見出し画像

婚約破棄されたカキフライ令嬢は奇跡の再会を果たし、永遠の愛を誓い合う

 貴族の集まる結婚式で「次は私かな」なんて思いながらお料理を食べていたら、婚約者のオカイケ・サンビヤ・クエン王子に「オメーモットンノカ・クーポン! 君との婚約を破棄する!」って言われたの。

 突然のことで頭が真っ白になったわ。だって思い当たる節なんてないし、こんなおめでたい席でのことなんだもの。しかも今日、クリスマスなのよ。

「なぜなのですか!」

「やれやれ⋯⋯そんなことも分からないのか」

 えっ⋯⋯私、王子になにかしてしまっていたのかしら。もしそうなら、ちゃんと謝らないと!

「池田ルミ子、こっちにおいで」

 えっ? 池田ルミ子? 誰?

「はぁーい!」

 向こうの方の席から知らない女が歩いてきた。私たちと同い年くらいかしら。

「僕は今日君との婚約を解消し、この池田ルミ子と婚約する!」

「はぁ〜〜〜!?!?!?!?」

 さっきこいつ「やれやれそんなことも分からないのか」とか言ってたけど、分かるわけないじゃない!

「だからさっさとこの場から消えてくれないか!」

「嫌よ!」

 だって今ユンチャッパちゃんの結婚式やってんじゃん。お前に言われたところで抜ける訳には行かんだろ。

「フッ⋯⋯ならばよろしい。これを見ろ!」

 そう言うと彼は池田ルミ子を抱き寄せ、唇を重ねた。

「えっ⋯⋯」

 私もまだしたことないのに。

「ぶっちゅぶっちゅぶっちゅベロベロベロ」

 2人ともこちらを向いて濃厚なディープキスを見せつけてくる。

「ベッチョベッチョベッチョベッチョれろれろれろれろれろれろれろれろれろ」

 こんな⋯⋯こんな屈辱って⋯⋯あんまりだわァ!

 ((((((((((((*ノノ) ヒドイワーッ

 涙が溢れた。
 目を瞑って思いっきり走った。

 大好きだったのに! 彼以外考えられないと思ってたのに!

 途中、何かに躓いてバランスを崩した。
 目の前には『死ボックス』と書かれた真っ黒な箱があった。なんだこれ。なんでこんなのが結婚式場に⋯⋯

「うんこ女! 危ない!」

 この彼の声が、私が聞いた最期の音だった。
 こんなどストレートな最悪なあだ名で呼ばれてたんだ、私⋯⋯

 でも、心配してもらえて、嬉し⋯⋯




 痛っ! 誰か足引っ張ってる!? 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!!!!! 死ボックスってこうなの? 死ボックスの中に入ると足が痛くなるの!?!?!?

 ぎゃーーーーーーーっ!!

 痛ぁーーーーーーーーーっ!!!!




 

 気がつくと、結婚式場にいた。全員いなくなっていて、スタッフの人が料理の片付けをしていた。

 よいしょ⋯⋯あれ、体が動かない。

 そうだ私、死ボックスで⋯⋯
 いや、死ボックスってなに?

 あと池田ルミ子ってなに人なの? こんな字私の国にあった? 私の記憶だと、日本語で言うところのカタカナしか名前には使われてなかったんだけど? しかもなんで毎回フルネームなの? 意味分かんないんですけど!

 もしかしてここってあの世⋯⋯? だから身動き取れないの? 地獄だったりして⋯⋯

「おっ! ラッキ〜!」

 どこかから男の声が聞こえたかと思うと、視界が真っ暗になって身体を圧迫された。
 圧迫が解かれたと思ったら、今度は真っ暗な袋のようなところに閉じ込められていた。

 移動している感じがする。巾着にでも入れられて、運ばれているのかしら。どこに連れていかれるのかな⋯⋯血の池地獄? 針山地獄? それか舌を引っこ抜かれたりして⋯⋯ううう、怖い。

「おーい新人ー! ここのテーブルに残ってたカキフライ知らねーか?」

「ちょっと分かんないっす! 先輩の見間違いじゃないっすか?」

 声の振動からして、この新人が私を持ち運んでいるに違いない。だとしたら私、めちゃくちゃちっちゃくなってない?

