ヒモと猫
私が養っていた、霊感オカルトアル中サブカル左翼サイコパスオカマのヒモ(情報量が多すぎる)と、まだ仲良く暮らしてた頃の話をします。
思い返すと本当に意味がわからなかったので。
ヒモは、道端でよくいろいろなものを拾ってくる。謎のチラシや知らない人の名刺にはじまり、謎のスイッチやパーツを拾ってきたりしていた。なんだか犬や猫が、
「こんなのあったよ!」
って感じで何でもかんでも拾ってくる様子を思わせ、ちょっと笑える。
夏には、
「孵化する直前のセミの幼虫ってめっちゃかわいいんだよ!見せたいから探しに行こうよ」
と言うので、セミの鳴く夏の夕暮れに近所の公園を三軒ハシゴし、やっと目当てのものを見つけた。
セミの幼虫は黄緑色で羽根が透き通っていて、確かにきれいだった。蝉が羽化し、羽が緑から茶色になっていく様子を二人で見守った。
それからはセミの幼虫に関心を寄せるようになったらしく、
「アリに食われそうになっていたから」
などと言っては、セミの幼虫を何匹も拾ってきて、うちのベランダで羽化させようとしていた。しかし、いずれも失敗に終わっていた。
また、ヒモにまだ自分の家があった頃は、落ち葉を大量に拾い集めてきて家中に敷き詰め、その上で寝たりしていた。YouTuberがやりそうなことを、ただ単に趣味としてやっていた。
あるとき喧嘩をして、ヒモが家を出て行った。ヒモはしばらくして戻ってくるやいなや、
「サプライズだよ!」
と言って、おもむろにトラ柄の野良猫を私の部屋に解き放った。その猫は、近所でたまに見かける猫だった。
「えっ、なに!?」
「仲直りしたかったからさ…猫好きだし、喜んでくれるかなと思って。あと、ウケるかな?とも思って」
「なんで笑いをとろうとしてくるの」
ヒモがネコを拾ってきた。
怒りは確かに吹っ飛んで、もはやなんとあらわしていいかわからない感情になった。
ヒモに捕らえられてうちに解き放たれたネコは、まったく動じることなく、私の部屋をうろうろする。
「縦横無尽にうごきまわってる!」
と、ヒモは嬉しそうにする。ネコはベッドに飛び乗ると、そこでくつろぎ始めた。さすがにダニやノミなどが気になったので、どかして床に下ろしてみても、またそこに戻ってきた。
ヒモは、
「そこが気に入ったみたいだね!」
と満足そう。
「えっと…、返してこようか」
「やだ、寂しい。こいつ飼おうよ!」
「だめ、元いたところに返してきて」
私は、捨て猫を拾ってきた小学生男子のお母さんみたいなセリフを吐いていた。
猫はかわいいし、そりゃ飼いたい。後ろ髪引かれる思いもあったけど、元いたところに戻してきたのだった。
私の家の近所は野良猫が多い。ヒモは猫好きの私の影響で、猫に興味を持ち始めたようだった。
ただ、どちらかといえば猫はツンとしているほうが好みのようで、
近所に居るめちゃくちゃなついてくる白猫のことは、「娼婦みたいでなんかやだ」と言い、挙句には、「娼婦猫」とあだ名までつけていた。
私たちは、野良猫たちを行動によって勝手に3種類に分類していた。
近づくと逃げる「逃げ猫」、触らせてくれる「触り猫」、抱っこさせてくれる「抱き猫」。
「コンビニのあたりで抱き猫見つけたよ」
などと情報交換し、より良い猫ライフを楽しもうとしていた。
そこに愛嬌抜群で誰にでも抱かれる「娼婦猫」が加わったというわけである。
いつも二人で観ていた『ムーの世界』というオカルト番組がある。この番組で紹介されていたオカルト情報を、ヒモと私は色々と試していた。
ご利益があると言われた呪文があればすぐに唱えてみるし、悟れる瞑想法が紹介されたら瞑想してみるし、スティルトンチーズを寝る前に食べると明晰夢が見られると聞けば食べてみるし…といった具合である。
要するに私たちにとってバイブルみたいなものだった。
その番組で、とあるオカルト研究家が、
「猫はいつも猫会議で、冷蔵庫についての話をしている」
と言っていた。うん、わけがわからないと思う。…つまり、
「うちのご主人、冷蔵庫のなかがごちゃごちゃしているんだよねー」
「うちのご主人もだよ!なんで人間って冷蔵庫のなかちゃんと片付けないのかねえ」
みたいな話を、猫たちはいつもしている、ということだった。
何でそんなことを人間が知り得るのか、冷蔵庫の話題でそんなに猫同士の話が持つものなのか、そもそもなんで冷蔵庫なのか…その辺はよく分からないが、とにかく猫に冷蔵庫の話をすると驚かれ興味を持たれるということだった。
そのためヒモは、道端で猫を見かけるたびに、
「すいませーん!わたくし◯◯という者ですが!冷蔵庫についてお伺いしたくてですねー!!」
と、いつも大声で話しかけていた。
しかし猫は興味を持つどころか、怪訝な顔をして一目散に逃げていった。猫ってこんなに怪訝な顔をするんだ…と私は感心した。
「『なんでこいつ人間なのに冷蔵庫のこと知ってるんだ?』って思って怖くなったんだと思う。だから逃げた」
とヒモは言っていた。そしてまた他の猫に、
「おそれいります、冷蔵庫についての話なんですけどー!」
と話しかける。その前向きな姿勢は見習いたい。 もちろん本当のところはどうだったのか、猫に聞いてみないとわからない。
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