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インボイス制度小ネタ集

インボイス制度対応をしていて見つけた小ネタ集です。
内容の正確性は頭の体操なので保証しかねます。予めご了承ください。

水道料金について

取引先のインボイスの登録番号をメンテナンスしていたところ、取引先マスタに自治体が登録されているのを見つけた。
どんな取引があったっけ? と見てみると、水道料金の支払取引が出てきた。
そういや水道料金はインボイス制度始まったあとも、仕入税額控除できるのかいな、と調べてみると、各自治体の水道局のホームページにはインボイスの登録番号が掲載されている。

例:東京都水道局

ん? てことは、自治体って消費税の課税事業者なの?
自治体が税金を納めているというのがなんとなく変な感じだが、結論から言うと課税事業者になりえるらしい。
一般会計は課税標準額に対する税額と仕入控除税額とを同額とみなすことで納める税額は0円だが、課税事業者ではある。特別会計は会計ごとに企業のように課税事業者かどうかを判断する。
水道事業は課税売上高が1,000万円以上だろうから、よほどの小さい自治体の水道事業とかいうことでない限りは課税事業者になるわけだ。

参考:国・地方公共団体や公共・公益法人等と消費税(国税庁HP)

国や自治体は大体の税目が非課税だと認識していたので、消費税は特別なんだなと思った次第だ。

公営事業が民営化したときの経理の昔話を聞く機会が多くあったのだが、公営事業では納税するという作業を全くやってこなかったから、民営化時にものすごく苦労したらしい。印紙税や固定資産税から法人税に至るまで…
でも今回の話からすると、消費税だけは民営化前から納めていたんだなと思う。

ともあれ、水道料金もこれまでどおり仕入税額控除できるとわかったので一安心。


「消費税は預り金ではない」理論

インボイス反対派(私もそうだが)のブログ等でよく出てくるのが、事業者がもらった消費税は預り金ではないし、それは国も認めているというもの。
免税事業者が本来国に納めるべきである「預かった消費税」というものは存在しないのだから、益税だなんてというのはおかしい、という理屈だ。
なんとなくしっくりこないなあと思っていたが、それは課税事業者で経理をしているから起こることだな、と気づいた。

ほとんどの課税事業者だと消費税は、仮受消費税、仮払消費税として扱うので、そこに勤めている経理の人々にとっては、仮受消費税は預り金だ、という感覚が抜けない。
また、税抜経理を行っているから、事業の分析も税抜ベースで議論される。
だから、商品やサービスの適切な値段を決める際にも税抜額ベースで議論される。
そして、消費者に売るときに消費税率をかけて売る。

だが反対に、免税事業者は税込経理をしているから、値付けをする際にも税込ベースで考えることになる。原価も経費も税込で考えるのだから、儲けを出すための売上をどうするかも税込額がベースになる。
だから、本来消費税のことなんて考えなくてもよいはずなのだが、請求書や領収書に消費税を分けて書いてね、と言われるから、割り戻して無理やり消費税を別に書いているという感じだろう。

消費税込みでの値段がその事業者にとっての適切な値付けなのだから、免税事業者だからといって消費税部分を値下げされると困ってしまうわけだ。

益税と言っているものは、免税事業者が課税事業者に転換したら増えると見込まれる税収、という概念に過ぎないし、消費税が預り金かどうかというのは、どんな立場で経理をしているかによって印象が変わりそうだ。

課税事業者への転換シミュレーション

じゃあ、課税事業者に転換したらどれだけ手取りが目減りするか。キャッシュフローをもう少し細かく見てみよう。

売上11,000、仕入7,700、すべて10%の課税取引で、実効税率は35%で計算してみる。

免税事業者だと、
11,000-7,700=3,300がまず手元に残り、そこから税金を払う
3,300×35%=1,155なので、最終的な手取りは2,145となる。

課税事業者で本則課税だと
11,000-7,700=3,300が手元に残るのは変わらない。
税抜の10,000-7,000=3,000が粗利なので、税額は3,000×35%に消費税納税分(1,000-700)を加えて、1,050+300=1,350となる。
よって、最終的な手取りは1,950となる。

もし、手取りを免税事業者と同じ頃の水準まで戻すならば、11,330まで値上げする必要があり、これは3%の値上げとなる。
すごく単純に言うと粗利益率の10分の1を値上げ率にすればよさそうだ。

もっと言うと、もらった消費税分がまるまる「益税」だと思われている印象があるが、そうではなく、あくまで粗利益率に税率をかけた分(ざっくり)がこれまで免税されていたということで、印象よりも少ないことがわかる。

課税事業者に転換したのだから値上げしたいと言っても、もちろん相手のあることなので、ここは交渉となる。

免税事業者への値下げシミュレーション

立場を変えてみる。
免税事業者から仕入れを行っている課税事業者は、インボイス制度で仕入税額控除ができなくなる(経過措置あり)ので、なんとか値下げをしたい。
免税事業者からの仕入でも80%の仕入税額控除ができる経過措置期間であっても、消費税相当分の20%(税率が10%だと本体価格の2%)が費用増となってしまう。その分業績は悪く見えるようになる。

先程の例だと、11,000の仕入は、1.02で割って10,784まで値下げしてもらいたい。そうすると、計上すべき費用は税抜の9,804に税額の20%の196円で10,000円となり、インボイス制度前と同等になる。

