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もうすぐ閉館してしまう銭湯に行ってきた(2022年5月23日)

出発!

 先日投稿した↓の銭湯にまた行ってきたよ!

 なんとここ、7月31日で閉館しちゃうそうなので最後にもう1回行ってきたよ!(2023年時点ではもう潰れちゃってる)


 まだ2ヶ月あるが、私が6月から忙しくなるので、5月中に行きたかったのだ。この銭湯は私の家からとても遠く、電車でしか行けないようなところなので、朝早くに家を出た。

 そういえば今40円しか持っていないんだった。駅のATMで下ろそう。2000円だけ入っている口座があるので、ついでにそれも引き出しておこう。

 駅に着いた私はATMコーナーに入り、まず2000円のほうの口座のキャッシュカードを入れた。実際には2321円入っていたので、321円残る形になった。次にメインの口座。暗証番号を入力する。⋯⋯ん? さっきと数字キーの並びが違う気がするな。

 この機械の数字キーには0が8個ほどあるのだが、最初は上と右側に集まっていた気がする。しかし、2回目は上と左側にあるのだ。明らかに変わっている。私は理由を考えた。

 こういう時は調べると簡単に答えが出てくるが、私はなるべくそういうことはしない事にしている。全く知らない漢字とかがあったら調べるが、推測でなんとかなりそうなことは自分で考えたい主義なのだ。それが楽しい。

 といってもこれは簡単な問題だ。後ろから手の動きで暗証番号を推測されないように、ということだろう。毎回キーの位置が変わっていれば、後ろから見ていても分かりづらいはずだ。ただ、変わり方も4パターンくらいな気がしたので、キャッシュカードを手に入れた悪いヤツが手の動きを元に推測して、何回かやれば通ってしまうのではないだろうか。

 ということは、私の推理が間違っているということか? 簡単な問題だと思ったが、奥が深い⋯⋯いやいや、そうでもないかもしれないぞ。実は答えは簡単でした、かもしれない。もっとセキュリティを強化するなら、毎回数字をデタラメに配置すればいいが、そうなると恐らく苦情が殺到するだろう。それゆえ、盗み見への些細な抵抗として考えられたものなのではないだろうか。

 読者諸君は私に「はよ調べろや」と思っただろうか。私は基本的に考え抜いて分からなかったことは調べずに終わる。自分で考えて答えを出そうとしているような疑問は大抵どうでもいい疑問なのだ。今回のことだって、わざわざ調べるほどのことでもない、知っておく必要もないことだろう。

 そんなことをATMの前で考えていると、ふとATMの銀色の部分にチャイナ服が映っているのが見えた。しまった、後ろに人がいたのか。待たせてしまったな。

 私はカードを片付け、「すみません」と言いながら後ろを向いた。あまり人の顔を見るのはよくないが、チャイナ服を着ている人ってどんな人なんだろうか、と思い少しだけ顔に目線を向けてみた。

 綺麗な黒髪が光る後頭部がある。なんだ? 並んでたんじゃなくて、あっち向いて立ってただけ? いや、服はこっち向いてるしな⋯⋯あれ、足は向こう向いてるぞ。体だけこっち向いてるってこと!? なにこれ! という思考を約0.5秒で済ませ、私は立ち去ろうとした。

「あ、並んでませんよ」

 喋った! 妖怪胴体後ろ向き女が喋ったぞ! こちらを向いた女性は明らかに前後逆のチャイナ服を着ていた。ただ逆に着てただけなのか? なんで? これ自分で気づかないのおかしくない? 首のところ苦しそうだけど、なんで気づかないの? 最近はそういうファッションなの?

 あまり見ているのも失礼なので、私は改札へ向かった。すごいぞこの駅、ホワイトチョコの匂いがする。いい匂〜い。

 私はICカードに1000円チャージして、駅のホームに入った。今日は日が照っていて少々暑い。しかし、いい風が吹いているので帳消しだ。

 銭湯が10時開店なので少し遅めに出たのだが、それでも電車に乗ったら満員だった。1時間早かったらもっとギュウギュウ詰めだったことだろう。

「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ」
「ぺちゃくちゃ!」
「ぺちゃくちゃぺちゃくちゃ!」
「あはははは!」

