乾いた髪
ベッドに寝転ぶ彼を背中に感じながら髪を乾かす。
彼の隣で髪を乾かすのはあと何度できるのだろう。
お風呂上がりにタオルで髪の毛を拭いてくれたのも、濡れた私の髪の匂いを嗅ぎながら愛おしそうに撫でてくれたことも、もうずいぶんと前のことのように思える。
ふいに遠くから、彼の声が聞こえた。
本当はすぐそこにいるのに、ドライヤーの音は二人の距離を遠ざけた。
「なあ、別れようか?」
ハッキリと聞こえたその言葉に、なんと答えれば良いのかわからなくて、ドライヤーのスイッチを切った。
「ん? 何か言った?」
聞こえないフリでこの場を凌いでも仕方ないのに。
「なんでもない」
「そう」
再びドライヤーのスイッチを入れて、彼を背中にする。
振り返るともう彼がいなくなっていたらどうしようか、と思いながらしばらく乾ききった髪の毛に冷風を当て続けた。
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