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古典臨書のさんぽ道〜デザイン書道編〜

書の道は人それぞれ。
人それぞれにおすすめの古典臨書作品をご紹介するシリーズです。

まずは、日本酒のラベル、店舗のロゴとか、年賀状とかとか、
「筆文字デザイン」「デザイン書道」「商業書道」などと言われる分野で
いつかお仕事をしてみたいなーと思っている方におすすめの古典作品。

読みやすくて、印象的な文字を書くために

デザイン書道というのはブランドや商品の名前を一瞬で伝えるためのものなので、
まずは、「読みやすく」あることが大切。

漢字には「楷書」「行書」「草書」「隷書」「篆書」の五体があり、
どれもデザイン書道して使われてはいますが、
まず、使いやすいのは読みやすい「楷書」「行書」そして「隷書」だと思います。

これらの書体を、さらにデザインとして印象的に書けるようになるために、
私がおすすめしたいのは、この4つです。

行書:王羲之 蘭亭序 (神龍半印本)

書聖と呼ばれる王羲之の書いた「蘭亭序」。行書作品として最も有名な作品。

やはり、これは外せないかな。
後世の書道家たちのすべてに影響を与えているのが王羲之なので、
まずは、しっかりとここを押さえておくと歩きやすい。

蘭亭叙はいくつも種類がありますが、まずは「神龍半印本」を手本に、
毛先の動きを自分の目でしっかりと追って、筆の流れを学びましょう。

「カッコイイ系」、「正統派」のデザイン書道を求められたときの
土台となる作品と言えます。

隷書:曹全碑

蘭亭叙の次に臨書するものとして、私は「曹全碑」をおすすめします。

多くの場合、隷書は後回しにされがちですが、
デザイン書道を書けるようになりたいなら、まず隷書を学ぶといい。

と言うのも、
隷書は「なつかしい」「かわいい」「趣のある」と言った
形容詞をデザイン化するのに使える書体なのです。
トップ画像に使っている、「悠久の刻」も隷書を使った作品です。

隷書も有名なものはいくつかありますが、
隷書の基本である逆筆が学びやすく、
丸っこくてかわいい曹全碑は手本としてとてもよいと思います。

楷書:牛橛造像記

楷書では「九成宮醴泉銘」や「孔子廟堂碑」が初心者におすすめされますが、
デザイン書道として考えるなら、ぜひ「牛橛造像記」を書いてみてください。

圧倒的な力強さ、インパクト。
人間としての生命力を宿した文字は正統派の楷書にはないエネルギーがあります。

実際に造像記系統の楷書を基にしたロゴなどは街中でもよく見かけます。
最近では某社の「レモンサワー」の文字も、
見るたびに「造像記だなぁ」と思ったりします。

この筆遣いをひとつ手にしておくと、デザインの幅がぐんと広がります。

行書:黄庭堅 黄州寒食詩巻跋

4つ目として、宋代の書家・黄庭堅の作品「黄州寒食詩巻跋」をあげておきます。

行書作品ではありますが、筆法が蘭亭叙とはかなり異なります。
逆筆で入るところが多々あるので、隷書を学んだ後に学んだ方がよいでしょう。

筆遣いも去ることながら、この作品は“余白の使い方”にオリジナリティがあり、
すでに、とても「デザイン的」に書かれているのです。

デザイン書道においては、与えられた文字を、
いかに配置し、どこに余白を与え、デザインとして魅せるか、が勝負です。

黄庭堅のデザインセンスを、臨書を通して学んでいきましょう。

形容詞を目に見える形に

デザインというのは、言葉として与えられた“印象”を“形”に変える仕事です。

「かわいい感じで」とか「昔なつかしい雰囲気で」とか、
「大人っぽく、正統派な書体で」とか、
クライアントさんから形容詞の形で与えられたものを、
書として目に見える形に表すことが求められます。

様々な形容詞を形にするときに、様々な古典作品が役に立ちます。
今回は、デザインとして使いやすい古典を4作品紹介しました。

日本語はひらがなが混ざってくるので本当は「かな」も必要ですが、
まずは漢字の臨書をしっかりとやるとよいと思います。

臨書で基本練習をしながら、
いろんな言葉を自分でデザインするトレーニングを積んでみてください。
きっと、少しずつ、いろんな雰囲気の文字がデザインできるようになります。

さんぽするように、臨書を楽しみましょう。

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