「そっかー、見間違いかぁ⋯⋯」

「ふぅー⋯⋯」

「なんてな! お前食っただろ! 手に揚げカスがついてんだよ! パン粉のカスがなぁ!」

「ひぃっ! ごめんなさい! ごめんなさぁい!」

 素手で食べたのかよ。
 それにしても、ここは地獄ではないようね。良かった。

 でも、私が人間じゃなくなってるのは明らか。いったい私は何者なの?

「とにかく、もう客が残したものなんて食うな。賄いなら作ってやるからよ。分かったな?」

「えっ、良いんですか!? ありがとうございます!」

「分かったらさっさと仕事しろ」

「はい!」

 なんか知らないけど解決したみたいね。それにしてもつまみ食い1つでワーワー言うなんて、ケチよね。まぁ私だったら食べないけどね、一旦他人を経由したカキフライなんて。何か入れられてるかもしれないし。

 ふぁぁ、眠くなってきた。この人もお腹が減ってただけで悪い人じゃなさそうだし、ちょっとくらい寝ても大丈夫よ⋯⋯ね⋯⋯フンゴー(-ω-)プシュルルルー


 フンゴー(-ω-)プシュルルルー


 フンゴー(-ω-)プシュルルルー


 フンガッ(◉ω◉)


 フンゴー(-ω-)プシュルルルー


 フンゴー(-ω-)プシュルルルー


 誰かに身体を触られたような感触で目を覚ますと、目の前に信じられない光景があった。

 ポケットからカキフライを取り出している男がいるのだ。素手で、直にポケットに入っていたカキフライを取り出している! これは由々しき問題だぁ!

 ってこれ鏡じゃないの。

 鏡⋯⋯鏡⋯⋯

 えっ。私カキフライなの?

「ほら、もう大丈夫だぞ〜」

 動けないから何かしらの『モノ』になったんだろうとは思ってたけど、まさかカキフライとは⋯⋯これが異世界転生ってやつなの? もしかして、さっきつまみ食いしたって言ってたカキフライが私!?

「なぁお前、なんであんなところにいたんだ〜?」

 えっと、結婚式で残ったカキフライを直にポケットに入れて家に持ち帰ってきて、取り出して話しかけてるんだよね? 大丈夫コイツ?

「寒くはないよな?」

 寒くはないわね。衣があるからかしら。

「おー可愛いなぁ可愛いなぁ」

 もしかして、コイツにはハムスターとかそういう別のものに見えてるの?

「タルタルが良いかなぁ?」

 やっぱカキフライなんだ。

「オーブンで焼けば食感復活するかなぁ」

 カキフライって分かった上で話しかけてんだ。可愛がってんだ。コイツ怖。ていうか食べられちゃうの? 私。

「でも仕事で疲れたからまずはシャワー浴びよ」

 良かった、1人になれる⋯⋯わわっ!?

 持ち上げられたんですけど? お風呂場行くんでしょ?

「おーお前もさっぱりしたいかぁ〜」

 したくねーわ! 衣べっちょべちょになるわ! くそ! 声も出ないじゃないの! もう!

 彼は脱衣所で立ち止まり、私は洗濯機の上に置かれた。この時、初めて彼の顔を見た。

 その顔はまさしく、私の前世の婚約者(裏切ったけど)、オカイケ・サンビヤ・クエン王子その人だった。

 これって、運命なのかしら⋯⋯?

「よいしょ」

 ああーーーーーっ! おおお王子がっっっっっ! 私の目の前でシャツををををを!!!

「よいしょ」

 ズボンをっっっっ!!!!!

「よっこいしょーいち」

 パンツを!!!!!!!!!

 はわわわわわわわわわっ!

 王子の裸、見ちゃった! はわわっ!

 ⋯⋯ふふふ。

「よし、入るぞおカキ!」

 王子はそう言って私に手を伸ばした。私にはオメーモットンノカ・クーポンという名前があるのに⋯⋯
 あと、おカキって言うとおかきみたいじゃないの⋯⋯

「熱っ!!!」

 私に触れた瞬間、王子はそう叫んで手を引いた。私、そんなに熱いの? 王子の裸を見たからかしら?

 王子は手を水で濡らして冷やしてから、また私を掴んだ。

「よし、触れる」

 大切そうに手で包み、シャワーのお湯で私の身体を洗う王子。ボディーソープをワンプッシュ⋯⋯って、私カキフライなんだよね? いくら顔が王子でもお風呂でカキフライ洗う男はちょっと⋯⋯あっ、鏡に映る王子もかっこい⋯⋯キュン。

「あー、衣が剥がれちゃうな。いっそのこと全部剥がしちゃうか」

 えっ!?

