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「オタク・岡村拓海②」

 自分に何が起こったのかはっきりと覚えている。電車事故に巻き込まれ死んだ。死んだら記憶を失くすものだと思っていたがそうでもないらしい。意識が少しずつ戻った僕は恐る恐る目を開けてみることにした。するとそこには真っ白な空間が広がっており、「これが死後の世界というやつか」と納得させていた。僕は立ち上がり、次に何をしていいのか考えた。
「おそらく、神様的な人に天国か地獄かの選択を迫られて…」
生きてる時にそんな悪いことはしてないし、天国に行けるだろうと思った。すると突然、目の前にドアが出現した。こんなこと神様クラスにならないとできない芸当だ。
「ようやく天使様のお出ましか」
僕はそのドアから出てくる天使であろう存在に注目した。しかし、扉の向こうから現れたのは僕の予想を裏切るものだった。現れたのは黒服を着た3人の男。うち2人は外国人で体を鍛えているのか、喧嘩をしたら絶対に勝てそうにない男だった。そして1人は50代のおじさんだった。頭は若干禿げていて、気弱そうな感じだった。
「天使業界も人出不足なのか?」
可愛い女の子も雇えず、おじさん天使を雇うようになったのか。がっかりする僕にはお構いなしで3人は近寄ってきて、その50代のおじさんが持っていた小さなアタッシュケースを、僕に手渡した。
「あの、これは?」
渡されたアタッシュケースを開けるようジェスチャーで指示をされ、僕は指示された通り中身を確認することに。すると中には黒い腕時計と、一枚の紙が入っており、まずはその紙に書いてある内容を読んだ。

『あなたは、死にました。残された時間は、その腕時計に記された数字となります。この時間を有効活用してください。また、私たちセキュリティはあなたの行動に違反がないよう監視します』

 やはり、僕は死んだようだ。腕時計を手に取って見ると『15.5』という数字が記されていた。
「15時間と30分ってこと?」と黒服のおじさんに尋ねると、「そうだ」と言いたげに頷いた。少しずつ頭が追い付いてきた。どうやらこの時間だけ延命できるということらしい。しかし、ほかの乗客はどうなったのだろうか。
「あの、ほかの乗客の方は…」僕は少し気まずそうに聞いた。
するとおじさん自分の後ろを見るよう指差した。そこには自分以外の乗客がいて、同じ説明を黒服集団から受けていた。自分だけでなく、ほかの乗客も延命したようだ。
「良かったー」
いや良くはないのだが、少しだけ安心してしまった。それに全員がここに連れてこられたわけでもない。電車に乗っていた人数よりも、ここに連れてこられた人数は少なかった。きっと自分は運がよかったのかもしれない。
黒服3人集が「時間がないぞ!」と言いたげに全力疾走をするようなジェスチャーをし始めた。
「わかってるって。人生最後の握手会。精一杯楽しんできますよ!」
 黒服3人集にさっき現れたドアに入るよう指示を受けた。どうやらここから、現実世界に戻れるらしい。僕はドアノブに手をかけた。そしてドアを開け、人生最後の握手会へと向かったのだった。

                             →③に続く

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