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美術展雑談『カラヴァッジョ展』

カラヴァッジョ展。あべのハルカス美術館。

芸術家は清廉で崇高、周りから尊敬されるべき存在だと、誰が言ったのでしょう。剣を手に街なかで暴れ、仲間を引き連れてライバル作家を恫喝する。重傷を負ったり負わせたり。裁判沙汰は茶飯事として悪行を尽くした挙げ句、ついには人を殺めて逃亡生活にいたったならず者。しかし彼は、芸術の神から愛されてしまいました。カラヴァッジョは既成の芸術観では測れなかった、文字通りの天才でした。

明暗の強い作風はフラッシュやストップモーションの効果を得て、一瞬を切り取ることでかえって動的な作用に映ります。しかしそれのみならず、描かれた人物の怒りや悲しみをドラマティックに現出させて見せる辺り、技法云々を超えた特殊な感性でしょう。誰も寄せ付けない孤高の才能に、人はむしろ惹きつけられます。私なども、ただ打ちのめされるのみです。

本催しのキービジュアル「法悦のマグダラのマリア」に描かれたマグダラのマリアは、娼婦であり聖女。赦しを得て法悦に浸る彼女は、同時に焚き火の前で踊り乱れるジプシーのように妖艶です。それはまさにカラヴァッジョ自身の姿にほかなりません。絵画のみならず作家なら誰もが自身と向き合うものですが、アウトローであった彼もキャンバスに向かうことで内なるパッションとひたすら戦い続けたのではないでしょうか。

カラヴァッジョは38歳の若さで生涯を終えたとされています。しかしその最期は、実はよくわかっていないとか。逃亡の旅の途中で姿を消した天才画家。戦いが終わることは、きっとありません。


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