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あらびはなしを知ってください 第六話【むーち】

あらびはなし②

・ノリコさん 女性

 最近実家で集まることがあって、久しぶりに家族みんなでテーブルを囲んでいたんです。父と母と私と弟の四人で。
 お酒なんか飲みながら、ワイワイ思い出話をして楽しんでいました。

 酔いも回ってきた頃に

「██ちゃんって覚えてる?」

って話になって。

 皆その名前に心当たりはなくて

「友達?」

 なんて聞いていたんですけれど、どうもしっくりこないんですね。
 いや、あれ?友達だっけ?親戚じゃなかったけ?近所の子じゃなかったけ?って感じで全員首を傾げて悩みこんでいるんですよ。

「ほら、ヤー(家)にも来てたさ」

 最初は全く思いだすことが出来なかったんですけれど、話を聞いているうちに色々と記憶が蘇ってくるような気がしたんですよ。

「ああ!畳間で良く寝ていた子ね!」

 目を見開いて母が言うと、父もあぁって頷いていました。 私も話を聞いていると、朧げながらその姿が浮かんできまして。

「女の子だよね?」

「そーだそーだ!姉ちゃんとも仲良かったじゃん!」

「そうね、良くノリコとお絵描きしたりして」

「わん(俺)が買ってきたアイスを二人で仲良く並んで食べてたな」

 家族皆、どんどんその子のことを思い出してきたんですけれど、その子の顔だけが思い出せないというか、思い出のその子は顔が滲んでいるようではっきりとしないんです。
 でも、なんで忘れていたんだろうってくらいに懐かしさがこみ上げてきまして。
 なんといいますか、あの頃、昔の夏休みを思い出すような、切なさとかいろんなことがごちゃ混ぜになった懐かしさ。
「ずっと一緒に過ごしていたよね。皆でご飯も食べたし、テレビ見て笑ったり、馬鹿みたいにゲームしてたさ」

「あんた達しょっちゅう夜遅くまでわちゃくー (悪戯) するもんだから、うるさくて大変だったのよ」

「わん(俺)のビールこぼしたり、家中汚したりしてな。はは」

「姉ちゃんたち、おれをパシリみたいに使ってたよなあ。ひでえ」

「懐かしいさ。あの子、元気かね」

「ノリコが中学に上がる頃にはあまりヤー(家)に来なくなったよな」

「あれ?姉ちゃんと一緒の中学校じゃなかったっけ?」
「あらんよ(違うよ)。あの子はあんた達よりだいぶ年上だったじゃない」
「え?私より年下じゃなかった?」
「いや、私立中学を受験して合格してなかったけ?」
「あらん(違う)、中学じゃなくて高校やんどー(だよ)」
「どんな顔だったかが思い出せないさ」
「だからさ。思い出せん」
「あり(ほら)、顔があれだったさ動物の」
「ああ!そうだった!そうだった!臭いもすごかった!」
「だーる!(当たってる)やさやさ!(それだそれだ)」
「元気にやってるかな」
「確か首がもげたんだよ」
「いや、腹の中身がこぼれたんじゃなかったっけ。中身汁 (沖縄の郷土料理)みたいなの」
「いーいん、ちぶるかっさぎられていたさ!ひーじゃーみたいに(違う、頭を裂かれていた、ヤギみたいに)」
「あり、思い出してきたさ!」
「やんや!(そうだ) それで死んだんだよ!」
「やたん!やたん!(そうだ、そうだ) 死んでもういないんだよ」
「いないんだよ」

 家族皆、スッキリして。あぁーやっと思い出せたぁーって。 良かった良かった、懐かしいなぁーって笑い合っていたら、誰かが言ったんですね。

「そんなのいないよ」

って。

 なんか一気に気まずくなって。あれ、って。何でこの話してたんだってなったんですよ。
 ぷぅんと獣の臭いみたいなのが鼻に漂ってきて。夢から覚めたような、なんともいえない気分になったんです。
 酔い過ぎたかもって、そのまま解散しました。妙に気分も悪くなっちゃって。

 翌日、家族の誰もその話をしないんですよ。なんだか触れてはいけないような気がして、私も話すことが出来ませんでした。
 昨日のあれはなんだったんだ?って本当はみんなに聞きたったんですけどね。

 しばらくして、父と母が仏壇やヒヌカンやらなんやらを一生懸命拝んでいたのを覚えています。

 結局、なんだったのか分からない変な体験だった、て話ですよ。
 で、あの日、誰がその話題を始めたのかがどうしても思い出せないんですね。
 それにあの日からたまに家の中で臭いがするんですよ。なんといいますか、動物がいるみたいな。
 そのことが、いまでもずーっと気になっています。




 私と弟は、前回話をしてくれたヒロシさんとノリコさんの名字が同じだということに、何かしらの関係性を感じていた。
 そして、興味を持ってしまったのだ。
 獣、臭い、頭。ヒロシさんとノリコさんが体験した怪異に共通するもの。
 恐らく調べれば何かが出てくる、何かを知ることができる。ただ、現時点ではまだ分かる情報が少なすぎる。
 名字が同じだけで、その二人は住んでいる場所も全然違うし、面識もなければ年齢も違う。
 私と弟は少しでも情報を得るために、過去に聞いて記していた様々な話を再度見直した。
 そして、以前話を聞かせて頂いた【綾さん】という女性も前述の二人と名字が同じであり、そして【獣】という怪異を体験している、という共通点があることに気が付いた。

 私と弟は、この三人の共通点、そして今までに集めた怪談の中で、少しでも関連していそうなものをピックアップし、互いに調べ合うことにしたのだった。

※特定を避けるため名字は伏せています。一部内容も変更していることにご留意下さい。




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