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新作RPG『ジジクエ』

 やぁ、オレはこのRPGゲーム『ジジクエ』の主人公『?????』だ。よろしくな!
 まずはオレに名前をつけてくれ! 5文字までで頼むぜ!

 _ _ し っ こ  ▹決定

 名前をつけてくれてありがとな! 『しっこ』か⋯⋯いい名前だな! じゃあさっそく旅に出るぜ!


 ▹第1章 ジジイの森


 よーし探索だ!

 お、さっそく現れやがったな! ジジイの群れだ! まずはレベルの確認だ。Qボタンを押してみてくれ。

 なるほど、全員レベル84か。おそらくこれは同窓会だな。いやちょっと待てよ? 同窓会ならババアが1人もいないのはおかしくないか?

 遠くから見てるから、もしかしたらジジイに見えてるだけでババアも混じってるのかもしれない。虫眼鏡ツールを使って確認してみよう! Tボタンだ!

 ババアLv.84 ババアLv.84 ババアLv.84

 ババアLv.84 ババアLv.84 ババアLv.84

 ババアLv.84 ババアLv.84 ババアLv.84

 ババアLv.84 ジジイLv.84 ババアLv.84


 全員ババアじゃねーか! これじゃババアの群れだよ! ⋯⋯いや、よく見ると1人ジジイがいる! これ、ハーレムじゃねえか! ここはゲームの世界だから、異世界ハーレムじゃねえか!

 ▹たたかう  にげる

 よし、戦うんだな! 張り切っていこうぜ!

  なぐりとばす  ぼうげんをはく

  にらみつける ▹しりをさわる

 幸い全員尻丸出し状態だったので、全ての尻を触ることが出来た。12人は何か言いたそうな顔でこちらを見ている。

『@&%#&#{}$¥+%#&』

 全員一緒に喋ったので聞こえなかった。ジジイ1人を残して全員殺しますか?

 ▹はい  いいえ

「愛知県に住んでいるハゲ大王を説得してきて欲しいのじゃ。勇者しっこよ、頼んだにょ」

 なんと、森にいたジジイはこの国の王様だったのだ。オレはさっき、この国の王様の尻を触ってしまったということになる。でも丸出しだったんだからオレは悪くないよな。よな?


 ▹第2章 寿司屋


 戦ったら腹が減ったぜ。そこの寿司屋に入ろうぜ。寿司屋入店用のボタンはSボタンだぜ。

「へいらっしゃい⋯⋯なんだ、しっこか。お前、何しに来た」

 実はオレはこの店の跡取り息子なんだ。1年前にパチンコで借金を作って、連帯保証人になってもらってた親父に押し付けて家を飛び出したんだ。返せたのかな、4630万円。

「オレは今勇者やってんだ。腹ごしらえしに来ただけだよ」

「けっ! 客として来たんならしゃあねぇか⋯⋯食わせてやるよ、俺の寿司」

 オレはえんがわを注文した。親父が初めてオレに握ってくれた思い出の寿司だ。親父が覚えてるかは分からねぇが、たまに食べたくなるんだ。

 えんがわは店によってはヒラメだったりカレイだったりするらしいのだが、うちはどっちのえんがわなんだろうか。ヒラメのほうが高級だって話は聞くが。

「へいお待ち! えんがわ、日向ぼっこしてるおばあちゃん付きだよ! いつも来てくれてるからサービスしちゃったよ!」

 そうだ、思い出した! 昔親父が握ってくれたえんがわはこれだ! ヒラメでもカレイでもなく、家のえんがわだったんだ! しかも今回はサービスで日向ぼっこ中のおばあちゃんが付いてきたぜ!

 ⋯⋯ん? そういえば、いつも来てくれてるからサービスって言ったよな? オレは1年前に家を飛び出してから1回も来てないんだが。誰かと勘違いしてるのか?

