スマートフォンなどのデバイス使用するアプリを開発し、それをユーザに購入してもらう、または、アプリの中で課金してもらう場合、開発者が受け取る売上や支払う手数料について、消費税の観点から判断が難しい部分がある。開発者、プラットフォーマー(Apple/Google/Amazonのような会社、以下PFerという)、エンドユーザとの間にどのような契約が結ばれているかを確認し、消費税について、どのように処理を行うのが適切かをApple/Google/Amazonを題材に考察する。
ここでは、開発者は国内の事業者として考える。
私自身は単なる一会社員で資格のある専門家ではないため、この考察を基に行った処理によって被った損害等は補償はいたしかねます。また、誤っている部分があれば優しくご指摘ください。
要約
Apple
売上:エンドユーザと開発者との直接契約で、開発者がアプリやコンテンツの使用許諾をエンドユーザに与えている。その対価をエンドユーザから開発者がPFer経由で受領。あくまでPFerは開発者の代理人。
消費税の処理は、電気通信利用役務の提供の内外判定による。
手数料:代理人が国内/国外のどちらに所在しているかによって、事業者向け電気通信利用役務の提供に当たるか判断。
国内のエンドユーザの代理人は国内事業者、国外のエンドユーザの代理人は国外事業者。
Google
売上:エンドユーザと開発者との直接契約で、開発者がアプリやコンテンツの使用許諾をエンドユーザに与えている。その対価をエンドユーザから開発者がPFer経由で受領。あくまでPFerは開発者の代理人。
消費税の処理は、電気通信利用役務の提供の内外判定による。
手数料:代理人が国内/国外のどちらに所在しているかによって、事業者向け電気通信利用役務の提供に当たるか判断。
代理人はすべて国外事業者。
Amazon
売上:エンドユーザと開発者との直接契約で、開発者がアプリやコンテンツの使用許諾をエンドユーザに与えている。その対価をエンドユーザからAmazonが受領し、開発者に対価の一定割合をロイヤルティとして支払。
消費税の処理は、電気通信利用役務の提供の内外判定による。
【2023年7月20日追記】
ただし、ロイヤルティは税抜額を元に算出されるため、国内のエンドユーザの売上に対するロイヤリティには消費税が含まれていない可能性がある。
手数料:手数料はなし。
各PFerの規約
各PFerの規約はネット上で確認することができる。
・PFer-開発者間の契約
Apple:Apple Developer Program License Agreement
Google:Google Play デベロッパー販売 / 配布契約
Amazon:Amazon Developer Services Agreement
・PFer-エンドユーザ間の契約
Apple:Apple メディアサービス利用規約
Google:Google Play 利用規約
Amazon:Amazon Androidアプリストア利用規約
各PFerの契約形態の共通点
概観すると、3社とも以下の特徴がある。
・各PFerは、ストア上で開発者のアプリやコンテンツをエンドユーザが表示、ダウンロード、決済ができるようにする機能を提供する
・アプリやコンテンツは購入するのではなく、アプリやコンテンツ使用の許諾(ライセンス)をエンドユーザに与える
・ライセンスを与えるのは、PFerではなく開発者
つまり、一般に言うアプリ購入やアプリ内課金に係る売上については、開発者とエンドユーザ間のアプリやコンテンツの使用許諾にかかる対価、ということになる。
特にApple/Googleでは、開発者の代理人であることが明記されている。エンドユーザから代金が支払われ次第、PFerは開発者の代わりに代理人としてエンドユーザにライセンスを与えるということになる。
Amazonでは、代理について記載はないが、契約当事者がAmazonではないことは記載されている。
以上から、明示的ではないにせよ、PFerは開発者の代理としてエンドユーザにアプリやコンテンツのライセンスを付与するサービスを提供していると考えて良さそうだ。
【Appleの場合】
【Google】
【Amazon】
各PFerの契約形態の相違点
PFerの契約主体
消費税の課税関係を考える上で、開発者と契約しているPFerは一体誰で、その法人は日本にあるのかないのか、という部分を特定する必要があるが、各PFerでこの点が異なっている。
Appleに関しては、日本でのアプリの配信の代理人は日本法人であるiTunes株式会社、日本以外は海外法人となっている。
Googleに関しては、全て海外法人が配信の代理人となっている。
※Google Play ユーザーへの配布がサポートされている国や地域 参照
Amazonに関しても、全て海外法人が契約主体となっている。
実は上記の海外法人のうち、登録国外事業者になっている法人もあるのだが、今回の話では関係がないので注意。登録国外事業者はいわゆる「消費者向け電気通信利用役務の提供」に関する制度で、後述する「事業者向け電気通信利用役務の提供」の話には関係がない。
売上と手数料の関係
Apple/Googleは、エンドユーザから徴収した売上を開発者に支払う。
