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極東から極西へ20:カミーノ編day17(Fromista〜Carrion de los Condes)


前回の粗筋
なんとかSさんは家に帰れそう。
パンを買ってみたり、レストランで桃ジュースを注文してみたりした。楽しみつつも一方で、自分の行いの反省と、Sさんの無事を祈った日。


前回


今回は、フロミスタからカリヨン・デ・ロス・コンデスまでのお話。



・Fromista〜Villovieco

 今回はオルタナティブルートを通る事にする。オルタナティブルートとは、メインルートではないサブルートのこと。例えば距離が短かったり、メインとは別の見どころがあったりすることもある。
 選んだ理由は、メインルートには一切の日陰がないから。薄々感じてはいたけれど、スペインの紫外線は半端無い。遮る物無く肌に突き刺さる。勿論日焼け止めは塗っているけれど身体に悪そうだ。避けられるリスクは避けたい。

 オルタナティブルートは、多分日が出た頃に川沿いの道を歩けるルートで、木立が日光を遮ってくれるはず。

 パッキングをして、昨日買った食料をザックの一番上にセットして、いざ出発(因みに、マリンカさんは朝ごはんを食べて即出発した。早いなあ!)。今日は18kmとあまり歩かない上に、目的の街、カリヨンは宿が多いからあぶれる心配は無さそう。予約不可の教会の側のアルベルゲにターゲットを絞って出発した。


時々こんなモニュメントがある。

 宿問題に悩まされていないからか身体が軽い。
 今日も月が綺麗に空に浮かんでいてさやかな光を周囲に投げかけている。一つ深呼吸して、一歩踏み出した。
 
 お弁当はどこで食べようか。
 この間食べた洋梨がすごく美味しかったから、また買ってみた。チョコもあるし、景色の良いところで食べたいな。

 そんな事を考えながら何人か追い越していく。歩いて30分から1時間で身体が熱くなってしまうので、脱ぐ手間を惜しんでダウンは最初から着なかった。

 ポブラシオンの村で何時も一緒に歩いている三人の仲良しな年配の女性を見かけた。Hola! と声を掛けると信じられないものを見る目で見られた。

「寒く無いの? 私なんて手がかじかんでタオルかけてるのよ!」

 多分、そんな事をスペイン語で言われた気がする。

「大丈夫、暑いくらい」

 と英語とジェスチャーで答えた。
 確かに息は白いけれど、もう汗をかいていたから、ダウンを着たらびしょびしょになってしまう。


ポプラシオンの看板
所々にある黄色いポスト。可愛い。
スペインの郵便局は黄色。
まだ暗い街の中


 オルタナティブルートをどんどん進み、川沿いの道を気持ちよく歩いた。
 程よい日陰を作る木立、そして動物のいそうな川。一回、何かが水に飛び込む音を聞いたのだけれど、姿は見えなかった。

 ビジョビエコ村の手前にあった教会に、丁度良さそうなベンチがあったので、お弁当を食べることにする。


つい釣られそうになるカフェの看板
教会の前で朝ごはんを食べた。


 パンとリンゴと水のボトルを取り出して、パンはボリュームたっぷりだったので半分だけ食べた。

・カフェでの邂逅 at Villalcazar de Sirga

 村の中に入り、良い感じのカフェを発見した。ザックを下ろして、お腹は一杯なので、カフェコンレチェを頼む事にする。
 カップを持って自分の席に置き、いざ飲もうとしたところで来るわ来るわ。
 カリマさん、オーストラリアの親子×2組。マリンカさん(何時の間にか抜かしてた。メインルートだったのか?)、昨日のスペイン語が堪能なクリスティーン、カリフォルニアの男性マーク(やっと名前を聞けた)、リッカさん。セバスチャン、ガイさん、韓国の夫婦。あっという間に知り合いだらけになった。
 皆、直射日光を避けたくて休みなくここまで歩いてきたらしい。