 女性2人組が大きな声で会話をしている。今は感染拡大防止のため、大きな声は出さない方がいい。というかそもそも、満員電車で大声で話さないだろ普通。

「喋ってるのあなた達だけですよ」

 私はとても正義感が強いので、2人を注意した。正義感が強く、1度しか会わないような人には強く出られる私は、普段使わない電車に乗っている時は最強なのだ。

「すみません⋯⋯」

 聞き分けのいい人たちで良かった。静かになった車内で、隣にいた大学生くらいの女性が小声で私に話しかけてきた。

「カッコ良かったよ」

 嬉しかったが、正直びっくりした。

「ありがとう」

 と私は返した。確かに嬉しかったけど、よく考えてみたら、絶対この子歳下じゃん。なんでタメ口なの? いや確かに未成年に見えるってよく言われるけど、知らない人相手だったら普通敬語じゃない? もし私が50歳くらいのおじさんの見た目だったとしてもタメ口で話しかけてくるの?

 目的の駅に着いたので私は電車を降りた。この時点で9時40分。あと20分で開店だ。ちょうどいい頃合だろう。私はバス停のある西出口に向かった。

当たりのバス停はどれだ!

 銭湯の最寄り駅に着いた私はバス停のある西出口に向かっていた。前回来た時は反対の出口から出てしまって、真逆の方向に500m歩いた。その反省を活かし、こちらから出るのだ。2.5kmほど歩くのもいいが、今日は楽に行きたいので最初からバスに乗る。

 西出口を出ると、車道を挟んだ向こう側にバス停が見えた。今日は完璧に準備してきてあるので、もう変なところに行くことはない。冷静に、かつ迅速に動く。

 横断歩道の信号が青になったので、私は歩き出した。サイトの案内によると、最寄りのバス停に止まるバスは12・14・16系統だ。普段は全然バスに乗らないので正直系統と言われてもよく分からないが、時刻表を見れば分かるだろう。

 私は横断歩道を渡り切ると、日陰に入ってスマホを起動した。どのバス停で降りるのかを再確認するのだ。やはり〇〇町だな、記憶通りだ。私はスマホをポケットにしまい、歩き出した。

 ブーンプシュン⋯⋯ブロロロロ

 素晴らしい、ちょうどバスが来た。数人並んでいるので、この人たちが乗り込んでいる間に時刻表を見よう。12・14・16系統⋯⋯あれ、〇〇系統っていう表記がそもそも見つからない。どうやって見るのこれ。あ、最後のひとりが乗ってしまった⋯⋯ええい! あんな近くのバス停ならだいたいどのバスでも通るだろう、乗ってしまえ!

 中に入ると、わりと席が空いていた。満員電車でここまで来たので、座れるとめちゃくちゃ嬉しい。お茶を飲んで、ふーっとひと息。外の景色を見ながら飲むお茶は美味い。知らない土地の景色って、いいよね。今日はいい天気だし、最高よ。

 そんなことを思いながら外を見ていると、イオンの建物が目に入った。はて、前に来た時に通っただろうか。位置情報で調べてみるか⋯⋯いやダメだ、スマホの充電がもう38%しかないんだった。音楽聴きすぎた。にしても減るの早すぎだよね。

 なので普通に地図アプリを開いてイオンを探した。イオンイオン⋯⋯イオンなんてないじゃん! じゃあなんだアレは! 幽霊イオンか! クソ、一瞬だけつけるか! 位置情報オン! 確認! オフ!

 ⋯⋯真逆の方向に来てんじゃん。なんでいつもこうなるんだろ。どんな時でも何をやる時でもいつもこうなんだよなぁ。トムとジェリーでいうと、いつもトムが受けている仕打ちみたいな感じだ。

 仕方がない、その辺で降りて駅まで戻ろう。私はすぐに降車ボタンを押した。次のバス停はどこだろうか。無いなぁ、なかなか無いなぁ⋯⋯結局3分くらい走ってようやく止まった。はー、けっこう来てしまったな。どうしようもないので私は駅まで歩いた。

