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利己的遺伝子のせいにする

時々、なんで私の人生はこうなってしまったのだろうと悶え苦しむことがあります。

猫川は若くして夫と出会い結婚しました。

出会った当初猫川は、こんなに優しくて美しくて、学生でありながら高級スポーツカーで現れ、どこどこへ行きたいと言えばどこへでも車を走らせ、なになにが欲しいと言えば躊躇なくなんでも買っちゃうなんて、こんな心の広い人は見たことがないと驚愕しました。金も自信もない自分とは正反対な人間だと思いました。

彼の両親は建設業を営んでおり、バブル時代に大儲けしていて、子供たちはいつでもなんでも買ってもらえたようでした。そのように自由に育てられると人はこういう風に余裕のある優しい人間に育つのだなと、猫川は感心しました。

一方、猫川の両親はサラリーマンと専業主婦で、経済的にも教育的にも非常に厳しく猫川を育てました。その結果、猫川はまじめだけど常に余裕のなさを感じている、自分にも他人にも厳しい人間に育ちました。のちに判明したHSP(高度敏感人間)という気質によって、耐えがたい生きづらさを抱えていました。

人は自分と真逆の人間に惹かれるのか。タイミングのよさもあいまって、我々は出会ってすぐに付き合うことになりました。
タイミングのよさとは、そのころ彼は前の彼女にフラれたばかりで傷心だったことと、猫川は全就職試験に落ち生きる気力を失っていたことで、文字通り凸凹の字のようにぴったりとハマる時期だったのです。

ところが何もかもが反対の猫川と夫。あまりにも反対なので犬山とします。どれくらい反対かというと、犬山はA型で猫川はB型。犬山は何も考えないで生きているけど猫川は考えすぎて疲弊している。薄い顔と濃い顔。体育会系と文化系。浪費家とドケチ。親から勉強しろと言われたことがない犬山、勉強しろとしか言われたことがない猫川。犬好きと猫好き。

普通ならこんなに反対の者同士では共同生活は成り立たないと思う。それに理性で考えたら、バブルは当時終わっていたのにこんな金遣いの荒い生活をしている人は将来破産するだろう、こんなに何も考えず生きている人はいずれ簡単に詐欺にあうだろうと想定され、実際に犬山の親が経営する家業は数年後に破綻することになった。
しかしその明らかな危険性を上回る、よくわからない吸引力によって、猫川は犬山に強烈に引き寄せられた。犬山に欠損している部分を、自分が補っていかないといけないと思った。  

こうして二人は結婚し、お互いの欠落部分を埋め合いながら、三人になり四人になり、ついには五人家族となりました。
五人となってすぐ経営破綻に直面し、経済的にも体力的にも精神的にも大変な苦労を味わいましたが、三人の子供達は筆舌に尽くしがたい喜びと笑いを猫川にもらたしました。  

まず最初に生まれたのは猫川似の男の子でした。
若干潔癖症で、他人が口をつけたものは一切食べないなど、いろいろなこだわりを持つめんどくさいやつでした。小さい頃はそれがただのワガママに見えて育てるのに苦労しました。とんでもなくママ大好きで、幼稚園に入ると半月は泣きながら羽交い締めにされてバスに乗っけられて行きました。そのころHSPについて知った猫川は、この息子も自分と同じHSPなのかもしれないと恐れました。
しかし彼は周りに流されない強い芯を持っていて、大きくなるにつれ謎のこだわりを持ちつつもうまく環境に適応するすべを身につけていきました。部活もがんばれるし友達とのトラブルもちゃんと解決できたし、どうやら潔癖なだけでHSPではなさそうです。現在高校二年生になり、日々部活にKpopに友達との集まりにと、青春を謳歌しています。

次に3歳違いで生まれたのは、犬山似の目の細い、薄い顔の女の子でした。顔の薄さの割には恐ろしく活発で、一瞬たりとも目を離すことができない子供でした。あらゆるものによじ登り、落ち、救急車のお世話にもなりました。知らぬ間にお風呂で泳いでいたり、いつの間にか1人で公園にでかけて行ってしまったりしました。長男の世話もあるし3人目もできたしで猫川は四六時中見張っていることができず疲弊しました。親子共々限界に近づき、3歳になると同時に幼稚園の年少に入りました。しかし幼稚園でもじっとしてることができなくて先生を激怒させ、小学校1年生の面談の時には一度療育センターで診てもらって下さいと言われました。診てもらうと軽い多動かもとのことでした。しかし同時に知能指数は3年生相当であり平均より2歳分高いということも判明しました。
いつもびくついており、ぼーっとしてほとんど動かなかった1年生の頃の自分を思い出した猫川は、自分の腹から出てきた娘なのに、あまりにも違う生命体であることに驚愕したものでした。
その後高学年になるとだいぶ落ち着いた長女。いっとき、磔にされて刃物で刺されて血だらけになっている女の子の絵を大量に描いていたのを見つけて不安になりましたが、どうやらその頃が多動の自分との決別の時だったようです、本人も辛かったのでしょう。
現在は中学2年になって口にだけ多動が残っていますが、天性のハッピーオーラのおかげで多くの人に愛され楽しく生きているようです。HSPのかけらもありません。