 私、王子にお風呂で脱がされちゃうの!?

 今まではきつね色の衣に守られてたからいいものの、中身はなかなかにグロテスクな⋯⋯きゃあっ!

「お前、ツルツルだなぁ〜! よーしよしよし!」

 きゃああっっ!

 ボディーソープでぬるぬると私を洗う王子。自分が牡蠣であることなんか忘れて、私は恥ずかしさで気を失った。

 気がつくと、ベッドの上で王子と横になっていた。布団の隙間から王子のたくましい胸筋が覗いている。パジャマは着ていないようだった。

 もしかして⋯⋯シたの?

 王子に私、されちゃったの!?

「あー気持ちよかったぁ」

 やっぱり⋯⋯! いやちょっと待って? 私、牡蠣だよね? 普通に考えて牡蠣となんてしないよね!?

「それじゃ、おやすみ」

 そうだ、普通は牡蠣におやすみなんて言わないんだ。コイツなら何をしても不思議じゃない⋯⋯私、処女奪われちゃったんだ。どうせなら、起きてたかったなぁ。

 いつの間にか寝ていた。
 目を覚ますと、目の前に私がいた。

 鏡⋯⋯? 今までのは夢で、元の世界に戻ってきたの?

「完全無料でございます!」

 王子の声がした。王子といっても、偽物の王子だけど。やっぱり夢じゃなかったのかな。でも私は戻ってるみたいだし⋯⋯あれ、体が動かない。

「明日にでも撤去して取り替えられますので!」

「じゃあお願いしようかしら」

 喋った!? 私は喋ってないのに、目の前の私が喋った!? 普通の100倍サイズの混乱がまた⋯⋯

 もしかしてこの人、私じゃなくて、私のそっくりさん!?

「ありがとうございます! ではこちらにサインを⋯⋯」

 そういえばコイツはなにをやってるのかしら。結婚式場のスタッフのはずなのに、こんな営業みたいなことして。もしかして掛け持ち? 貧乏なのかしら?

 下の方からiPadを持った手が出てきた。そうか、私は今、コイツの体にくっついてるのね。
 目線の高さ的に胸のあたりかしら⋯⋯ということは、もしかして胸ポケットに入ってる!?

「可愛いカキフライですね」

 ファッ!?
 何言ってんだもう1人の私! お前もおかしいのか!?

「えへへ、ありがとうございます」

 ていうか昨日衣脱がされたよね? もうカキフライじゃないわよね? もしかしてまたつけられて揚げられた? いや、だとしたら揚げられてる時に起きるかさすがに⋯⋯寒っ。それにしても、寒っ! やっぱ裸なんだな! 裸の私を見てカキフライって、こいつ正気なの? ⋯⋯待てよ? こんなに寒いってことはもしかしてポケットじゃないところにいる? いやそうよね、ポケットだったら外の景色なんて見えないはずだもの。どうなってるの?

「それでは、ご確認お願いいたします」

 いろいろ記入されたiPadを差し出し、確認を促す王子。真剣な顔で画面を見つめる私もどき。

 見れば見るほど私だなぁ。こんなこともあるのねぇ。
 それにしても、王子のそっくりさんと私のそっくりさんがこうして出会ってるっていうのも、なんだか運命を感じちゃうわね。ま、本人たちは知らないからなんとも思ってないんだろうけど。

「⋯⋯確認しました。OKです」

「ありがとうございます」

 私もどきからiPadを受け取った瞬間、視界が揺らいだ。グルグル回りながら、私はおそらく地面に落ちた。

 王子が「あっ!」というような顔で私を見て手を伸ばした。王子の手が私に触れた時、その王子の手に私もどきの手が触れていた。

「あっ、ごめんなさい!」

「いえこちらこそっ! ありがとうございますね!」

 図書館で同じ本を取ろうとして手が触れたような顔の2人。恥ずかしそうにモジモジしている。

 しばらくして、「あの、実は」という声が2人から同時に聞こえた。

「えっ、あ、どうぞ!」

「いえお兄さんこそお先にどうぞ!」

「そうですか⋯⋯実はさっきお客様がドアを開けて出ていらした時、初めて会った気がしなかったんです。どこかで会ってたりしますかね⋯⋯なんて、はは」

「えっ! お兄さんもですか!? 実は私もそうなんです!」

「えっ!? ホントですか!」

 何言ってんだ? なんでこの2人が私と王子の感動の再会みたいな展開になってるの?

