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トルコのサッカーファンと交流して考えた「トルコは親日」のホントのホント


1.トルコは本当に親日なのか

 僕はひょんなことからトルコにあるアダナ・デミルスポル(以下デミルスポル)というサッカークラブの「日本最初のファン」と現地の人から認知された。トルコ語は分からないし、トルコにも行ったことがない。でも気がついたらXのフォロワーの約5%(100人程度)がトルコ人である。どうしてそんなことになったかは、以下のnoteをぜひ時間かけて読んでほしい。

 デミルスポルを応援している縁で、何人かのトルコ人とは特に親しくなりDMで定期的にやり取りするようになった。部屋から一歩も出ずに国際交流。まさに「引きこもり国際交流」である。

 こういうことになる前から「トルコはどうも親日国らしい」と聞いたことがあった。また、日本人もトルコには比較的好印象をいだいているそうだ。

 だが、実際に交流してみると僕が聞いていたイメージとは違う「親日」の様相が浮かび上がってきた。もっともDMでのやり取りのみだし、交流したトルコ人も20人程度の話だ。これがトルコ人の総意とも思わない。あくまで「こういう経験をしてちょっと考えた」話だと思ってもらえると幸いだ。

2.どこへいったのエルトゥールル

 トルコとの友好関係を象徴する話として日本で必ず語られるのが「エルトゥールル号遭難事件」である。

 1890年、オスマン帝国の軍艦・エルトゥールル号が和歌山県の紀伊大島付近で遭難し、600人近くの犠牲者を出した海難事故だ。このとき、現地の村(現在の和歌山県串本町)が住民総出で遭難者の救助と救護に努めた。もちろん政府も即座に対応したし、全国では義援金が集められオスマン帝国に届けられた。中には義援金を渡しにイスタンブールへ向かったところ熱烈な歓迎を受け、そのままオスマンとの架け橋になった山田寅次郎のような人物もいる。

 この話には続きがあると日本では語られる。1985年、イラン・イラク戦争中のことだ。イラクは突然「48時間後の3月19日午後8時以降、イラン上空の航空機は、民間機を含め、無差別に攻撃する」と宣言する。これにあわてた各国はイランに住む自国民を軍や自国の航空会社の救援機で脱出させていく。しかし日本は法律の問題で自衛隊が派遣できず、航空会社のチャーター便の派遣も最終的には断念する。イランの日本大使館は各国と交渉するもどこも自国民の救出で手一杯で、イランに日本人が200人以上脱出できず危機に陥った。

 この危機を救ったのがトルコである。伊藤忠商事のイスタンブール支店長が個人的につながりがあったオザル首相に救援を要請したところ、首相は承諾しトルコの救援機で日本人はイランを脱出することができた。驚くべきことに、トルコは日本人を陸路での脱出が可能な自国民よりも優先して救援機にのせた。実際に救援機に乗れなかった数百名のトルコ人は陸路で脱出している。

 なぜトルコはそこまでして日本を救ったのか。それこそ、85年前にあったエルトゥールル号遭難での日本人の献身の恩に報いるためだった。そういう物語だ。実際にこの2つの話をもとに『海難1890』という日本・トルコの合作映画が製作されている。日本とトルコの関係といえばエルトゥールル号といっても過言ではないくらいの勢いで日本では語られている話なのだ。

 ただし、僕がトルコのサッカーファンと日本に関する話になったときにエルトゥールル号の話題にあがったことは一度もない。もしかすると僕が聞いたらやり取りが始まったかもしれない。でも、歴史の話になろうが政治の話になろうがエルトゥールル号もイラン・イラク戦争もまったく話題にならなかったのは事実だ。代わりに日本に関してまったく異なる話題が交わされる。アニメとゲームである。

3.『キャプテン翼』はトルコの『アンパンマン』だった?

