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実録!とある愛媛サポが見た転落事故までの流れ

筆者の目の前で起きた転落事故の経緯

 2023年5月3日、J3リーグ「アスルクラロ沼津対愛媛FC」戦が行われた愛鷹広域多目的競技場で起きた愛媛FCサポーターの集団転落事故。
 残念ながら、被害者のアスルクラロ沼津サポと、加害者兼被害者の愛媛FCサポに、外野の他サポーターを巻き込んでの非難、中傷合戦に一部過熱している(まあ当然なんですけど)。
 しがない愛媛サポーターの一人、しかも愛媛県民でもない、なったこともない。でもなぜか愛媛FCを応援している。さらにアウェイ専門サポという微妙な存在でありながら、たまたま発生した「転落事故」の目撃者となった筆者。
 意見や対策を論じた上で、事故原因について再発防止を冷静に考えてもらおうなんて「甘い、甘すぎる」考えではあります。
 ここで書き記すのは「実際」に近い「事故までの経緯」です。

のどかな試合開始前

どーも「なんとなく」予兆はあった愛媛サポの雰囲気

 関東在住の筆者は、東京駅での自由席グリーン車争奪戦に無事勝利し、熱海で乗り換え沼津駅についた、、、はずが、降りたのは一つ手前の三島駅だった。
 「沼津も三島駅みたいだな」と沼津駅のバス乗り場だと完全に思い込んで、バス乗り場をしばらくうろうろしてようやく間違いに気づき、次の列車に慌てて乗って、190円を無駄にして沼津駅に着いた。
 そして何とか目標の愛鷹競技場行き臨時バスに間に合い、ラブライブのラッピングバスに揺られながら、まさしく山の上にある「愛鷹広域多目的競技場」(以後愛鷹競技場)にたどり着いた。
 まずは遠征民の使命であるスタグルを食す事で小腹を満たした。

ラブライブバスで和む(富士急シティバス)

 さらに目いっぱい沼津のスタグルを手に持ち、ビジター席である芝生席に座り込んだのは、試合開始の小一時間前の13時過ぎであった。  
 天気は快晴。初夏を思わせる陽気となった。ポールにはチームのフラッグと一緒に、鯉のぼりもやや強い風にたなびいている。 
 愛媛のコアサポーターのよく見るメンツは半分近くが入れ替わっていた。昨年ヴァンラーレ八戸戦のアウェイでも大分見ない顔が増えたように思ったが、確信できた。 
 コロナ騒ぎもあって、中高年のサポ、若い女性陣のサポーターは減ってしまい、元気の良い「お兄ちゃん」連中に入れ替わっていたのだ。試合前から身体をぶつけ合い、はしゃぐ若者達。
 高齢化「だけ」が進む、アイスホッケー界から見れば羨ましい限りだ。
 問題の柵は、実は筆者も弾幕を見がてら、なぜかこの時、不安ではないのだが、妙に、何となく、「違和感」があったことは覚えている。
 そう、事故が起こったからではなく、虫のしらせとも言うべき違和感がこの時すでにあった。 
 実はこの時、下まで1.5メートル(1.25メートルという報道あり)の高さの転落防止の柵にしては

「危ないなあ」

との印象が筆者には確かにあったのだ。過去に愛鷹とおなじような陸上競技場での観戦を何度もしているが、特に一度もそう思ったことはない。
 頼りない柵、なぜだかその日だけはそう感じたのだ。
 コールリーダーの立つ脚立は柵の高さとほぼ同じ、注意書き(近づくな、もたれかかるな等)はその後ろの柵に1枚貼ってあるだけであった。
 警備員の姿も1名ぐらいしか見た記憶しかない(居たところでどうにもならないが)。
 愛媛サポーターは、コアサポが呼びかけて密集してもせいぜい50名。芝生にゴロゴロしながら見ているサポが30名ぐらいであろうか。
 そして試合は開始した。

文字通り、目の前で人が消えた!!

柵とともに落ちた弾幕(試合終了後)

