見出し画像

石垣と一升瓶

 高知県香美市土佐山田町の山あいに、曽祖父夫婦と大叔父夫婦の家があった。どうも先祖の出身がその辺りらしく、周りの人は皆同じ苗字だった。

 法事の際にはそこへ行き、よく大叔母達の邪魔をしたものだ。あれは確か小学校1年か2年生の頃のこと。

 はとこのAちゃん、Cちゃん達と遊んでいた時。彼女たちは私より3つ4つ歳が上だった。どちらかが言い出した。

 「ここの石垣にお水を飲ませたら面白いで」大叔父の家は山にくっつくように建っており、ちょうど大きな石垣があったのだ。

 私たちは早速家から空の一升瓶を探し出し、水を満杯にして石垣の隙間に突っ込んだ。確かに面白いほど、石垣はぐんぐん水を吸い込む。

 しかしだ。子どもに割れ物の取り合わせ。危なくない訳がない。何杯目かの水を石垣に飲ませようとした時、ツルッと私の手が滑った。

 ガッシャーンと大きな音を立てて割れる一升瓶、かけらが飛び散り手をざっくり切った。したたり落ちる真っ赤な血。

 そのあとは大騒ぎに。私たちは、はとこのお母さんにこっぴどく叱られた。「あんたら、石垣に水を飲ますもんじゃない!」一升瓶遊びは、その後御法度となった。

 私は傷の痛みより、自分の不注意のせいであんな面白い遊びが出来なくなったことが悲しかった。

 その後もAちゃんCちゃん達と遊ぶ機会はあり、手の甲に氷を乗せて我慢大会をするなど、くだらないことをして盛り上がった。

 今では笑い話になっているが、子どもの時のほんの1日のこと、忘れることができない。この前の父の葬儀にAちゃんと顔を合わせ、ふっと思い出した。

この記事が参加している募集

夏の思い出

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?