「⋯⋯もしよろしかったら、中で少しお話でもしませんか?」

「ええっ!? はい! よろこんで!」

 ちょっと待って! お前昨日私の処女奪っといてなに鼻の下伸ばして女の家入ってんのよ! 聞こえてるでしょ! 聞こえてたら返事しろー!

「ワクワク(*・ω・*)テカテカ」

 とにかく嬉しそうな王子。聞こえてないっぽい。クソが。

 一瞬奥の洗面所の鏡に私が映った。
 私はカキフライで、背中に丸い磁石がついていた。カキフライだったんだ、私。また揚げられてたんだ⋯⋯

 居間に入ると、コタツ机の上にエビフライが1本置いてあるのが見えた。机に直に置いてあった。おかしいだろ。

「どうぞ座っててください。ココア入れてきますね」

「お構いなく!」

 そう言って王子は私をエビフライの隣に置いて、自分もコタツに座った。王子のスーツの胸のあたりに私の背中にあったのと同じような磁石らしきものがついている。

 もしかして、磁石で私を胸のところにくっつけてたの? それで外歩いてたの? スーツにカキフライって、そんなファッションこの世にあるの?

 それにしてもこのエビフライ⋯⋯見れば見るほどエビフライね。おいしそう。ずっと何も食べてなかったからお腹減ってきた。

 でも動けない。どうすればいいのかしら。

「お待たせしました、どうぞ」

「お構いなく」

 それしか言わないなお前。持ってきてくれたんだからありがとうでいいだろうに。

「あったかい⋯⋯まるで、君の心のようだ」

 え? コイツ何言ってんの? 今初めて会ったんでしょ? それはさすがにキショいよ?

「そ、そんな⋯⋯ぽっ」

 コイツもなんなの? 私の見た目で尻軽女やられてちゃこっちも黙って見てられないわよ?

「⋯⋯しよっか」

「⋯⋯うん♡」

 は!?!?!?!?

 なに? どこでそうなった!? いつどこでそうなったぁ!?!?!? この世界おかしいのか!?

「襲っちゃうぞ〜! ぴょーん!」

 なんなんだコイツ! キモすぎだろ! 痛っ! 今肘当てられて吹っ飛んだんだけど! 慰謝料払えこんにゃろ!

 カチャ

 まったく、ふざけんな!

 ⋯⋯ん? 『カチャ』ってなんの音? ⋯⋯わぁ!!
 背中にエビフライがくっついてる!!

〈おい君! そいつを止めろ!〉

 誰!? 誰が私に話しかけてるの!?

 よく見ると、背中のエビフライには安全ピンがついていて、その安全ピンが私の背中の磁石にくっついているようだった。もしかしてこの女、エビフライ胸につけて外歩く奴なの? この世界そんなのばっかなの?

〈なに独りごと言ってるんだ! 早くそいつを止めてくれ!〉

 え、私の心の声が聞こえるの!? 誰なのあなたは!

〈僕は君の背中についてるエビフライだ! どうやら磁力でくっついたことで意思の疎通を図ることが出来たようだ!〉

 へー! 私以外にもいたんだ! 意思を持つ揚げ物! 嬉しい! いろいろ話そうよ!

〈分かったから! 分かったから今はそいつを止めてくれ!〉

 いや、無理よ? 私動けないし喋れないもの。

〈なんだって⋯⋯!? じゃあ、彼女はこのままそいつに⋯⋯おい! お前! 顔を見せろ! どんな顔をしてるんだ! おい!〉

 ああ、顔見てなかったのね。
 すごくイケメンよ。私の好きだった人にそっくりなの。この世で1番カッコイイかも。

〈なんだ? 君もそいつに惚れてるのか? じゃあ自分以外の女としようとしてるのをなぜ止めない!〉

 だから言ってるじゃん! 動けないし声も出ないの! あなたもそうでしょ!

 それにしても、あなたはどうしてそこまでその子にこだわるの? 私たちは揚げ物なのよ?

〈それは、彼女が僕の婚約者だからだ!〉

 婚約者!? エビフライと婚約する人間がこの世に!?

〈いや、まあ一方的な話なんだけど〉

 なぁんだ。

〈でもそれは彼女が記憶をなくしているだけで、思い出したら僕と結婚してくれるはずなんだ! 酷いことも言っちゃったけど、彼女なら許してくれると思う⋯⋯〉

 なんか重い話になってきたなぁ。
 でもダメだよ、女の子に酷いことなんて言っちゃ。なんて言ったの?

