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終末期の父と共に

 今病院にいる。緩和ケア病棟だ。末期がんの父の付き添いである。

 父は2015年に、肝門部胆管がんの診断を受けた。手術して抗がん剤の治療後、寛解したかに思えたが、2022年、再発・転移していることが分かった。

 リンパ節、骨、肺、腹膜播種と、がんは全身に広がっていた。余命宣告された中で、最後の2年はよく生き抜いたと思う。

 毎日スポーツに出かけ、一緒にドライブやキャンプに行き、くだらない話をして笑い合い、とても余命宣告されたがん患者とは思えぬタフさで、父は毎日を過ごしていた。

 ところが今年の1月。叔父の葬儀を終えてから、急激に腹水とむくみがひどくなり、歩くのが困難になった。

 2月に入るとさらに移動が難しくなり、家の中を歩くのがやっとになってきた。それでも庭の椿を見たりする余裕はあった。

 3月18日、胆道ドレナージのチューブを交換する手術を終えた日。急激に容態が悪化した。昼はその日新しく入った介護ベッドの説明を聞くほど元気だったが、夕方になり傾眠、せん妄がひどくなった。歩行も難しくなった。

 その日のうちに救急車を呼び、即緩和ケア病棟に入院。その頃にはすでに自分が病院に搬送されていることすら分からなくなっていた。

 母と2人、付き添いで病院に泊まっている。1日目の夜は、父が延々痛い痛いと呻き声をあげ、母を呼び、要領を得ぬことを言って、少しも寝られなかった。

 医師の話では、あと1週間から2週間だという。終わりを間近に迎えた人間と、今生を全うしている人間が同じ場所にいる不思議さ。

 スーパーなどへ買い物に行った時、ふと思う。もう父とこんな風に買い物をしたりすることは出来ないんだと。恋人と別れたかのような寂しさが胸にあふれる。

 父はベッドの上で呻くばかりだ。意識もぼんやりしているようだし、食べ物も受け付けない。ただ終わりを待っているだけなのか。人の最後というのはあまりにも虚しい。

 せめて姪の小学校入学までは持ってほしい。桜の咲く様子を父に見せてやりたい。

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