見出し画像

【みんなのねがい2022年8月号特集番外編①】平和について悩み、考え、学びたい ~前編

『みんなのねがい』8月号特集「平和をつくる~暮らしと憲法」
クロストーク「平和について悩み、考え、学びたい」(22~23ページ)
誌面には載りきらなかった番外編を2回にわたって公開します!
通常学級で取り組んでいる実践内容についてより詳しく学べます。ぜひ、じっくりとお読みください。(まとめ・みんなのねがい編集部)

画像1
入澤佳菜さん(低学年担任)と池田翼さん(特別支援学級担任)

平和学習は、社会をつくっている学習

――なぜ、平和や憲法をテーマにした実践に取り組んでいるのですか?

入澤:平和を考えることは、子どもたちにとって最大の自分事だと思います。直接、自分に関わることではないでしょうか。
 平和学習の中では、他の友達の考えに出会い、考え、話し合うことを通して、自分自身の考えを深めていくことになります。子どもたちなりに最大限の知識や経験を使って考えます。
 その姿を見ていると、私は、社会をつくるとは、こういうことなのだと感じるのです。
 平和学習は、社会をつくっていく学習なのです。

平和を教える前に、子どもとともに学ぶ大人、
子どもに信頼される大人でありたい

入澤:安保法制が強行採決された年(2015年)、私は、ちょうど6年生の担任をしていました。戦争展に行くなど、学級では平和学習をしていたときでした。でも、子どもたちがテレビで見聞きするのは、強行採決という言葉でした。自分たちが学んでいることと、強行採決の現実のはざまで子どもたちがとても動揺しているように感じました。
 私は、家族以外の大人として子どもたちから様々なことを聞かれました。分かっていることを私なりに説明しましたが、すごく難しかったです。子どもたちから「社会をつくっている大人としてどう生きているの?」と問われているような経験でした。
 そうした中で、私は、どのように子どもたちの前に立ち、一緒に学ぶ大人であるべきかを考えさせられました。平和を学ぶことは、戦争や過去のことを学ぶだけではなく、今の社会をどのようにつくるかを学ぶことなのです。それができないと子どもたちに信頼される大人になれないと感じました。
 この時期、自民党の憲法改正案を読んでいる子もいました。「どうして自衛隊を国防軍に変えるの?」、「中身が変わらないって言っているのに、どうして名前を変えるの?」、「名前を変えるということは、中身が変わっちゃうことじゃないの?」、「自民党の改正案は、子どものこと考えていないんじゃないの?」など、いろいろな疑問が出されました。
 こうした子どもたちの声を聞いていると、もっと子どもたちと考えたい、子どもたちが自分たちの考えを実現するときに一緒に行動できる大人でありたいと感じました。

平和は抽象的だからこそ、教えたい

池田:6年生の担任をすると、教師自身が平和について深く向き合い、学ぶことになります。子どもたちにこんなことを伝えたいという話ができるように少しずつ教師自身も育っていくのです。
 でも、やっぱり、6年生の子どもたちの方が、本校での学びを通して、私以上に平和について学んでいるなと感じます。
 戦争や平和って抽象的で難しいことですよね。だからこそ、学校で教えていきたいと思います。学校の中でともに学ぶ仲間、集団だからこそ学べることがあります。

子どもたちの間で平和を学ぶ
~引き継がれる平和への思い~

――実際にどのような学習をしているのでしょうか?
入澤:本校は児童会活動が活発で、その活動でも平和について取り組んでいます。児童会の委員の選挙でも平和や広島への思いを候補者が自分の言葉で語ります。
 6年生の子どもたちは、候補者の思いを聞き、自分も6年生になったら平和について学び、伝えようという思いを育んでいきます。
 4月に児童会の選挙があり、5月に修学旅行に出かけて、いよいよ本格的に平和についての学びが始まります。