 今や外国人にとって日本といえばマンガ、アニメ、ゲームが三種の神器なのではないか。トルコのサッカーファンと交流してもそれらの話題にしばしば出会う。そのたびにアニメを見ずゲームをしない僕は四苦八苦することになる。

 一番話題にあがったのは『キャプテン翼』だ。トルコではかつてアニメが放送されており、30~40代のトルコ人には非常に馴染みが深いそうだ。主人公の大空翼や相棒の岬太郎をXのアイコンに使っているトルコのサッカーファンも数人見かけた。

 「『キャプテン翼』を見るために子供のころは早起きしたよ!」というトルコ人にも出会った。子供が早起きしてでも見たい大ヒットアニメ。『キャプテン翼』は、トルコの『アンパンマン』だったのかもしれない。

 僕が特に親しくしている人のがドイツ在住のトルコ人(フェネルバフチェサポ)だ。彼は本当に日本のアニメとゲームが大好きで何度か来日もしている。

 彼が以前「自分が大好きな日本のアニメ・マンガ三傑」を教えてくれた。浦沢直樹『MONSTER』、三浦建太郎『ベルセルク』、青山剛昌『名探偵コナン』だ。すごく偉そうな話だが「めっちゃいいセンス……!」と思ってしまった。特に『MONSTER』は僕も大好きな作品なのですごく話が弾んだ。

 極めつけはゲーム『龍が如く』にドハマりして日本語を勉強し始めた20代前半のトルコ人だ。いや、本当にそんなことあるんか。彼は今度、日本語能力検定のN2に挑戦する。5段階で2番目にレベルが高く、認定の目安は「日常的な場面で使われる日本語の理解に加え、より幅広い場面で使われる日本語をある程度理解することができる。」だそうだ。応援しているぞ。

 もっとも僕が交流しているのはトルコのサッカーファンなので、Jリーグの話題も出てくる。彼らはベッティングでJリーグにも賭けており、おかげでJリーグのことも知っているのだ。僕が応援する北海道コンサドーレ札幌が、今季ようやく初勝利を挙げたガンバ大阪戦後「いいレートだった」と儲かったことを暗につぶやくトルコ人がいたことを僕は見逃さなかった。そうだよな、オッズ絶対高かったよな。

 また日本とトルコは6時間の時差があり、日本でデイゲームが行われる時間がトルコでは朝だ。一日中サッカーのことしか考えたくないトルコのサッカージャンキーにとって、Jリーグは「朝見ることができるサッカー」でもある。

4.恩義よりも面白さ

 僕はエルトゥールル号の話が実は大したエピソードとは捉えられてないといいたいわけではない。トルコ人との交友ある別の日本人は僕と異なる体験をしているかもしれないし、地域性や相手が置かれている環境によっても変わるかもしれない。たとえば僕はアダナの人との交流がほとんどだ。これがイスタンブールやアンカラだったらまた違うなんてことがあるかもしれない。政府レベルと民間レベルでは話が違ってくる可能性がある。あくまでも僕のリアルを書いたまでだ。

 でも一方で、多くの人間を動かすのは恩義よりも面白さなのではという気もする。アニメやゲームなど面白いコンテンツを供給して楽しませてくれるから日本に親しみを持つ。これも僕らが「親日」と解釈するものの正体のひとつだろう。

 かくいう僕も「極東から俺たちのチームを応援する面白い(というか奇妙な?)やつ」として、みんなによくしてもらっている気がする。ある意味珍獣のような扱いかもしれないが。

 もう一つ、本当の意味で「親しみを持つ」というのは、相手に関心を持ち知ろうとすることだ。それは無意識でも意識的にでも構わない。

 僕自身もそうだったのだが「日本がトルコに好印象を抱いている」ことの大半は「トルコが日本のことを好きだから」で止まっているのではないだろうか。極端にいえば、自分のことが好きだから気持ちがよくて、相手のことはよく知らないし知る気もさほどない。そういうことだ。

 そこから主体性を持って一歩踏み込んで相手を知る。そこから本当の親近感を育むことが始まるのではないだろうか。

【マガジン作りました】
トルコに関する記事は、マガジン『部屋から出ないで国際交流』にまとめることにしました。過去の記事も手軽に探せます。よろしくお願いいたします。

【おしらせ】
 サッカー専用のXアカウントを「支店」として作りました。デミルスポルをはじめトルコサッカーの話もこちらで行います。ご興味ある人はぜひフォローよろしくお願いいたします。
https://x.com/negacle_consa

5.参考図書

◎今井宏平『トルコ100年の歴史を歩く』
 トルコの首都アンカラに焦点をあてた一冊。『キャプテン翼』の話も出てくる。

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