 試合は、開始からアスルクラロ沼津が主導権を握っていた。
 開始からほぼ一方的に愛媛陣内で沼津が攻めていた。
 だがフリーキックからの一瞬の隙をついて、愛媛の茂木が抜け出し、見事に16分、先制弾を愛媛が決めた。
 このゴールがあまりにあっけなく決まったので、実はコアサポ連中も含めてゴールしたのかどうか数秒わからなかった。
 「あれ?入った?」との誰かの声で歓声に変わった。
 愛媛のコアサポの盛り上がり方は、少数とはいえホームニンスタでの盛り上がりを彷彿させるくらい激しかった。
 若い!!でもついていけない!!!(おっさんには)
 この日、筆者はいつもなら普通に混ざりこむコアサポのノリに、まるでついてはいけなかった。
 チャントやコールも
 「えーひーめーえふしー」ドドンガドンドン!
 と言う、ドがつく基本コールにはついていけたが、他はどうもいつもより声がでない。自分が立った位置も爆心地?ではあるが、その一番上段にいた。いつもならもう少し輪の内側に居るのが常だったのに。
 なんか今日の自分は、どうも輪の中に入りたくない、ノリについていきたくない。そんな違和感が試合中ずーっとあった。自分でも不思議だった。
 その違和感が結果として、筆者は転落せずに済むことになるのである。
 試合は、この愛媛の先制点が大きかった。
 沼津は35分に同点ゴールを決めたが、逆転まではできなかった。
 凌いだ愛媛は助かった。勝ち越せなかった沼津は戦略的に失敗していた。
 後半も相変わらず沼津が押してはいたが、愛媛のピンチだけではなく、チャンスもはるかに増えていた。
 愛媛の得点の臭いが十分に出てきた試合最終盤。コアサポの応援熱量も最高潮に達していた。人数は少ないが熱量は相当あった。それは間違いない。
 そして88分、運命のゴールが沼津のネットに突き刺さる!しかも愛媛サポーターのまさに目の前で!沼津の守備をきれいに崩して行友がフリーになり、プロ初ゴールを決めたのだ。
 苦しい試合展開での事実上の決勝ゴール。プロ入り初ゴール!愛媛FCの選手も喜びを爆発させた!そりゃあそうだ!これで喜ぶなと言う奴はサッカーを知らな過ぎる!
 選手が愛媛サポーターに向かって駆け寄る。陸上競技場なので、トラックのラインがある分、ピッチからは相当距離がある。 
 だが選手らは、大喜びでサポーターに向かってどんどん近づいてくる。
 (おいおい、もしかしてこっちまで来る気かよ・喜&複雑)
 筆者は実際、ホントにそう思った。まさかわざわざサポーターとハイタッチしようという勢いで来るのかよ!と。そして(何かが)マズイな、とも。
 もう虫の予感だとしか説明ができない。
 柵にはすでにヒートアップした若いコアサポが殺到していた。柵から身を乗り出したり、柵からぶら下がるサポーターが絶叫していた。
 (こりゃあぶねーなー)一瞬ホントに思いましたよ。
 そして、選手が真下に駆け寄った瞬間、事故は起こった!
 「あー!」と言う声だけとともに、柵が前に折れ曲がり、一斉に十数人の人間が一瞬で1.5メートル下に落下したのだった!!!もう一瞬だった。

14人が転落、1人重傷、9人が軽いケガ

 この日のDAZNが最もきれいに事故の映像が捕らえられている。筆者もモロに抜かれていた(教えないけど)。
 すでに柵にはコアサポが殺到(と言っても十数人)が並んで埋まっている。
 筆者も含め、残りのサポーターは柵をつかんでいる連中を後ろから押したわけではない。
 一列目の人間の重量に単純に耐えきれる構造の「転落防止柵」では無かったのだ。折れた柵の根元は、ほとんどコンクリートに突き刺さっていなかった。「こりゃ折れるだろう」と見た人間なら誰もが思ったことだろう。
 コールリーダーをはじめ、落ちた人は自力で、または選手から押し上げられて、芝生席に戻っていった。
 選手からは「大丈夫ですか?」としか言いようが無かったとは思うが、相当心配してくれて声をあちこちかけていた
 落ちたのはほぼ男性で、スネを擦ってしまい、血だらけになっている人もいた。
 それでも皆が笑顔があふれていた。「落ちた瞬間、ダゾーンでバッチリ映っていたらいしいよ」とか「喜んでアドレナリンが出てるからあんまり痛くない」という声が聞こえた(後から来るのだろう)。
 そう、皆が笑いごと程度の擦り傷で済めば良かったのだ。
 走ってきたレフェリーが苦虫を嚙み潰したような表情で「はじめていいですか!?」と言って来た。選手らが返事をして戻っていった。試合再開までは数分遅れただけだった。
 だが、女性が1名上がって来ない。起き上がってはいるが、額の付近をずっと抑えたままだ。
 筆者はその女性と周辺の動きを注視していた。
 「大丈夫であってくれ、軽く済んでいてくれ」と。
 アスルクラロと愛媛のスタッフが多数集まり、すぐにチームドクターもやってきて女性に応急処置を始めた。指を女性の前で見せて、何本に見えますか?という質問をしている。案外、重傷なのか。そうだと困る。
 試合も再開した。愛媛のコアサポの応援も再開した。
 正直「応援を再開しない方がいいんじゃないか」と思った。
 恐らくアイスホッケーなら他のファンに「やめとこう」と言ったかもしれない。だが愛媛FC界隈では、単なるサポーターに過ぎないので言えるわけもない。しかも試合展開が応援せざるを得ない状況に追い込まれていた。
 逆転された沼津の再猛攻だった。
 まさに最後の最後まで猛攻だった。
 「え-ひめ!えふしー!!」コールも試合終了まで皆が必死に叫んだが、筆者は女性の負傷を気にしてあまり叫べなかった。
 とにかく早く試合が終わってくれとだけ、内心願っていた。試合には集中できなく、女性の負傷に気が気でなかった。
 ラストプレイ、決定的な沼津のシュートはポストに当たり万事休す。
 試合は長めのロスタイムの末、1ー2で愛媛の勝利で終わった。
 愛媛側の勝利の盛り上がりが再び最高潮に達した。
 しっかり勝利のラインダンスも皆でやった。
 「次も勝ちます!」と選手も言ってくれた。
 女性は試合終了後も落ちた場所で応急処置を受け続け、最後まで額を抑えたままだった。大丈夫のように見えた。
 筆者は引き上げてシャトルバスに乗るとき、救急車を目撃した。念のために呼んだのであろうと思った。
 弾幕の取り外しを行うなどしていたコアサポは若干事情聴取されたようだ。
 筆者はTwitterにアスルクラロ沼津側へのお詫びの意味も込めて、事故画像を投稿した。投稿するとテレビ局から取材依頼が複数来た。
 某テレビ局から事故の取材を受けた際に「女性が骨折した」と初めて知らされて驚いた(眼底骨折の重傷だった)。