また、開発者からApple/Googleに支払うべきサービスの手数料(上述のApple/Googleが代理するアプリ配信へのサービス料)が請求される。これは売上の入金のときに差し引かれる。
Appleの場合
Googleの場合
一方で、Amazonでは、エンドユーザから徴収した価格のうち、定められた割合がロイヤルティとして開発者に支払われる。
エンドユーザから徴収した売上の処理
開発者とエンドユーザは直接契約しており、エンドユーザに与えたアプリやコンテンツの使用許諾の対価をPFer経由で開発者は受け取ることになる。これは消費税の観点ではどのように解釈するのが良いだろうか。
消費税法第2条第1項第8号の3により、「電気通信利用役務の提供」に当たると考えるのが妥当なように考えられる。
(著作権の貸付に当たる可能性も考えられるが、同法第2条第2項に「この法律において「資産の貸付け」には、資産に係る権利の設定その他他の者に資産を使用させる一切の行為(当該行為のうち、電気通信利用役務の提供に該当するものを除く。)を含むものとする。」とあるので、当てはまらないと考えてよいと考える。)
電気通信利用役務の提供については、役務の提供を受けた者の住所等により、国内取引か国外取引かを判定することになる。
国内取引では課税売上、国外取引では不課税売上となる。
上述の契約形態から、Apple/Googleについては、エンドユーザと直接契約したアプリやコンテンツの使用許諾の対価をApple/Google経由で受け取ることになる。
このとき、国内のエンドユーザからの売上については、課税売上、国外のエンドユーザからの売上については、不課税売上として処理することができる。
また、Amazonについては、エンドユーザと直接契約したアプリやコンテンツの使用許諾(=「電気通信利用役務の提供」)の対価の一部がロイヤルティとして入金されるので、国内のエンドユーザからの売上に対応するロイヤルティを課税売上、国外のエンドユーザからの売上に対応するロイヤルティを不課税として処理することができる。
【2023年7月20日追記】
ロイヤルティは税抜額を元に算出されるため、国内のエンドユーザの売上に対するロイヤリティには消費税が含まれていない可能性がある。
そのため、国内のユーザの売上に対するロイヤリティについては判断を保留する。
もし、Amazonが国内のユーザの売上にかかる消費税を納めているとしたら、不課税売上としてもいいかもしれない。
余談となるが、国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&Aの2−2には、今回の考察に似た取引が掲載されているが、この場合は、代理店に開発者が著作権の譲渡・貸付を行っているパターンのため、今回考察している取引とは異なると考えられる。
PFerに支払う手数料
Appleの場合、エンドユーザの所在地が国内か国外かによって、代理人が異なる。
エンドユーザが国内にいる場合、その売上に係る手数料は国内法人であるiTunes株式会社に支払うこととなる。
この場合、国内取引のため、手数料は課税仕入れとなる。
また、エンドユーザが国外にいる場合は、その売上に係る手数料は国外法人に支払うこととなる。
この手数料に関しては、「事業者向け電気通信利用役務の提供」に当たると考えられる。
(個人の一般ユーザも開発者となれるが、継続・反復してアプリの配信を行い対価を得るのは、消費税法上の事業に当たるため、事業者向けとなるとのこと。国境を越えた役務の提供に係る消費税の課税に関するQ&A 問3-1※印以下参照)
「事業者向け電気通信利用役務の提供」は、役務の提供を受けたものが、国内にいる場合は、その役務提供の支払は特定課税仕入れとなるため、今回のエンドユーザが国外にいる場合の売上に係る手数料は、特定課税仕入れとなる。
Googleの場合、エンドユーザの所在地が国内でも国外でも、代理人は国外事業者である。
そのため、売上に係る手数料は前述のとおり、特定課税仕入れとなる。
Amazonの場合、売上の一定割合をロイヤルティとして受け取る契約となっているため、売上に係る手数料は発生しない。
Amazon側の取り分(開発者がロイヤルティとして受け取れない分)が実質的にはAmazonへの手数料ということになるが、契約上も明示的に手数料などの記載がないことから、売上の一部としてのロイヤリティの計上のみで事足りると考える。
まとめ
PFerによって、共通点と相違点があり、それぞれの誰が取引の当事者なのか、売上は何に対する対価なのか、PFerの当事者はどの国に所在しているのか、PFerと開発者との契約関係がどうなっているのかを契約を通じて確認して、現在の消費税の仕組みに当てはめていかなければならないことがわかる。
PFerによっては、英語の規約しか用意されていないため、読み解くのも一苦労だった。
また、エンドユーザ側の規約を読むことで、取引の当事者がクリアになるのがわかり、今後の仕事に役立ちそうだ。
ともかくも、PFerはほとんど責任を負わず、各開発者がそれぞれ持ち寄ったアプリを乗っけてエンドユーザにダウンロードしてもらうプラットフォームの運営をしているだけですよ、PFerから買っているように見えても、各開発者の代理人に過ぎないんですよ、というスタンスなのもよくわかった。