【映画感想】『ほつれる』 ★★★☆☆ 3.6点
浮気相手の急死により人生が狂い始める女性・綿子の生活を描いた一作。主人公の浮気が徐々にバレていく様が丁寧に描かれ、生っぽい抑制的な俳優陣の演技トーンもあり、かなり胃が痛くなるような作品……のはずなのだが、実際には軽快で見やすい作品となっている。
この作風を醸成している一番の要因は編集の軽やかさであろう。本作はとにかく作品のテンポが良く、少しでも空気が間延びしそうになるとすかさずシーンがばっさりカットされて、次へ次へと物語が展開していく。しかし、だからといって語り口が拙速というわけでもなく、むしろ、語るべき最小限の内容を的確に積み上げていく作品と言った方が適切であろう。
主人公の綿子はかなり金遣いが派手で、作中で頻繁に外食したり、旅行したり、外泊したりを繰り返すのだが、前述のハイテンポな構成とこのブルジョワジーな描写が組み合わさることで独特な小気味よさが生まれているのである。
さらに、この心地よい軽妙さで物語がトントンと進んでいってしまう感覚が、主人公・綿子が浮気相手の木村の死後、無味乾燥な毎日をだらだらと過ごしてっている感覚としっかりとリンクしている。本作は、おしゃれな虚無感とでも言うべき感覚を引き起こす作品となっているのである。
本作では、演技力の確かな俳優陣による生っぽいやり取りが作品の実在性を高めているが、その中でも主人公の綿子の夫である文則を演じる田村健太郎の演技が素晴らしい。
家族思いで妻への理解もある決して悪い人間ではない人物なのに、理屈っぽくねちねちっと責め立ててくるどうにも嫌な感じの男性という絶妙な人物像をしっかり体現している。絶妙に人を苛つかせる高さの声で、絶妙に嫌な気持ちにさせる語り口で、着実に綿子をいらつかせ追い詰める文則の姿は必見である。
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