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日記:自己紹介と豆知識(2024/04/3(水))

新年度が始まり、わたしのチームにも新入社員がやってきた。
「じゃあ、一人ずつ自己紹介と……最近知った豆知識を言ってください」

「豆知識」の部分は自己紹介のお約束で、リーダーの小さなおふざけだ。過去には「住んでみたい場所」とか「子どもの頃の夢」なんてのがあった。

思いついた人から自己紹介ね、の一言で全員が焦ったような困ったような顔で黙る。

わたしは会議が止まったのをいいことに、マイクをオフにしてティッシュ箱を引き寄せた。週末に引いた風邪を引きずっているのだ。

「お母さんが言ってたんだけどね、黄色いネバネバの鼻水が出たらカゼが治りかけてる証拠なんだって」

そういえば同じアパートに住んでいた同級生がそんなことを言っていた。
内緒話のように小さな声だったからか、中国出身の彼女のお母さんが発信源だったからか。当時のわたしはものすごい秘密を知ったように感動し「早くカゼを引いて確かめたい」と思ったのだった。

ティッシュを顔に押し当ててズズーッッと長く息を吐き出すと、不透明な黄色の液体が長い長い塊として押し出される。

昨日は透明な水っ鼻でティッシュを何枚引き出してもキリが無かったが、今日は色も粘り気も増してずいぶん楽になった。唾を飲むのが苦痛だったほどの喉の痛みもいつの間にか引いている。

あの子の言っていたことは正しかったようだ。

実家のアパートを出て十年近く。
高校から離れた彼女とはさらに長い間会っていない。
日本語が得意ではなく十数年住んでいて数回しか見ることのなかった彼女の母親を思い出しながら、別の社員が話す「殻が綺麗に向けるゆで卵の作り方」を聞いた。




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