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ただすれ違うとは少し違う関わり方:ナイト・オン・ザ・プラネット

ナイト・オン・ザ・プラネット (1991年) ジム・ジャームッシュ監督 

タクシーとは少し考えてみると不思議な空間だ。偶然そこを通りかかったタクシー運転手と目的地までの時間を狭い空間で運命共同体となって過ごすのである。一度しか合わない、お互いの身の上を何も知らない、ただその場限りでの付き合いだからこそ生まれる会話というものがある。

小学一年生の時に好きだった本『車のいろは空のいろ』(あまんきみこ著)の主人公はタクシー運転手だ。好きでよく読んでいた記憶はあるが、話の詳細を思い出せない。でも、不思議なお客さんがたくさん乗り込んできて、その度に運転手は「変なお客さんだったなあ」とタバコをふかしていたような気がする。そして、それがとても楽しそうで素敵な仕事だと思ったことは覚えている。

タクシーに乗っている時間は移動時間の一部にすぎないのだが、それは言い換えれば人生の一部分を切り取ったものとも言える。前後の文脈を何も知らない同士だからこそ、図らずもにじみ出る人となりと垣間見える人生があるように思う。乗る前と降りた後の人生は想像の範疇を超えないが、ただ街で人とすれ違うのとは全く密度の違うすれ違い方をしているタクシー空間が結構好きだ。

この映画は地球上の5つの都市、LA/NY/Paris/Roma/Helsinkiにおける夜のタクシーの様子を切り取ったオムニバス形式の作品である。特別な夜じゃなくて、乗客はただ人生真っ最中なだけ。でも、切り取り方と見せ方に「特別でないこと」への愛が込められてるからなんだか特別に見えちゃう。まるで世界各国の夜からランダムに採取した場面を切り取って集めたみたいな映画だから、自分の今ここにある生活も映画みたいに思えて笑えてくる。

ちなみに、ヘルシンキ編の雪の中タクシーを待つおじさん3人の待ちスタイルが超かわいいのでこのままTシャツにしたい。  

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