【映画感想】『映画プリキュアオールスターズF』 ★★★☆☆ 3.9点

 現在放送中の「ひろがるスカイ!プリキュア」を主軸としたプリキュアシリーズ20作品のクロスオーバー作品。作品の垣根を超えたクロスオーバーの楽しさを担保しつつ、プリキュアシリーズとはどういった作品群なのかという制作側の解釈と定義付けがメタ的に提示される作品となっている。


 本作のラスボスはシュプリームと呼ばれる怪物で、世界の破壊と創造を行うことができるというかなりの規格外の敵なのだが、このシュプリームがプリキュアとの戦いを通して、プリキュアに興味を持ち、自身もプリキュア・キュアシュプリームへと転生することが物語の発端となっている。

 このキュアシュプリームというのがかなり特異なキャラで、ドレス風の衣装を纏った少女といういかにもプリキュアらしい姿をしているにも関わらず、友情や愛情といったものには一切に関心がなく、自身がプリキュアたちを真似て作った妖精のプーカも戦闘センスがないと見るや切り捨てる非情さを有している。

 このキュアシュプリームに対し、プリキュアたちが友情とチームワークで立ち向かっていくというのが本作の流れなのであるが、この作品設定が非常にメタ的で、要するに本作は「プリキュアって、女の子たちがフリフリした格好に変身して戦うやつでしょ?なんか、妖精とかつれてさ」という雑なパブリックイメージに対して、「友達同士が刺激しあい、支え合って、脅威を乗り越えるのがプリキュアの肝です!」という制作陣のプリキュア像の定義をぶつける作品なのである。

 最終決戦ではこの主張を、過去のプリキュアシリーズの名シーンを挿入することで補強していき、ラストではプーカが変身したキュアプーカがキュアシュプリームに対して手を差し伸べることで、まがい物のプリキュアだったキュアシュプリームが本作が提示する意味での本当のプリキュアになることで物語は幕を下ろす。この巧みな作品テーマの主張の方法には、かなり膝を打たされてしまった。


 一方で、こういった強いテーマ性を持ったストーリーが展開される一方で、異なる作品同士のキャラクターが邂逅することで起きるクロスオーバーらしい化学反応もしっかりと堪能できる作品ともなっており、特に前半は4チームに別れたプリキュアたちのドタバタをシンプルに楽しむこともできるようになっている。また、バトルシーンの作画も非常に素晴らしく、飛んで跳ねての激しい肉弾戦をふんだんに楽しめるいわゆるアニメーションの気持ちよさも備えた作品となっている。


 本作のテーマは「プリキュアとは何なのか」だったわけだが、そもそもこういった問いかけの作品が成立するためには、プリキュアが誰しもが「プリキュアってなんとなくこんなのでしょ」というイメージを持っているレベルのポップカルチャーアイコンになっていなければならない。そう考えると、本作は初期の作品を見ていた子どもたちが親になっている20年のタイミングでやっと成立する作品であろうし、このタイミングで制作側のシリーズの再定義が描かれるのは非常に興味深いことであると感じる。

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