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恋愛百戦錬磨

 私は実は驚かれるかもしれないが本当のことを話せば、生まれてこの方、まともな女性と恋愛関係になったことがない。
 あちらに行けば宗教勧誘、こちらを見れば思想が強め。背水の陣で望んでいるつもりの恋愛はいつだって四面楚歌でしかなかったようで。女を見る目がないというのならば教えてくれ、なにをもって女性を見ればいいのかを。
「なんかモテるわ」
「なんかモテるのか」
「なんでやろな」
 私大に行った友人に相談してみればこれである。小学生の頃から女気が絶えないこのモテ男は中高と培った音楽の才能とその気さくな性格で大学中の女性を魅了しているらしい。おのれ私立大学、その環境が憎い。
「なにかしているわけじゃないんだけどな」
 嘘である。この男は我々が無意識に行うことなどできないような話の運び方、身だしなみを呼吸の如く平然と身につけ、やってのけるのだ。それはさながら往年の名選手の如き所作である。
 そんな神業を身につけるのに、なにもしていないはずがあろうか。
 いやない。
 この男は私がせっせと部活動に勤しんでいた時分から対女性能力を磨き続けてきたのである。弟にも妹にも尊敬される兄なのである。決して奇声を発し、嬉々としてゲームをするような姿を弟に見せてきたわけではないのだろう。ちなみにその兄像は私のものだ。というか私だ。私が奇声を発しているだけで、全国の諸兄はそんなことはないだろう。一応謝罪を。
 ちなみに私の母は女兄妹がいると対女性に強いとか、訳のわからない論理を語ることで有名だ。
「いや、普通に緊張するけど」
 そう答えたのは我らが大エース、小中高と同じ学校に通っていた私の従兄弟である。彼は実に信頼のおける男で、実に社交性に富んだ姉がいながらその対女性能力は私とどっこいどっこいなのである。ただ人当たりがとてもいい男で、男友達に恵まれている。そんなやつは早く彼女でも作って幸せそうな姿をインスタグラなんとかに上げ連ねていればいいのだ。最近では卑屈になりすぎて彼に彼女がいないという情報自体が嘘なのではないかと思い始めている。ちなみに僕に彼女はいない。実は『彼女』はいました〜とかいう類のくだらない叙述トリックなんかではない。正真正銘のフリーである。
 話が脱線に脱線を重ねた。つまり私がなぜ、彼女を作れないのかという話だ。なんだこれ馬鹿みたいな論題だな。
 まあお察しの通り、このレベルの脳内ひとり語りを完遂してしまうキモさが原因だろう。水出しコーヒーくらいじっくりと滲み出たそのキモさが一滴、私という清らかなる存在に滴り落ちてしまったのだろう。ワインに泥水が一滴落ちれば、それは泥水である。
 人の優しさが信じられない男といえば、実に哀れな存在だと多くの人間が思うかもしれないが、そこに『女性からの』という文言を加えれば全国の悲しい漢たちは首を福島県特産・あかべこの如く、縦に振り続けるだろう。
 特に私のような男子校上がりの人間には、その距離感がわからないのだ。人類皆兄弟だと昔の聖者は確かに言ったが、兄弟に恋愛感情なんぞ抱くか馬鹿という心持ちである。この表現は大いに問題を含んでいる。いや、確かにジェンダー平等的な観点で見ていけば正しい発言だ。聖者さんは何も悪くない。ただ私の心を酷く傷つける文言なのだ。それではまるで私が兄弟とすらまともに話せない社会不適合者みたいではないか。私は女性と話せないのであって兄弟とはいくらだって話せる。前言を撤回しろ、アホ聖者。
「まあこういうわけで、俺がモテないのは俺が悪い訳じゃなさそうなんだよ」
「草」
 言い忘れていたが先述の友人も従兄弟もみんな元・男子校生であり現ヲタク君だ。しかしこの友人が現在ヲタクなのかどうか問う勇気はない。せめてモテるヲタクであってくれ親友よ。
「結局あれか? 聞き上手な男がモテるんかね」
「そうなんじゃね」
「逆にどうしたらモテるんかな」
「さあ。まあとりあえず」
 危機に徹していた友人が喋る気配。有益なアドバイスを期待し耳を傾ける。この友人、困った時には実に頼りになる男な
「当面お前はモテなそうだよ」
「  」

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