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極東から極西へ21:カミーノ編day18(Carrion de los Condes〜Ledigos)

前回の粗筋。
歌を歌って疲れはてて寝た。
爆睡してしまった。


前回



今回はカリヨンからレディゴスまでのお話。
メセタ(乾燥台地)真っ只中の道を行く。



・Carrion de los Condes〜唐突に現れたカフェ


 朝6時に他の人の準備の音で目が覚めて、私も用意を始める。大体の荷物は纏めていたので、ちゃっちゃか準備して出発……しようとしたのだけれど、ドアが開かない。

「あれ?」
「6時半にならないと開かないぞ。シスターが開けてくれると言っていた。さては忘れたな?」

 ドアのそばにいたリッカさんが言った。そう言えば、チェックイン時にそんな事を言われた気がする。

「僕らが待ってるのは、そういう理由だ」
「あと9分」
「そう、待たないと」

 成る程、皆ザックを抱えてスタンバイしているけれど、動けずにホールで溜まっていたのだ。誰かが、「私達をここから出してー!」と言っていた。
 ストックの長さを調整したり、非常食をすぐ取れる場所に移し替えたりして時間を潰すうちにシスターが現れて鍵を開けてくれた。

 この日、多分私だけでなく、皆が早めにスタートを切りたかった理由は、17kmの街も何も無い道を次の街まで歩かなければならなかったから。
 噂では木陰のない、容赦ないメセタの試練が襲いかかるらしい。日が昇る前になんとしても8〜10kmは終わらせてしまいたかった。


暗い中の古い建物は迫力がある。

 既に開いているカフェをぐっと我慢し、街中をぐいぐい進み、いざメセタの大地へ。涼しい内ならこちらのもの……と思っていたのだけれど、オーストラリアの親子(ロジャーさんとエンジェル)が、兎に角速い速い。
 別に急ぐ風でもなく、鼻歌を歌うようにすいすい歩いて行ってしまう。

 トップ集団を爆速で追い抜いて(というか普通に歩いているように見えるのにめちゃくちゃ速い)姿を闇の中に消した。

 私も自分のペースで歩く事にした。
 何人か抜いて振り返ると、東の空が明るくなってきている。やばい、ゆっくりすぎたかも? 時間を確認しながら先を急いだ。
 直射日光に晒される時間はなるべく少なくしたい。


明るくなってきたー!
他の日なら嬉しい日の出も、メセタの大地上では
ちょいと焦る。気温は決して高く無いのに
暑く感じるっていう不思議な現象が起きる。

 8時少し前に道端に看板が置いてあるのを発見した。500m先、カフェ・ジュース・朝ごはん!?
 こんな所で出会うとは。

 ハイペースで歩いた為、喉がからからだった。果たして、500m先に行くとちゃんと営業している、キッチンカーを改造したらしいカフェがあった。まるでオアシスだ。ザックを置いて並び、絞りたてのオレンジジュースと、ちゃんとあっためてくれたトルティージャをゲットした。


オアシスが、メセタのど真ん中に!

 ロジャーさん親子、マリンカさん、前日詩を披露してくれたスペインの男性、韓国のご夫婦、あとからカリマさんもやってきた。リッカさんとマークさんはいない。朝ごはん中に日が昇ってきた。


とうとう日が昇る。
昇ったら昇ったで感動するのだから、
げんきんだなあと我ながら思う。

「こんにちは!」
「日本語? 話せるんですか?」

 同席の女性が話しかけてくれた。日本人の知り合いがいて、幾つか言葉を知っているのだそうだ。後からやってきた男性も「元気ですか?」と日本語。「元気ですよー」と答えると、通じたね! と笑顔を見せてくれた。久しぶりの日本語は、まさかの地元民、スペイン人から発せられたものだった!

 エネルギー充填して、先を急いだ。
 

・唐突に現れたカフェ〜Ledigos


 日が昇ると暑い。
 気温を確認すると20度しかないはずなのに、直射日光が鋭すぎる。

覚悟していたどこまでも真っ直ぐな道。
遮るものが一つもない。


 日焼け止めを塗り直し、ネックガードを持っていた飲み水で濡らして首を冷やして進む。
 軽い登り坂になる手前で仲良しの三人組の婦人達を追い越した。昨日、寒くないの? と信じられない顔をしていたお婆様方だ。