「いったい誰と間違えてんのよ! もう1年もここに来てないのに!」

 こういうことは口で伝えるのが1番だ。でなければ勝手な思い込みで誤解をしたままになってしまう。

「⋯⋯間違えてなんかいねぇよ。お前はもうしっこじゃねえ。後ろを見てみろ、本物のしっこがいるぜ」

 後ろを向くと、全然知らないジジイが立っていた。なにこれ。ドッキリ? だとしてもどういうドッキリ? 意味分かんねぇよ。

「どうも、大将のひとり息子のしっこと申します」

 ひとり息子だと!? ひとり息子はオレのはずだ。そうか! オレは捨てられたのか! いや、オレが家族を捨てたんだった!

 それにしてもこのジジイ、どう見ても親父より歳上なんだが、跡継ぎとして大丈夫なのか? 親父が引退する頃には死んでるんじゃないか?

 腹減ったな。入った時に親父はオレに寿司を食べさせてくれると言ったはずだ。なのになぜ食べさせてくれないんだ。債務不履行じゃないか!

「親父! さっき食べさせてくれるって言ったのに、なんで寿司をくれないんだ!」

「お前、知らないジジイを養子に迎えるような人間に話が通じると思ってるのか?」

 確かに、まさしくその通りだ。

「大将、あんたこんなものを寿司だと言って客に出してるのかい」

 カウンターに座っていたヨレヨレのスーツを着た男が口を開いた。

「縁側でもおばあちゃんでも、シャリに乗っけちまえばそれはもう寿司だ! 異論は認めねぇ!」

「なるほど、それでも寿司だと言い張るのか。それを客に出す商品だと言うんだな」

「あたりめぇよ!」

 ててて〜ん♪ しっこはレベルアップした

 たいりょくが1下がった

 けつあつが2上がった

 すばやさが1下がった

 きおくりょくが1下がった

 DVDレンタル無料券を1枚手に入れた

「商品だというのなら、それらの原価と、それぞれ何グラムで提供しているのか答えてみろ」

「シャリ18g2000円、縁側130kg5万円、おばあちゃん32kg848円、提供価格は110円だ!」

「くっ⋯⋯俺の負けだ。ここは立派な寿司屋だ。これからも頑張ってくれ」

 そう言って男は立ち去った。食い逃げだ。

 ▹おいかける  みのがす

 オレは男を追いかけた。縁石を越え車道を越え、信号を曲がり山に登り、城に入り、ヤツがハゲ大王の膝の上にちょこんと座ったところを捕まえた。

 店に戻ったオレは、男を親父に差し出した。

「どうか警察だけは⋯⋯」

「ああ、通報はしないでおいてやるよ」

「許してくれるんですか⋯⋯!」

 男は涙を流して大将を見つめている。オレは唯一の武器である爪切りの手入れをしている。

「綱渡り成功したら許してやるよ」

「頑張ります!」

 さぁさぁよってらっしゃい見てらっしゃい! 食い逃げ犯の綱渡りの時間だよ!

 今回は有刺鉄線の上を300kgのバケツを持って渡ってもらいましょう! 距離は150mです!

 さぁ皆さん石ころは持ちましたか? よーい、スタート!

「足が痛いよぉ〜バケツ重いよぉ〜。助けでよぉ〜死んじゃうよぉ〜」

 食い逃げ犯が泣いている。犯罪者の命乞いだ。滑稽極まる。食い逃げというのは、死をもって償うべき罪なのだ。ちなみにバケツには3人の太ったおじさんが入っている。そのおじさん達も1人1個ずつ石ころを持っている。

 ドガーン!

 王様から着信だ。

『しっこよ、何をしておる! ハゲ大王が怒っておるぞ! やっと来たと思ったら一瞬で帰りやがった、と言っておったぞ!』

 本来の使命を忘れてしまっていた。オレは勇者としてハゲ大王を説得しなければならないのだ。この電話で目が覚めた思いだった。というか着信音で目が覚めた。エリーゼのためにに設定してたはずなのに、なんで噴火の着信音になってるんだ。誰か勝手にオレのスマホ触ったのか? 写真アプリ開いてないだろうな。検索履歴見てないだろうな。

 さぁ! ボタンを押してオレをハゲ大王の城に連れて行ってくれ! Aボタンだ!