「ツネは休憩1回目?」
「いえ、2回目です。朝ごはんのパン食べるために止まったんで」
「私は1回目! 次の街に急がなきゃね」

 オーストラリアの親子の一組と一緒に歩いていたカリマさんが笑顔で言った。


こんな感じの看板が。
カフェの横にあったので、思わず写真を撮る。
同席したくなるおじさんだね。
大きな教会があったけれど、入れなかった。


 ところで、カリマさんは魚は食べるけれど肉は食べない。牛乳も避けてヤギか羊のチーズを好む。セバスチャンは多分ビーガン。
 私は無脊椎動物(って書くと硬いなあ)と、果物や一部の野菜、ハチミツにアレルギーがある。言い換えれば、無脊椎動物じゃ無い動物は大体食べられる。ピルグリムメニューはどうも鶏肉が多いのだけれど、そろそろがっつり肉が食べたくなってきた。焼肉とか、ステーキとか最高だろうなあ。
 好きな食べ物は? と言われたら「肉」と答えるくらい、私は草食系のフリをした肉食なのだ。書いている今、焼肉のタレを思い出して涎が出てきた。
 明日は肉を漁る事にしようと心に決めた。

・Villalcazar de Sirga〜Carrion de los Condes


 アルベルゲに着き、ザックを並べて教会前の広場のベンチに座って日記を書く。


相変わらず花がポーチに植えられていて、良い感じ。
美術館がそばにあったのだが、
時間が悪くて見られなかった。


 Sさんから、7時台に日本に着いたと連絡があった。返信をしたのだが既読はつかない。のっぴきならない理由だったのだから忙しいのだろう。少し気になったが、知り合いに話しかけられたので、誘われるままにピルグリムショップを冷やかしに出かけた(後から考えると、カミーノ中e-simを使用していたので、主回線を切り替えるのに手間取っていたのかもしれない。)。

 アルベルゲオープン後は何時ものルーチンワークをこなし、中庭でパンの残りとチョコを食べて過ごした。

・歌を歌う会


 18時に大体いつも散歩に出掛けるので、この日ものんびり階下に向かった。すると、何故だか皆集まっている。
 そう言えば、オスピタレラのシスターが、18時に歌の会をやるとかなんとか言っていたような。折角だから端っこの方で参加してみる事にした。ところが、準備していた四人のシスターの一人と目が合う。

「そっちは狭いからこっち来て。椅子持ってってあげる」

 歌の会の輪の、かなり前の方に鎮座することになってしまった。
 隣は何回か会った事のあるドイツの女の子。歌詞カードをシェアして、やがて歌の会が始まった。四人のシスター達のハモリが綺麗で、ギターの音にも合っている。ちょっと「天使にラブソングを」っぽい。

 皆頑張ってスペイン語の歌詞を読んで頑張って知らない歌を歌う。残念ながら、写真と動画はNGとのことだった。
 曲の合間に自己紹介と、なんでカミーノを歩くのかを一人一人言う。日本人はやっぱり一人だけだったけれど、台湾の親子がいて親近感が湧いた。

 アメイジンググレイスや、サビを繰り返す曲は歌い、楽しいなあと思ったところで、シスターが、「じゃ、次はあなた達の番です」と振ってきた。
 ホンジュラスの男性が指名されギターを披露。スペインの男性は詩を披露。アメリカの女性は振り付け遊びのある歌を披露した。

「次は……さて誰にしようかしら。じゃあそこの日本人のあなた」

 シスターとばっちり目が合う。頭の中では「?」マークが浮かぶ。
 日本の歌? 海外の人も歌えそうなやつ、なんかあった?

 頭に浮かんだ歌はただ一つ。
 患者さんがよく歌っていた「ふるさと」だった。これじゃなくて、他の人も歌えるやつー!と思ったけれど思い出せず、なんなら「一番初めは一宮〜」なんていう古い数え唄や「ハァ〜ァア、ちょいと出ました三角やろがァ」なんて八木節が頭の中で浮かぶ始末。
 いいや、一番無難なの歌ったれと手拍子してもらって結局「ふるさと」を歌った。

 よくやったよ! 良かったよ、一人しか日本人いないのに頑張ったって口々に言われたから良しとしよう。
 

入り口の上にパイプオルガンがあった。
生演奏に誘われて教会に入る。
知っている曲が2、3曲。
多分バッハの「アンナ・マグダレーナのためのクラヴィーア小曲集」。「インベンションとシンフォニア」の前に習った曲集だと思うんだけど。
ホタテ貝の模様、カリヨンバージョン。

 大人数の前で歌ったせいか、くったくたにくたびれて、寝袋に横になったら爆睡したのだった。


次の話


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