〈ドン引きだと思うけど⋯⋯うんこ女って⋯⋯〉

 えっ? うんこ⋯⋯女?

〈やっぱり引いてるね⋯⋯〉

 そのうんこ女を、なぜ助けたいの?

〈それはもちろん、大切な人だからだよ〉

 ⋯⋯詳しく聞かせてよ。

〈いやでもそんな場合じゃ⋯⋯彼女が君の持ち主に犯されちゃう〉

 大丈夫よ。

〈大丈夫じゃないよ!〉

 大丈夫よ。私知ってるもの。だから私を信じて、話の続きをしてちょうだい。

〈何者なんだ君は⋯⋯でも、初めて会った感じはしないな。もしかして、どっかで会ってる?〉

 あいつと同じこと言ってるじゃん。

〈え?〉

 なんでもない。続きをどうぞ。なんでうんこ女なんて言っちゃったの?

〈うん、実は事情があって、前の世界でその子との婚約を解消しなくちゃいけなくなったんだ。僕と結婚すると、不幸にさせちゃうから⋯⋯だから、突き離そうとしたんだ〉

 だからってうんこ女って言うことないじゃないの。

〈それで不幸にしても構わない悪女を新しい婚約者にして、彼女を巻き込まないようにしたんだ。そしたら彼女、死ボックスのほうに走り出しちゃって〉

 死ボックス。

〈で、案の定転んで死ボックスにハマっちゃって、その彼女を引っこ抜こうとしたら僕も吸い込まれちゃってね。このザマだよ。なんで彼女だけ人間の姿のままなのかは分からないけど、とにかく助けないとと思ってね〉

 パンパンパンパンパンパンパンパン!!

 おっぱじめちゃったわね。部屋にすごい音が響いてる。

 アンアンアンアンマンマンマンマン!!

〈うわああああああ! 僕の大切な彼女があああああああああああ!! なんかめっちゃ喘いでるし!! 処女じゃなかったのかあああああああ!!!〉

 王子、安心して。

〈え⋯⋯?〉

 私はここにいるわ。

〈君は⋯⋯〉

 そう。

〈君は、オメーモットンノカ⋯⋯なのか!?〉

 そうよ、王子! 私よ!

〈オメーモットンノカぁああ!!〉

 王子⋯⋯!!!

〈⋯⋯じゃああの子、誰!?〉

 私によく似た知らない女性よ。ちなみにこっちの男はあなたそっくりよ。あっちも運命の再会だったのかもね。

〈そう⋯⋯だったのか⋯⋯〉

 それにしても王子、あなただったのね。死ボックスの中で私の足を引っ張ってたのは。

〈足を引っ張るって言うと足でまといみたいに聞こえるけど、そうだよ。助けようと思ったんだ⋯⋯〉

 ねぇ、なんで婚約破棄なんかしたの? 不幸ってなに?

〈実は僕の父が隣国から多額の借金をしていてね、我が国は大赤字だったんだ。父は君はもちろん、君の実家もあてにするつもりだったんだ。だから僕と結婚すると、貧乏な暮らししか出来なくなる。そんなの、嫌だろ?〉

 そんな、お金なんて無くてもいいのに⋯⋯

〈え?〉

 私は王子さえいてくれたら、貴方と一緒に暮らせさえしたら他には何もいらないの!

〈オメーモットンノカ⋯⋯!〉

 王子、今度は私からプロポーズするわ!

 私と、結婚してください!

〈もちろんだ! 辛い思いをさせてごめんよオメーモットンノカぁああ!〉

「お風呂行こうか」

「うんっ」

 あ、終わったみたい。

〈ここまで僕たちに似てると、なんだか恥ずかしいね〉

 それめっちゃ分かる。

「すごいね岡池くん。絶対赤ちゃん出来てるよこれ⋯⋯」

「じゃあ僕が責任とらないとね」

「うふふっ、もう!」

 岡池って言うんだ。名前まで同じとは⋯⋯

〈コイツら初対面なんだよね? すごいねこの世界の人は〉

 ね〜。

〈これからどうする? って言ってもここから動けないけど〉

 あなたと添い遂げるわ。動けなくたっていい。一緒に居られればそれだけで私は幸せなの⋯⋯

〈オメーモットンノカ⋯⋯〉

 王子⋯⋯






 チュッ

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?