 駅までの道には色んなお店があった。こういうのを見るのも楽しくて好きだ。有名な居酒屋、聞いた事のない個人店、大人のお店などなど、いろんな世界が広がっていた。

「今日はスゲェあっちぃなぁ!」

 エステ店の前にいた若い女性に話しかけられた。カタコトっぽいので外国人だろう。うん、確かに暑い。

「おめぇ今日休みか? いつも大変やなぁ」

 離職中なので毎日お休みですよ、6月までニートですわ。ていうか、この人なんなの? いきなり失礼じゃない? そもそもどこでそんな言葉遣い覚えたんだよ。

「サス⋯⋯」

 若い女性に恐れおののいていた私は精一杯声を絞り出し、その場を去った。でもまだ女子高生とかじゃなくて良かった。女子高生だったらもうホントにこわいから。複数人いたらもう⋯⋯ショック死するかもしれない。

 結局2km弱歩いて駅まで戻ってきた。お金払って変なとこ行って、スタート地点に戻っただけ。もう銭湯も開店してる。戻ったけど、よく見たらここ裏側だな。東側。駅の中を通って向こうに行こう。

 ん、バス停があるぞ? 裏側にもひとつだけバス停があるのか、知らなかったなぁ。もしかしたらこれに乗っても行けたりするのかな。時刻表を見ると、四角で囲まれた26という数字が目に入った。なるほど、系統ってこれのことか。ということは、26だからダメだな。私は踵を返して駅に向かった。

 それにしても都会はすごいなぁ。バス停が部屋みたいになってて、ガラス張りのデカい壁に時刻表が貼ってあるんだもんなぁ。ん、ちょっと待てよ? そういえばもう1個何か貼ってあった気がする。戻って確認しよう。うん、何も貼ってなかった。時刻表と間違えそうな紙どころか、全く何も貼ってないただのガラスだった。

 やはり裏に回らなければならないようだ。私は駅の中を通って裏側に行った。さて、12・14・16⋯⋯ここは18、惜しい。19・20、違う! 22違う! 23違う! ⋯⋯だんだん増えていっているのか? ということは18よりあっちに行けばあるのでは? そう思った私は18系統のバス停まで戻った。

 ちなみに18以降のバス停は10mずつくらいの間隔であったのだが、しばらく歩いても16が見当たらない。じゃあどうやって行けばいいんだよ。なんで18以降はいっぱいあるのに16が見つからないんだ。始発を見つけられないなら、途中で乗るしかないな。私は銭湯のある大きな道まで歩くことにした。

結局歩くのよ

 大きな道へ出て、そこでバス停を探そうと決意した私は、よく分からない場所にいた。始発のバス停を探してぐるぐる回りすぎたようだ。

 だが心配ご無用、あそこに見えるカラオケ屋を目指せばいいのだ。それだけはちゃんと覚えていた。わりとすぐにカラオケ屋のビルまで来ることが出来た私は、ある道を見つめていた。

 先月来た時は向こうの角を曲がったけど、違う景色も見たいしなぁ。よく見たらこっちの角を曲がるとすごい下り坂だ。こっちの方が楽そうだし、こっちにしよう。1本くらい手前でもあの大きい道に出るよね、多分。うん、どう考えても出るよ、だってあっちなんだもん。

 すっげ! この坂すっげ! めっちゃくちゃな角度の坂だ! 楽し〜ひゃははぁ〜! ドテン! 私は転んでしまった。私は目が悪いので、白っぽい地面に白っぽい段差があることに気付けなかった。しかし、ちゃんと受け身は取れていたので、かすり傷で済んだ。

 仕切り直しだ、歩くぜぇ! トコトコと坂を下っていくと、足が疲れ始めてきたのに気が付いた。もしかして下り坂って普通より疲れる? めっちゃ急な坂だから少し踏ん張りながら歩いてるけど、これ疲れるな。

 あ、コンビニ発見。私はこういう建物を見つけると、自分が今正しい道を進んでいるかどうか地図を見て確かめるのだ。私は地図を見て驚愕した。前回歩いた1本向こうの道と今歩いている道は、V字のような関係にあるのだ。歩けば歩くほど、無駄に斜めに進んでしまう。やはりあっちを通っていれば良かったのか⋯⋯!

