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【怖いけど怖くない怪談】#1真夜中のドライブ

 ドライブ好きなSさんの彼はその日も急に連絡してきたそうで、深夜のドライブに駆り出されたのだという。

「もうお風呂も入っちゃって、あとは寝るだけだったんだよ?」

 寝る準備をしていたSさんが不満を述べる。

「ごめんごめん、ネット見てたら良い道見つけちゃってさぁ、Sと一緒に走りたくなっちゃってぇ」

 彼はいつも思い立つと昼夜問わずSさんをドライブに誘うのだそうだ。

 暗い山道をただただ進んでゆく。

『夜中だから景色なんて全然見えないし、同じような道ばかりで正直退屈でした』

 Sさんはそう私に愚痴をこぼした。

『で、問題はその後なんです』

 その後、山道を走っていた2人の前を何かが横切ったのだという。

「ねぇ、今何か横切ったよね?」

「ああ⋯⋯」

 彼の顔が強ばっている。

「見たの? 動物かなにか?」

「いや、動物なんかじゃなかった」

「えっ⋯⋯」

 Sさんは息を飲んだ。

「なんでか分かんねぇけど、血まみれのジジイが笑顔で走ってた。こっち見ながら」

「え、なにそれ。怖い⋯⋯」

「頭が異様に細長くてさ、この世のものじゃないみたいな感じで」

「何よそれ。その話もうやめようよ、こんな山奥でそんな話⋯⋯」

「多分あれ何かに轢かれたんだよ。んでさ、」

「やめて! それ以上言わないで、怖い!」

「そのジジイ、笑顔のままで何か言ってたんだよ」

「やめてってば!」

「口の動きで分かっちまったんだけど、あれさぁ」

「いやぁあああ!!」

「多分『キムタク』って言ってた」

 それからSさんは夜中のドライブには付き合わなくなったという。


次話

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