見出し画像

好きな人のこと

 好きな人がいる。好き、いや好きで好きで大好きな人だ。

 見かけは黒縁メガネに七三分け、ちんちくりんで昭和のサラリーマンみたい。私服だって本人は自称オシャレだけど、シャツにセーター、スラックスみたいな昭和スタイル。

 「土佐弁は嫌いだ」と言い、私が土佐弁を話しても標準語(というのかどうか)を頑なに使う。なんだかギクシャクしているのは、彼もまた自閉症スペクトラムだからかな?

 デートの時でも私たち2人は並んで歩かない。2人とも好き勝手な方へ歩くから、多分それぞれ違うものを見ている。それでもお互いにこれをデートだと思っている。

 彼はなぜだか急に立ち止まったり、興味のある物事へふいっと歩いて行ったり、はたまた何事かぶつぶつ言いながらウロウロしたりと落ち着きがない。彼曰く、多動傾向があるらしい。

 お花見に行った時は、初めて見た看板を前に、さもそれに詳しいかのようにうんちくを垂れていた。そしてスタスタ1人で歩いて行き、桜並木の前で立ち止まったかと思いきや、「これが桜なので」と私に説明した。

 また、檮原町にある雲の上の図書館を訪ねた時のこと。彼は檮原町に初めて来たのにも関わらず、道案内をし始めた。ちなみに私は何度も来たことがあり、土地勘はある。

 「そこの角を右に曲がったら行けるので」彼の言葉を信じ右に曲がると、そこは民家の塀だった。彼は恥じる様子もなく、「方角は合っているので」と無表情のまま言った。

 図書館に入るなり私の方を見ることなく、自分の興味ある分野にスタスタと歩いていく彼。いつものことなので驚かない。普通(?)のカップルだったら、オシャレな図書館の造りを語り合ったりするんだろうね。

 彼は感情をあまり表に出さない。いつも怒ったような怖い顔をしている。初対面の人は皆彼を「怖い人かと思った」と言う。彼は言う。眉間に皺を寄せたら渋くてカッコいいと思ってやってたと。可愛い人である。

 私はそんな彼が大好きだ。母からは「歩くギャグ漫画」と呼ばれているが、そこがまた良いのだ。だって一目惚れだったんだもの。「父ちゃん坊やみたいで可愛い♡」と思ってお持ち帰りしたのはこの私だ(蓼食う虫も好き好きである)。

 ちなみに彼は私のことをいっぺんも彼女だと思ったことはないらしい。私の一方的な片想い?彼は私を、「近所に住む幼馴染の親戚のお姉さん」みたいだと言う。ナンダソレ。彼から懐かれてはいるが、どうも愛情とは違うようだ。

 そんな彼と次に会う日が楽しみだ。私だけの大切な彼。今頃大きなくしゃみをしているだろう。

 

この記事が参加している募集

スキしてみて

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?