筆者の思う事故の原因と対策

 実は4局のテレビ局から取材の打診があり、全国局からは電話取材を受けた。その日の内に全国ニュース番組で自分のコメント音声が全国に流れた。
 愛媛県の同じ系列ローカル局でも翌日にあらためて放映されたらしい。
 地元局からはZOOMで取材を受けた。恐らく静岡県内では筆者の顔まで放映されたとは思われる。
 取材内容は「いつ」「どこで」「誰が」「どのように」事故が起きたか、事故についてどう思うか?であった。そこで自分も事故の原因を考えさせられた。

  • 愛媛が逆転ゴールを決めた(逆転しなければ事故は起きていない)

  • 選手がハイタッチしようとサポーターまで駆け寄ってきた(一番の原因)

  • 危険と思うレベルでサポーターが柵から身を乗り出した(次の原因)

  • 柵がどの程度の耐久性なのか、管理者も運営側も誰も興味がなかった

  • 運営側の対策は注意の張り紙1枚であった(いずれは起きる事故だった)

 一番の原因は、「選手連中がサポーターに近づきすぎた」だと思います。
これが大きい。
 試合が「引き分け」ないし「愛媛負け」ならば事故は起こらなかったであろう。
 逆転弾が後半の最終盤に愛媛側ゴールで決まらなければ、選手は駆け寄って来なかったであろう。
 選手が駆け寄って来なければ、愛媛サポーターは「別に柵から十数人が身を乗りだしたりはしない」であろう。
 施設管理者も運営のアスルクラロ側も、柵の耐久性をご存じであったならば、最初から柵の前に「立ち入り禁止区域」を設けたであろう。
 転落した仕切り柵の前に、工事用のバリケードなり、入るなロープでも簡易的に設置さえしていれば、落ちる人がでるまで柵に殺到することはなかったであろう。
 その上で、警備員が配置されて監視、声掛けすべきであろう(J2だとやってますけど、J3の集客で運営にやらせるのはどうでしょね)。
 小声で申したいのは、たかだか愛媛サポーターの人数程度で、そもそも
「柵が落ちちゃダメ」なんです。安全的なモノは絶対に壊れちゃダメなんですよ(無理な話でも安全衛生的には求められる)。
 老朽化や破損等は無いと言い張ってますが、それは被害者側の言い分だとしても苦しい。そもそも構造的、想定的な欠陥なんじゃないかと言われても仕方がないわけです。

勝利のラインダンス 

 長々とここまで読んでいただいたのならばわかる通りで、原因は複合的で、何らかの要素が一つでも欠けてさえいれば「事故は起きなかったであろう」と言えます。全部揃っちゃったんです。 
 でも、「そもそも事故とはそういうモノ」なんです。 
 筆者は第一種衛生管理者を一応持ってるので、安全衛生的に書いておきます。思えばヒヤリハットだらけでした。          
 愛媛サポーターが起こした事故とはいえ、(建前でも)安全安心なスタジアムを「目指さないといけない」以上、施設管理の方も色々言われて止む無しどころかむしろ当然なんです。
 過去に同様の事故が他の競技場型でも発生してますが、いつの日かは愛鷹でも起こる事故でした。 
 アスルクラロ沼津は先日、座席最前列を立ち入り禁止区域にする対策を公表しました。 
 筆者はそれで良いと思います。 
 以上が筆者が見た経緯と対策です(了)。

 
 
 

 




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