エアーコンディショナー
別れを切り出したのは私だというのに、ワンルームの狭い部屋には如実に空気の重さが伝わって痛い。
嫌いになったわけではない、というより嫌いになれる気がしないところが厄介なのだ。
たまらなく好きで、でもこの光の先にある暗闇が目に見えていて、そしてその暗さに慣れてしまいそうなのが怖かった。
エアコンから流れる冷たい風だけが部屋を自由に行き交う。
「このエアコンみたいにさ、空気をコントロールできたらこんな重い話はしなくて済んだのかな?」
彼が突然、口を開いた。
「えっ?」
私は理解できずに、彼を見た。
「えっ?」
彼もこちらを不思議そうな顔で見る。
「えっと、エアコンって何の略かわかってる?」
「バカにするなよ。エアーコントローラーだろ?」
すかさず返した自信たっぷりの解答に思わず吹き出してしまう。
「エアーコンディショナーだよ」
私が正解を返す。
「そうなの?」
「うん。コントロールとか言い出したからまさかと思ったけどさ。上手いこと言おうとして間違えないでよね」
「コンディショナーってリンスのことじゃないの?」
「あんたが言ってるのはヘアーコンディショナーでしょ」
「なんだよコンディショナーって、どういう意味?」
「知らない」
「知らねーのかよ」
いつの間にか部屋中の空気が軽くなっていった。
先ほどまでの重苦しい空気をいとも簡単に彼は吹き飛ばす。
ああ、どうしよう。
別れたくないなぁ……。
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