、私あなたに告白しましたね。

下ろし立てのペンで、真っ新な便箋3枚に、泣きながら書いたあなたへの切なる思いを綴った2月13日は、今でも思い出すと胸が痛みます。

渡した後は、あなたの顔が直視できなくて、益々私はあなたから距離を取って、仲良くなるどころか、更にあなたは、遠い存在になった…

1か月後のホワイトデー。

あなたは私に、お返しをくれた。

瀟洒な箱に入った、見たこともない高級そうなチョコレートと一緒に、素っ気ない無地のレターセットに書かれていたのは、分かりきってたことだけど、ごめんの文字が。
 
話したこともない人に好きだと言われても、困るのは当たり前よね。

分かりきった事だったけど、バレンタインからホワイトデーまでの短い1か月。

少なくともあなたは、私のことを考えてくれた。

どう返事をしようか、思案してくれた。

どんな物を贈ろうか、迷ってくれた。

それだけで、十分だった。


それから程なく、私はお見合いして結婚して退職したけど、あなたからもらった手紙とチョコレートの箱は、ついぞ捨てられず、嫁ぎ先まで持ってきてしまいました。


風の噂で、あなたがまだ独り身だと聞いて、何度か会いに行こうかと悩みましたが、会ったところで、何を話せば良いか分からないので、こうして遠くで、密やかにあなたの健康と幸せを願うだけにいたします。 
 
どうか、どうか、幸せになって下さい。

あなたの幸せと笑顔が、

私の、救いであり、

幸せです。

愛してます…

永久に…

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