 私はすぐにここを曲がった。∀の字の横棒のような感じで歩いた。しばらくすると、見覚えのある道に出た。先月来た時に通った道だ。まあ当たり前なのだが。同じタイマッサージの店2つがすごく狭い間隔で建っていたので印象に残っていたのだ。

 ここを真っ直ぐ行けば⋯⋯あ、少し違うようだ。前に陸橋が見える。なのでもう少し左だ。左の道に入り、ジグザグと進んで行った。やはり都会は電線が多い。そういえば電線のない街がもうあるって聞いた気がするな。そのうち日本から電線が消えるのだろうか。電柱に登る酔っ払っいも見れなくなるのかな。見たことないけど。

 そんなことを考えながら歩いていると、視界の上の方に白い何かが見えた。私はとっさに後ろに飛んで躱した。鳥のフンだ。危ないところだった。私は昔から反射神経が良く、事故への対応力も高かった。

 余談だが、私はとても運が悪く、この半年でパチンコで250万ほど負けている。パチンコに限らず、今までの人生で運が悪いと感じることは多々あった。普通の人の倍くらいあったはずだ。なので私は、本来ならもう死んでいたかもしれないんだ。死もだいたい運で決まると思ってるからね。その運の悪さに抗った結果がこの反射神経と対応力だ。ただ、物理的なこと以外の対応力はないようで、臨機応変に対応することが出来ない。今日こんなことになっているのも対応力が足りていないからだろう。

 ⋯⋯よし、そろそろ例の道に出られるかな。という所でトラップ発動! 工事中! 私はまわり道をしてやっと銭湯の道に出た。ここから1kmくらいだが、私の目的はバスで銭湯に行くことだ。無駄に反対方向に行って犠牲になった運賃の魂も背負っているのだ。ここは譲れない。景色を楽しみながらバス停を探そう。先月歩道に綺麗に咲いていたツツジたちは跡形もなく消えていた。

 ゴオオオオー

 バスの音だ。やはりここはバスが通っている。あ、バス停そこにあるじゃん! 間に合うか? って止まらんのかい! そうだよな、誰もいなければ止まらんよね。もうこのまま歩くか。次のバスもいつ来るか分からんし。待ってるより歩いた方が早そうだもんね。

 ゴオオオオー

 バスの音だ。マジか、1分も経ってないぞ。どうなってるんだこの町は。でも良かった、これで乗れる。念願が叶うのだ。

 ゴオオオオー

 止まらずに行ってしまった。間に合わなかった私も悪いけど、ちょっとくらい止まってくれてもいいのでは? 私はバス停に着くと、時刻表を確認した。むむ、このバス停、目的地じゃないか! ということはあの角に銭湯が! 私は満面の笑みで歩き出した。

 ドゴーン!

 うるさい町だ。と思い音のした方を見ると、先月見た景色があった。そうだ、前回はここを曲がって銭湯の建物の裏側から入ったんだ。それに気付いた瞬間、私は声を上げた。

「あっ!」

 パチンコ海物語で熱くないと思っていたノーマルリーチで当たる時の0.5秒前に出る声と全く同じだった。

 まあどちらから入ってもあまり変わらないのだが、せっかくなので裏から入ることにした。建物に入ると、7月31日で閉館という紙が貼ってあった。例のウイルスのせいなのかなぁ。

 券売機で入浴券を購入する。せっかくだし、マッサージも受けてみようかな。お金ないから1番短いやつだけど。私は合計2200円分の券をカウンターに差し出した。

「マッサージ空いてるのが1番早くて1時間半後ですけど、何時にしますか」

 1時間半って⋯⋯もう買っちゃったから受けるしかないよな。そんなに待ち時間が発生するんなら券売機にメニューを入れるなよな。カウンターでしか予約出来ないようにしろよ。仕方がないので1時間半後に予約した。

 脱衣所に入ると、鬼のように混んでいた。おいおい、月曜日だぜ? みんなどうしちまったんだよ! みんな休みなのかよ!

 私はうんこがしたかったので、とりあえずロッカーに荷物を入れ、鍵を閉めてトイレに向かった。ここのトイレってみんな裸で入ってるんだよな。この便座もおっさんたちの生尻が⋯⋯って生尻なのはどこも同じか。

 トイレから出ると、私のロッカーの前で裸のおじさんが踊っていた。お前な、踊ってないで早くどけよ。と心の中で言いながら、鍵を手に持っておじさんの近くに立ってみた。察してくれるかな。

「いっちにーさんしっ! にーにっさんしっ!」

 すんません、踊ってたんじゃなくて体操してたみたいです。おんなじだよ! ここでやるな! どけ!

 しばらく体操した後、おじさんは裸のまま浴場と反対の方向に歩いていった。よし、やっと着替えられる。私は服とズボンを脱ぎ、ハンガーにかけた。さすがに汗かいてるからね。私はノーパン派なので、本当に服とズボンの2つだけハンガーにかけた。

 ちっちゃいタオルを持っていざ入浴!

