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ライブ雑談『岡崎体育さん』

さいたまスーパーアリーナで悲願の口パクをやり遂げた男です。大した執念です。立身出世物語というよりは、ほぼ復讐劇です。そんなドラマを私も見届けたかったのですが、残念ながら参戦できませんでした。誰もが思うようにはなかなか生きられません。私も十六文キックでカミから順に蹴落としたりたい気分です。

これがリアルな『鴨川等間隔』です。(2023年3月撮影)
世界遺産に登録された、京都の伝統文化のひとつです。

岡崎体育さんの名前だけは結構前から知っていましたが、吉澤嘉代子さんに「パン買ってこい」とか言ってる調子いい兄ちゃん程度の認識でした。ブレイク前はミュージシャンではなく芸人だと思われていたりもしたそうです。確かに見た目はむしろ、そっちの方が納得します。大いに納得します。
彼のライブを初めて観たのはそんな無名の頃で、神戸のライブハウス『太陽と虎』での2マンライブでした。対バン相手はCharisma.com(カリスマドットコム)です。私はもちろん、カリスマ目当ての参戦です。岡崎さん、ごめんなさい。

先攻のカリスマは当時売り出し中の人気女子ユニットで、お客は超満員、手も挙げられないほどの密集状態です。ラストまで歓声が止むこともなく、大盛り上がりでした。
ところがあれだけ押し合いへし合いしていた観客たちが、カリスマのライブ終了後、20分ほどの転換の間にドドッと退場してしまったのです。冗談ではなく、8割ほどが帰りました。手を挙げられるようになったどころか、腕を振り回しても誰にもかすらない程度になったのです。ジョギングだってできましたよ。
ガラガラになったおかげで、壁に岡崎さんを応援する貼り紙が見えました。ライブハウスからの「岡崎体育をよろしくね」といった感じの安っすい手書きのものです。スタッフから愛されているんやなあと思いました。その分、気の毒さが増したのは言うまでもありません。

ほどなくして岡崎さんがステージに登場しても、観客は所在なげです。拍手もまばらです。どうやらみんな、私同様カリスマのお客さんだったようです。私も居残ったうえ、何となく前に出てきてしまったことを後悔しました。
直前に毒舌で知られるカリスマのMCいつかさんから「岡崎体育さんは、体育という名前なので側転しながら登場しますよ~」といじられていたことを受けて、岡崎さんは開口一番「側転しながら出てくるかい!」とご立腹のスタートです。
苦笑いする観客たちにコールを投げても、まともにレスポンスされませんでした。グダグダです。岡崎さんは「みんなカリスマの客かい!」と嘆くばかりです。もうやめてあげて、と思いました。

しかし楽曲が始まると、場内が一変したのです。
私なんかはまったくの初見で『Explain』を聴いて、岡崎さんのパフォーマンスの楽しさにビックリしてしまいました。そして曲の途中で口パクをカミングアウトされた瞬間には、確実にハートをつかまれました。ただただ、凄い! と、引き込まれたのです。
ほかのお客さんたちも同じだったのでしょう。どんどんノリがよくなってゆき、中盤の『Friends』ではもう、みんな昔からのファンであるかのように「バンドざまあみろ!」の大合唱です。中指を立てて跳ね回る、狂気の集団と化しました。踊って笑える、最高の宴会です。

岡崎さんは悲惨な日々や鬱屈した気持ちをパワフルに、時には叙情的に歌い上げます。嘆いたりひねくれたりしながら、それでも最後は笑っている、そんな自身の生き方を見せるような素晴らしいライブでした。
がんばっても報われずにいる人たち、不器用で間が悪くて、いつもカヤの外にいる人たち、そんな何でもない人たちにとって、岡崎さんのライブはきっとエネルギーになるでしょう。少なくとも私は岡崎さんをはじめとする多くのミュージシャンのおかげで、なんとか生きていると普段から感謝しています。みなさん、ありがとうございます。

そして「見とけよ! いつかカリスマとおんなじ日にライブやって、カリスマの客、全部とったるからな!」という岡崎さんの絶叫を残し、愉快な宴は終了しました。
Charisma.comはその後しばらくして活動を休止したため、残念ながらそのリベンジは果たせそうにはありません。しかし、それでいいではありませんか。永遠に晴らすことのできない屈辱や無念を持ち続けている方が、岡崎さんは魅力的です。どれだけ売れっ子になっても、どうか私たちの味方でいてください。


岡崎さんの数少ないシリアスな楽曲の中で、私は『スペツナズ』が大好きです。

「東の空は混沌と散弾ファイア」
「スウェイを何度重ねれば空が見えるの」(『スペツナズ』)
鋭利なワードが美しいメロディに乗ると、なぜこんなに悲しく聴こえるのでしょうか。
この歌を聴きに、あの国の大統領もこの国の首相も、エライ人たちはみんな岡崎さんのライブに来ればいいのにと思います。こんな人たちは、そもそもライブ自体に行ったこともないのではないですか。だからケンカばかりしたがるのですよ。同じ参戦でも、ライブ参戦なら大歓迎なのに!
ちなみに岡崎さんの2023年のスローガンは『のびやかな活動』なのだそうです。体型に合ってていいですね。世界中の誰もが、のびやかでありますように。ラブアンドピース。


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