修学旅行での学び

入澤:修学旅行の事前学習は簡単に行います。主にはめあてをつくっています。めあては大きく二つ考えることが多いのですが、一つ目は、自分が何を学ぶかという「自分のめあて」、二つ目は下級生に何を学び伝えるかという「伝えるめあて」です。
 修学旅行は自分の学びだけではなく、全校のみんなのための学びでもあります。みんなのために学ぶということが広島でしっかりと学びたいという意欲につながっていきます。
 これまでの先輩の先生方が教材研究をし、たくさんの人のつながりをつくる中で、修学旅行の学びがつくられてきました。毎年、6年生の担任団で、その年の子どもたちの様子に合わせて訪問する場所や話を聞かせていただく方を考え、行程を計画しています。そうした過程の中で教師自身も主体的に学び、考えているのです。
 近年、大事にしているのは、平和公園にある「世界の子どもの平和像」を見に行くことです。これまでも平和公園にある像の見学はしてきましたが、それは大人がつくった像です。禎子さんの像も子どもにとっては昔の話になっています。もちろん、大切な像ですので、絶対に見学には行きますが。
 「世界の子どもの平和像」は2001年8月6日に建立された像です。アメリカの子どもたちが禎子さんの話を聞き、「世界中に平和の像をつくりたい」と運動を始めたのですが、その話を聞いた日本の高校生が「私たちも」と運動してつくり上げた像なのです。子どもたちにとって、子どもが平和のために行動したという事実と出会うきっかけにもなるので、「世界の子どもの平和像」を見学することを大事にしています。
 私は、修学旅行で話をして下さった被爆者の方にお礼や感想の手紙を書かせることはしていません。と言うのも、手紙を書くことで学びが完結してしまう気がするからです。手紙を書くことよりも、自分が聞いた話を、子どもたちが、誰にどのように伝えるのかが大事だと思うのです。平和の学習は、話をして下さった方と自分との関係で終わるものではないはずです。もちろん、子どもたちが自分から手紙を書きたいと言えば、考えますが。

平和のための行動に出会う学習

入澤:修学旅行を終え、歴史学習が進むと、平和のための行動と出会う学習に取り組みます。平和を願うことは大事ですが、願うだけでは平和にはなりません。実際に行動することで平和は実現していくので、そうした行動に出会うことが学びになると考えています。
 各年度でどんな人に出会わせるかを考えています。ガーナのパトリックさんに話を聞いたときに、「子どもでも平和をつくれるよ」と言ってもらい、子どもたちは自信をもっていました。
 実は、ガーナのパトリックさんに依頼する前に、シリアのミリアムさんという方を呼びたいと考えていました。パトリックさん同様、「世界の人びとに聞いた100通りの平和」(かもがわ出版)に登場していた方なのですが、出版社の方に問い合わせたところ、シリアの情勢が厳しく、ミリアムさん自身も、本の出版以降、自由に意見を言えない状況になっていることが分かったのです。
 誰から話を聞くかということは、その時々の教師集団の思いが大きく関係しています。あるときは、広島在住の詩人、アーサービナードさんに来てもらったことがあります。このときは、アーサービナードさんの講演会で直談判して、引き受けてもらったのです。アメリカではどのように原子爆弾について習うのか、アメリカ側から見た平和について語ってもらいました。子どもたちにとっても大きな学びになったのではないかと思います。
 奈良在住の被爆体験伝承者の方に来てもらったこともあります。一人目は大田孝由さんという方です。被爆者である梶本淑子さんの体験を語る方なのですが、大田さん自身がなぜこの活動に携わるようになったのかを語ってもらいました。また、二人目の入谷方直(まさなお)さんという方には伝承講話とともに、自身がとりくんでおられる奈良の被爆体験集の復刊について話をしていただいたこともあります。
 京都の「世界の子どもの平和像」を立てた高校生の担任をしていた先生に話を聞きに行ったこともあります。そのときは、当時、高校生として活動していた方にも来ていただき、話を聞かせてもらうことができました。

パート②に続きます】

★『みんなのねがい』8月号については下記ホームページから★


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?