いざ、入☆浴!

 私は銭湯に入る時は出来る限り身を清めてから入ることにしている。20分かけて全身をくまなく洗い、湯船へGO!

 前回電気風呂だったところがシュワシュワ風呂になっている。ええやん。全身がピカピカツルツル(髪はフッサフサのフサだけどね)になった私は、滑らないようによちよち歩き、手すりに掴まりゆっくり湯船に足を入れた。

「ウギャース!」

 思わず私は叫んだ。熱い、熱すぎる。デジタルで表示された温度計を見ると、46℃となっていた。マジかよ⋯⋯46℃なんて入ったことないよ。仕方がないのでシュワシュワ風呂は諦めた。

 浴場を見渡すと、綺麗な青い海のような湯を見つけた。

『スカイミント風呂』

 メントールを配合した澄み渡った空のようなお湯をお楽しみください。と書いてある。海じゃなくて空だったのか。あ、でも、海が青いのって空が映ってるからって言わない? なので私もあながち間違っていないのでは?

 スカイミント風呂に入ると、とても爽やかな香りがした。温度が38℃と少しぬるいがまあ許容範囲だろう。

 湯船に浸かり、足を伸ばし、上を向く。天井の一部がガラス張りになっており、空が少し見える。平和だなぁ。あったかいし、眠たくなっちゃうなぁ。

 ザブン!

 ビッグボムのような人が入ってきた。もっと大人しく入れよ。この人の水しぶき(お湯しぶき?)が目に入ったせいで、さっきまで眠たくなってた目がギンギンに覚めちゃったよ。メントール配合って本当なんだね、すごくスーッとする。まるで目薬。

「うぃーす」

「ちーす」

 ビッグボムの友達らしき男がビッグボムの隣に入ってきた。ビッグボムだけあだ名があるのも不公平だな、なにか考えてみよう。そうだ、お前は『とても細い骨』だ。めっちゃガリガリなんよ。髪くらい細いぞ。ちなみに私はビッグボムが何なのかは分からない。なんかビッグボム! って感じの人なのよ。

「ここのマッサージどう?」

「まあ、下の中くらいかな。いや、下の中の下かも」

 ビッグボムととても細い骨が話している。私が1番聞きたくない話をなぜ隣でするんだ。天罰で2人ともちょんまげになってしまえ。んで龍に食われろ。

 目に入ったメントールが涙で薄まり、また目がとろーんとしてきた。まだ50分くらいあるし、少し寝てしまおうか。風呂で寝るのって危ないかな。まあ、他にもたくさん人いるし、大丈夫か。

 私はしばらく気持ちよく眠っていたが、案の定途中で溺れかけて起きた。めちゃくちゃミントの味がする。あと15分か、もう少しだけ浸かってから出よう。

 マッサージまで10分ほどになった頃、私はスカイミント風呂から上がった。なんということだ、1時間近く風呂に入っていたというのにめちゃくちゃ寒い! メントールのせいか! 風呂入って寒くなるって、1番ダメなやつだよ!

 私は震えながら体を拭き、ロッカーの前で着替えた。すぐに頭を乾かし、マッサージの場所へ向かう。中国人らしき女性が出てきた。受付の人はこの人のことを先生と呼んでいた。いいよね、先生って呼ばれるの。ロマンだよね。

 30分なのですぐ終わってしまうだろうが、最後なので楽しみたいところだ。下の中の下のマッサージ師よ、その力見せてみよ!

 うつ伏せ状態の私の背中をグイグイと押す先生。そういえばマッサージって受けたことほぼ無いな。肩凝ったこともないからなぁ。肩凝りっていう概念だけ知ってる状態なのだ。

 背中がかなり痛い。先生すごいな。この指の力があれば指相撲世界一になれるんじゃないか? いいなぁ。私も何かで世界一になってみたいものだ。先生が羨ましいよ。あ、違うな。私の妄想の中で世界一になっただけだったなそういえば。

 足もマッサージしてくれるのだが、これもめちゃくちゃ痛い。正直泣きそうになっていた。全身を激痛一色に染められ、最後に頭のマッサージをしてもらった。

 これがめっっっっっっっっ(´;ω;`)ちゃくちゃいっっっったいの! めっちゃくちゃ痛ったいの!