「へいらっしゃーい!」

 ここは愛知県で1番高い寿司屋だ。芸能人もよく訪れるのだという。オレ言ったよな、Aボタン押せって。Sボタンが寿司屋入店用のボタンだっていうのも言ったよな。なんでSボタン押すんだよ。また王様に怒られるだろ。でもまぁ、親父の店では何も食べられなかったし、ここで何か食べるか。

「カッパ巻ください」

「カッパは絶滅危惧種なので売れないんですよー」

 そんなの聞いてないぞ。いったいいつから指定されたんだ? 仕方がない、他のにするか。

「サラダ巻ください」

「ごめんなさいね、サラダ巻もなんちゃら指定保護動物なんで⋯⋯」

 ここなんなん? 何も売ってないじゃん。

「じゃあ鉄火巻! これがないなんて言わせないよ!」

「あいよ!」

 やっと注文が通った。王様からめっちゃ着信入ってるけど無視しよう。せっかく高級な寿司屋に来たんだから。

「へいお待ち! しっこ寿司だよ!」

 寿司屋ってのは全員狂ってるのか。客の名前の寿司を出すなんて失礼だろ。しかもシャリだけだし、なんなんだこれ。黄色いソースみたいなのがかかってるな。

 オレは醤油をつけて口へ放り込んだ。味しねぇ。醤油の味すらしない。味覚障害か? まだまだ行くぜ。ちょっと食べると余計に腹が減るんだよな。

「ブリ軍艦!」

「ブリ軍艦!? ⋯⋯まぁ、出来ないことはないんで、やってみますね」

 なんだ、この店はブリ軍艦がないのか。

「へいお待ち!」

 そうそうこれこれ、これが美味いんだよなぁ。ナポリタンみたいな味で最高。

「大将、今お会計いくらですか?」

 愛知で1番高い店だから、途中でいくら位行ってるのか気になるんだよな。まだ2つだけだし、そんなにだろうけど。

「しっこ寿司とブリ軍艦で、3億ベリーになります」

 どうしよう、日本円しか持ってないよ! まさか漫画の中の通貨での支払いを要求されるとは⋯⋯

  しはらう ▹にげる

 食い逃げスタート! オレは死にものぐるいで走った。

「待てコノヤロー!」

 鬼の形相で追いかけてくる店主。必死で走るオレ。店主との距離は広がっていく。

「なんて速さだ! ハァハァ⋯⋯その速さもしや、伝説の勇者『疾虎しっこ』か!?」

「いかにも」

 オレは伝説の勇者疾虎。疾風の如く走り、虎の如く戦う、最強の戦士だ。その最強の戦士のオレが食い逃げをしている。これはとんでもないことだ。本当に申し訳ない。


 ▹第3章 ジジイの森・再訪


 ハゲ大王の城はジジイの森を抜けた先にあるのだ。さっきは腹が減ってたので寿司屋に行ったが、今回はこのまま城まで行く。

 野生のジジイが2人現れた! 1人は銃を持っており、もう1人は伝説の剣『喰刃しょくば大剣たいけん』を持っている。銃は気にする必要はないが、喰刃大剣は要注意だ。中学校のイベントのような名前とは裏腹に、日本一の切れ味を持っている。

 ▹たたかう  にげる

「覚悟おおおおお!」

 喰刃大剣を持っているジジイが斬りかかってきた。すばやさがジジイのほうが上だったようだ。疾虎であるオレより速いジジイってなんなの?

 ガキン!

 喰刃大剣はオレの鎧に触れると、大きな音を立てて折れた。ジジイは驚いた顔をしている。

 残念だがジジイ、折れて当然だ。喰刃大剣は日本一の切れ味だが、このオレの鎧は世界一硬い物質『やわほにゃほわわぽん』で出来ているのだから。

 オレは爪切りでジジイ達を片付けた。やはり伝説の勇者様の前では伝説の剣を持ったジジイすら赤子同然! オレは強い!

 ジジイが立ち上がり、仲間になりたそうにこちらを見ている。仲間にしてあげますか?

 ▹はい  いいえ

 ファイナルアンサー?

 ▹はい  いいえ

 本当にファイナルアンサー?

 ▹はい  いいえ

 ジジイが仲間になった!

 GAME OVER

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