50%の控除可の期間であれば、1.05で割って10,476まで値下げ、全額控除不可だと10,000まで値下げしてもらいたい。
(値引率で言えばそれぞれ、約1.96%、約4.76%、約9.09%)

また立場を変えてみる。
免税事業者側はどうなるかといえば、手取りがそれぞれ、2,005、1,804、1,495と減っていく。
こうなると、課税事業者の本則課税での手取りが1,950なので、相手方が50%の仕入税額控除のできる経過措置期間で課税事業者に転換したほうが得となりそうだ。(正確には一定期間仕入税額控除を20%に抑える特例や簡易課税制度もあるので、それも比較が必要だ。)
ただ、そのタイミングで課税事業者になったから値上げしたいといっても難しそうだ。相手は2%の費用増を気にしている会社なのだから、3%の値上げは受け入れられないに違いない。どう転んでも損なので、損を小さく抑えるしかなさそうだ。

結局「益税」部分の負担を誰になすりつけるか

インボイス制度全体で見れば、どう転んでも納税額は増えてしまうので、誰かに負担をなすりつけることになる。民間で敵味方を作っていがみ合わせて、政府に批判の矛先が向かないようにしようとしたのだろうか? どう考えても政府に怒りが湧き出すクソ制度なので、それは考えにくい。
そこまで言わないにしても、わかりにくく煩雑な制度で国民をインボイス対応に忙殺させて意識をそらすことで、実質的な増税になっていることを悟らせないようにしていると思われても仕方ない。

物品切手等での支払に係るインボイス対応

簡便処理について

物品切手などで前払したもので商品やサービスを買うとき、原則物品切手の購入時ではなく、その物品切手で商品やサービスを引き換えたときに消費税を認識することになる。
例えば、プリペイドカードを1,000円分買ったとしても、プリペイドカードの購入時に消費税の認識はできず、非課税として処理する。
プリペイドカードを使ってなにか商品やサービスを買った(引換給付)ときに初めて消費税を認識できる。
インボイス制度が始まったときには、商品・サービスを買った際の領収書が仕入税額控除に必要となってくる。

実は簡便な処理も認められており、継続的に行う場合に限って、物品切手の購入時に消費税を認識できる。
しかし、インボイス制度が始まったときには、一部の例外を除き、このやり方はできなくなる。
一部の例外とは、郵便切手の場合とその物品切手自体にインボイスの記載事項があり、回収されてしまう場合だ。国税庁のQ&Aでは、この場合はできますよと記載があるが、それ以外は引換給付のときにインボイスをもらって課税仕入としてね、とある。若干奥歯にものが挟まっている言い方なのでわかりにくいが、この簡便処理は例外を除きできなくなるよ、ということだ。
(なんで直接的に書かないのだろう。)
プリペイドカードを買ったときに消費税認識している会社は要注意ということになる。

参考:国税庁Q&A 問89物品切手の購入費用

購入した物品切手の額と使用可能な額が異なる場合

物品切手によっては、購入金額と実際に使える金額に差があることもある。
1ポイント1円として使えるポイントがあるとして、500ポイントが450円で買えたり、500ポイントが550円でしか買えなかったりする。
引換給付のときに課税仕入とする場合、国税庁のQ&Aでは、前述の例外以外は課税仕入のためのインボイスが必要だとあるので、課税仕入の額はインボイスに記載された額となる。
これだと物品切手の購入時の金額と差が出るので、それをどう処理するかだ。

例1)1ポイント=1円で使用できるポイントを500ポイント550円で購入した。その後、500ポイントで500円のペンを購入した。

この場合、以下のように貯蔵品が50残ってしまう。
どうしようか、ポイントを購入するときに販売手数料を払ったと考えたら良いだろうか?
しかし、ポイントを発行する事業者が販売手数料分のインボイスをくれるかといえば、くれなさそうなので、手数料は不課税で処理するしかない気がする。

<貯蔵品が残ってしまう仕訳>
(ポイント購入)
貯蔵品 550 / 現金 550
(ポイントでペン購入)
消耗品費  455 / 貯蔵品 500
仮払消費税 45 /

<販売手数料を想定した仕訳>
(ポイント購入)
貯蔵品 500 / 現金 550
手数料 50 /
(ポイントでペン購入)
消耗品費  455 / 貯蔵品 500
仮払消費税 45 /

例2)1ポイント=1円で使用できるポイントを500ポイント450円で購入した。その後、500ポイントで500円のペンを購入した。

この場合もそのままいくと貯蔵品が合わなくなる。
50円分は得したと考えて、雑収入か何かに放り込んでおくしかないだろうか。そのときの消費税はどうしようか悩ましい。税務有利にするなら課税売上としておくのがよいだろうか? でも、非課税取引の値引き扱いなので、非課税としておくのがきれいなのだろうか? 悩ましい。

<貯蔵品が過剰に取り崩されてしまう仕訳>
(ポイント購入)
貯蔵品 450 / 現金 450
(ポイントでペン購入)
消耗品費  455 / 貯蔵品 500
仮払消費税 45 /

<雑収入を想定した仕訳>
(ポイント購入)
貯蔵品 500 / 現金 450
       / 雑収入 50
(ポイントでペン購入)
消耗品費  455 / 貯蔵品 500
仮払消費税 45 /

参考:国税庁Q&A 問90

なんだか些末な処理についてウジウジ考えている気がする。
本当にこんなことをする会社があるのか疑問だし、あったとしてもそこまで大きな金額でなければ、問題にもならないだろう。
頭の体操ということでお許し願いたい。

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