 私は小さい頃、頭に釘が刺さったことがあるのだが、それと同じレベルの痛さだ。でも釘は1箇所。この先生は30箇所くらい刺してくる。あまりの痛さに私は涙目になっていた。

「お疲れです」

「ありがとうございました」

 私はどんな時でも挨拶は欠かさない。これは人として当然であり、これが欠けた瞬間私は人ではなくなる。なので私は挨拶を返してくれない人は人だとは思っていない。人の皮を被った昆布か何かだろ多分。

 もう13時近くになっている。ここの食堂は相変わらず混んでおり、行く気になれない。そもそも今日は牛丼が食べたい気分なので、地元に戻ってすき家にでも行こう。そう思いながら私は銭湯を後にした。

帰るぜい!

 帰り道はバスに乗ることにした。ちょうど1番暑い時間だからね。私はバス停まで歌いながら歩いた。後ろをたまに振り返りながら。

 私は歌が好きだ。なのでいつも歌っている。後ろを振り返るのは、人が来ていないか確認するためだ。歌は上手いので別に恥ずかしい訳ではないのだが、歩道で全力で歌っているとヤバいやつに間違えられそうなので、人が来たらやめることにしている。

 厄介なのは曲がり角からピュッと出てくる人。これは避けようがないので、その時は諦めている。というかそもそも、曲がり角から飛び出して来るのって危ないからな。死んでも文句言うなよ。

 バス停のベンチに座って熱唱する私。1人でラプソディーのエメラルドソードを歌っていると、反対側の車屋さんの男性がこちらを見ているのに気が付いた。なに見てんだよ。見せもんじゃねぇんだぞ。

 そう思って彼を睨んだその時、私の胸の辺りに硬いものが飛んできた。地面に落ちたので拾い上げてみると、それは500円玉だった。

「歌上手いな! ジュースでも買えや!」

 向こうの車線で信号待ちをしていた、ベンツを運転中の男性がそう言った。マジ? いいの? 500円玉が飛んできて痛かったけど、さっきのマッサージに比べたら蚊が刺したくらいだったから許してやろう。そしてこの500円はありがたく貰っておこう。

「アザーーース!」

 私はちゃんと相手に聞こえるように、元気よくお礼を言った。それにしても太っ腹な人だったなぁ。私だったらジュースを買えって100円渡すだろう。スーパーに行けば絶対に100円以下で買えるんだから。

 もしかしてオシャレな飲み物を飲めってことか? じゃないと500円も要らないもんな。よし、せっかくだしオシャレな飲み物を飲もう!

 それにしても全然バス来ないな。私はラプソディーのナイトライダー・オブ・ドゥームを歌って過ごした。ギターソロを口笛で吹いていた頃にバスがやってきた。私は即座に乗り込んだ。

 確か駅の近くにスターバックスコーヒーがあったはずだ。なので駅の1個手前のバス停で降りよう。私はスマホでスタバのメニューを調べた。

 なんだこれ、オシャレ過ぎるだろ。こんなの飲んだら私はオシャレぬんじゃないか? フラペチーノって何? マキアートってなに? オススメをまとめているサイトでも見てみるか。ふむふむ、キャラメルフラペチーノにするか。なに、エクストラホイップと叫べば無料でホイップが増量だと!? エクストラソースでキャラメルソースも増量出来るだと!?

 バスを降りた私はスタバへ向かった。スタバは思ったより駅寄りだったので、駅まで行けばよかった。あのバスはどこまで乗っても200円なのだ。

 街の景色を見ながらゆっくり歩いていた私は、ある看板が目に入った。剣菱のロゴが看板に使われているのだ。剣菱とは私の好きなおいしい日本酒だ。『うなぎ 割烹』と書いてある。剣菱が出してる店なのかな?