それからさらにまた三年後に生まれた次女は、長男以上に猫川似で、よく泣く子供でした。
幼稚園や学校では猫川の子供の頃と同じでほとんど動かないが、家に帰るとワガママ放題。一度ヘソが曲がると手に負えず、こちらが怒れば怒るほど加速度的に狂っていきます。月に一度は朝これが起きて親子共々遅刻することになりました。
猫川が察するに、多分この子は自分と同じHSPだと思われました。
感覚の敏感さは今のところ訴えていませんが、芸術的センスが鋭く独特な絵を描くところ、映画や音楽にすぐ感動して泣くところ、他人の悪意(意地悪)にものすごく敏感に反応するところがポイントです。ついにHSP出た!
しかしここはHSP同士、親子で共感しあうことができます。非HSPに育てられ辛酸を舐めた猫川とは違い、対処法を学べさえすればきっとうまく社会に適応できるはず。


このように三者三様の子供達の特徴を見ていて、HSP的性質はおそらく劣性遺伝で発現するのだなと猫川は思いました。
劣性と言うのは人として劣ってるという意味じゃなくて遺伝子が2つそろわないと発現しないというメンデルの法則のあれね。
優性遺伝の緑のソラマメと劣性遺伝の黄色のソラマメを掛け合わせると子供世代は全員緑になるけど孫の世代は4分の1の確率で黄色のソラマメが出現する。それらは黄色黄色の遺伝子がそろってるから。
我が子のHSP気質は推定3分の1で出現したわけですがソラマメといい勝負です。

そんなことに思いが至った時、猫川は20年以上前に読んだ、「そんなバカな」や「利己的な遺伝子 selfish gene」という遺伝子学の本を思い出し、なぜ猫川の相手が犬山でなくてはならなかったのか、突如として理解したのでした。

以下利己的遺伝子についての曖昧な記憶と、それにより導き出された猫川的推論を発表します。

まず利己的遺伝子についての曖昧な記憶:

  男女が子孫を残すのは、種を存続させるため全人類を統括する利己的遺伝子の策略である。ロマンスや愛や快楽は、個体に子孫を作らせるためのエサである。地球環境が変化したときにも絶滅せずに種を存続させる可能性を少しでも高めるため、すべての個体は利己的遺伝子の策略通りに行動するようにインプットされている。母親が自分の身を犠牲にしても子供を守るという一見利他的な行動は無償の愛によるものではなく、母親と子供では子供の方がより長く生きより新しい個体を残せる可能性が高いから、という実は種にとって利己的な行動なのである。

以下猫川的推論:

  HSPは敏感すぎるので環境に適応できず死にやすいから、あまり多く出現すると種が絶滅してしまう可能性を高めるけれども、その敏感さゆえに環境の変化をいち早く感じ取り、危機を知らせるカナリヤのような能力を持つので、ある程度の割合は必要な存在である。したがって劣性遺伝ではあるが必ず一定数生まれるように利己的遺伝子によって設定されている。HSP気質によってあまりに強い生きにくさを感じていた猫川という個体は、このままでは死ぬ確率が高まるので、真逆の何も考えないで生きることができるというある種特殊な遺伝子を持つ個体を見つけ出し、遺伝子を混ぜるようにインプットされていたに違いない。だから犬山にあんなにも強く惹かれた。逆に犬山は危機管理能力が欠如しすぎていて死ぬ確率が高いから、もう少し敏感な遺伝子を混ぜる必要があった!人類の種の存続だけを目的としている利己的遺伝子にとっては、個体が将来破産して困窮しようと互いの趣味が合わなくてケンカが絶えないことになろうとどうでもよく、目的はただ一つ、遺伝子を混ぜることであったか!くそーやられた!!!

それからはこのように、人生の後悔に悶え苦しみそうになった時には、すべては利己的遺伝子のせい、と考えることにしました。

そう考えれば、なんでこの人こんな危機的状況でもなにも対策を考えてくれないんだろうという夫への怒りも、なんでそういう人と安易に結婚したんだろうと自分を責めることも、もうなくなりそうな気がしました。
価値観が合わなすぎてすぐ険悪な空気になることも、仕方ないと思えるような気がしました。

すべては、より生き残りやすい遺伝子を持つ子供たちをこの世に導き出すためだけだった。

ついでに言うと、利己的遺伝子が猫川のために選んだ犬山という人間は、本当に優しいいい人間であり、子供たちは本当に可愛くてハッピーなのです。

猫川はもう、それだけですべてチャラだと思うのでした。
↑これも利己的遺伝子の策略

#日記  #エッセイ #HSP #三児の母 #遺伝子 #子供 

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