「元気? 脚は大丈夫?」
「大丈夫です。あなたは?」
「私も大丈夫よ。気をつけてね」
「ありがとう、ブエンカミーノ!」

 あったかい言葉をかけてくれた。
 無事に三人みんなでサンティアゴに着いてほしい。

 「元気ですか?」と日本語を使っていた男性はストックを刀みたいに腰に差してお婆様がたも私も追い越していった。

 レディゴスの街に着き、暫し迷う。
 先に行くべきか、止まるべきか。

 行程表では、ゴールは次の街の予定になっている。次に行くなら、着くのは1時間切るくらいだろうか。手の届く範囲ではあるけれど、かんかん照りに少しばてているのも確かだった。

 アルベルゲ・レストランの看板を見つめて迷っていると、背後からロジャーさん親子が。あれ? 先に行ってなかったっけ?


CAMAはベッドで、10€。レストランはあるし、どちらにしても休憩したい。何か冷たい飲み物は無いかな。


「やあ! ここで泊まり?」

 日数には余裕があるし、今日はもうやめておこうか。

「泊まりにします。本当は次の街まで行きたかったんだけど、暑くて」
「暑いよねぇ、いいと思うよ。エンジェルはどう? まだ行けそうか?」
「やめとこうかな」

 そんな訳で三人でアルベルゲに向かった。
 

こんな感じのところ。暑ければ……いや、暑いんだけど、
プールも気持ち良さそう。
庭の薔薇も綺麗。
花壇やプランターを綺麗に飾っている家が多い。


ハンモックもあった。横になってみたかったけれど、スペインの蚊に相変わらず大モテなので、あまり外にいられない。そんなにA型の血がほしいのか。

 コーラをご馳走になり、グラスを返しついでにチェックイン出来ることを確認。娘さんのエンジェルに、もうチェックインできるよ、と告げて中へ。

「疲れたね、何歳くらいになった気分? ボクハ125歳クライデス(日本語)」
「ロジャーさん、日本語話せるの!?」
「少しだけね」
「私は80歳くらいの気分」

 言うと笑ってくれた。
 スペインの人に続き、日本語を聞いたと思ったら今度はオーストラリアの人からだった。なんでみんなプラスαで喋ることができるのか?

「チョット ダケ デス」
 
 そのちょっとがすごいんだよ、ロジャーさん。

 いつものルーチンを終えてから、チョコを食べつつ日記を書いた。

・難しい英語


 今日の多国籍晩餐会は、韓国のご夫婦とドイツのご夫婦、確かデンマークから来た二人とご一緒だった。
 韓国のご夫婦は優しそうな方で、翻訳アプリを使用して会話してくれた。スマホに話しかけて、ものすごく久しぶりにちゃんと日本語を使ったことに気付いた。

「乾杯!(韓国語)」
「乾杯!(日本語)」

 すごく似ているけれど、少し違うんだな。

 ドイツの夫婦から、「一人でカミーノ歩いてるの?」と質問があったのだが、これがクセが強すぎて中々聞き取れない英語。
 一方で私の英語もクセが強いのか、デンマークの二人が訳してくれるくらい。同じ英語でも話している人によって、結構違うのだという事を認識した。

 夕飯はレンティス(レンズ豆かな?)のスープとミートボールとパン。肉! と思っていたところなので嬉しい。
 和食より肉! ってどんな日本人なのか。


レンズ豆のスープ。最近のお気に入り。


肉団子で肉欲求を満たす。


「君達は親子?」
「違いますよ。私は日本人で二人は韓国人。アジアのご近所同士です」

 アジア人同士でも区別がつかないのだから、仕方ないのかもしれない。
 翻訳アプリで韓国のご夫妻とお話しているのもすごく不思議そう。君達そっくりじゃない? という感じだけれど、言葉は違う。スペイン語とポルトガル語、ドイツ語とフランス語だって違うと思う。
 ドイツのご夫婦は、ドイツからカミーノを歩いている(!)と言っていた。分割で歩いているので、ゴールは来年になるそうだ。にしても、幾ら陸続きでもすごい距離だ。漸く来年の春ゴール。ものすごく感慨深いだろうなあ。


 美味しく料理を頂いた後は、お休みなさい。
 明日は26kmなので少し遠い。Centro del Camino(カミーノの真ん中)のサアグンと言うところを通る。真ん中、つまり半分。もうなのか、まだなのか分からないけれど、サンジャン・ピエ・ド・ポーから半分まで歩いたことになるのだ。
 
 ピレネーから随分遠くまで来たなあ。


次の話


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