 スタバが見えてきた。駅寄りというより、駅より向こうじゃないか。いよいよ私もポンコツだな。駅の前を通ると、マスクもせずに大きな声で演説をしているおじさんがいた。

「日本の政治はクソだ! あいつらのやっていることはダメだ!」

 周りに仲間らしき人物が見当たらない。選挙の人ではないのかな? もしそうならこんな言葉遣いはしないか。クソだと思うなら改善案を出しなさいよ。そうやって吠えてるだけのうちは強くなれないぞ、おじさんよ。

 おじさんの近くに非常に攻撃的なモニュメントを見つけた。鋭い刃物のようなものが曲線を描き、20本くらい生えている。その下に『禁煙 違反行為には2000円の過料』と書かれていた。かりょうって読むのかな。罰金とは違うのだろうか。法律的には問題がないってことなのかな? 前科がつかないとか。でもそんなんだったら富豪が2000円払って吸いに来るぞ。

 左を向くと、こちらにも何か置いてあった。背中に地球のような形の大きな腫瘍をかかえた鳥の像だ。『この像が、多くの方に親しまれ、街のシンボルになることを願っています』と書いてある。その上に説明書きのようなものがあるのだが、ほとんど消えてしまっていて読めなかった。シンボルになるといいね。

 さてスタバに着いたわけだが、どうしようか。店内を見ると内装が真っ黒なのだ。こんな壁も天井も黒いオシャレな空間に、私のような田舎者が入っても大丈夫なのだろうか。結界でも張られていて、中に入ると心臓発作で倒れたりしないだろうか。

 スマホのメモに遺書を書いた私は、スタバの店内へ足を踏み入れた。これで私は都会人の仲間入りだ。みたか。ざまみろ。

「どうぞー」

 カウンターにいる女性がこちらに声をかけてくれた。でもちょっと待ってくれ、そんなスピーディーに買い物出来ないよ。心の準備をさせてくれ。

「ご注文はお決まりですか?」

 仕方ない、行ってみるか。女性がメニューを出してくれたが、メニューもやたら黒くてオシャレすぎて直視できない。目が死ぬ。どの道キャラメルフラペチーノと決めているので、メニューを見る必要はないのだ。目を死なせない為にもそうしよう。

「キャラメルフラペチーノで、エ⋯⋯ホイップ」

 緊張してエクストラという言葉が出てこなかった。

「ホイップ増量ですね」

 エクストラじゃないの!? 普通に増量って言っても通じるのならそう言えばよかったわ。増量って単語は緊張してもド忘れしないから。

「サイズはいかがなさいますか」

 しまった、サイズを決めていなかった。確かスタバはS・M・Lじゃないんだよな。それだけは知っている。有名だから。なんだったか⋯⋯

「S・T・G・Vがございます」

 親切な店員さんで助かる。ショート、トール、グランデ、ベンティというらしい。短い、背が高い、グランデ⋯⋯? 調べよう。グランデは大きい、ベンティは20という意味だった。20ってなんだよ。んで、ショートとトールの間は無いのか。でもまあ、一生来ないかもしれないから1番大きいのにしよう。

「ブブブブイーーーー!!」

 なんとか注文できた。知らないおじさんに貰った500円では足りなかったが、それでも思ったよりは安かった。良いなスタバ。

「お待たせしましたー! こちらにストローございますのでお使いください!」

 お、紙みたいな感じのストローなんだね。オシャレだねぇ。ていうか、Vサイズめちゃくちゃデカいんですけど。しかもすごく冷たい。フラペチーノってシェイクみたいなやつなのね。あと、キャラメルソース増量してもらうのも忘れてた。

 外に出てマスクを外し、一口飲んでみた。美味い! めちゃウマ! 映画館みたいな味がする! いい買い物をしたなぁ、と思いながら駅へ向かった。いや、ちょっと待てよ? 電車に乗ったら飲めないんじゃないか? もしまた満員電車だったら、飲めずにただただ溶けていくだけになるぞ。

 駅に入ると、ほとんど人がいなかった。これなら大丈夫そうだ、と思い私はホームに入った。ちょうどタイミング良く電車が来てくれた。帰り道はとてもスムーズに来れた気がする。

 電車の席もガラガラだったので、チビチビ飲みながら帰った。結局家に帰っても飲みきれなかったので、溶かしてジュースにして飲んだ。めちゃくちゃに甘かった。このサイズのキャラメルフラペチーノにはどれだけ砂糖が入っていたのだろうか⋯⋯

 そしてこのストロー。最初は紙っぽくてオシャレだなと思っていたが、本当に紙すぎて、もうドロドロのボロボロになってしまった。ペコちゃんの棒付きキャンディの棒みたいにね。このストローは短期決戦向きなんだな。

 終わり!!!!!!

 読んでくれてありがとーーーーっ!!!!

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