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インプットに利益を求めるな―『SWITCH Vol.42 No.5 佐久間宣行のインプット&アウトプット』


1.特集まるまる「佐久間宣行の仕事」

 インプットの魅力と、大切なことが再確認できた。

 テレビプロデューサーの佐久間宣行さんを総力特集した雑誌だ。佐久間さんは数々のテレビ・配信番組を手がけ、自身のYouTubeチャンネルでもヒット企画を生み出している。制作者だけではなく出演者としての側面もあり、特にラジオではANN0のパーソナリティを2019年から続けている。

 『SWITCH』が着目したのはインプットとアウトプットだ。佐久間さんのアウトプット(仕事)とそれを支える膨大なインプット(コンテンツ)の秘密にせまっている。

 僕は2019年末に佐久間さんのANN0を知ってから毎週欠かさず聴いている。自分がラジオを聴くことに夢中になり、ラジオブースでしゃべることに憧れるようになったきっかけの一人だ。聴き始めたころはテレビ東京の一社員だったのが、ついにSWITCHで特集されるまでになり感慨深い。

 アウトプットについてはインタビューが豪華だ。本人はもちろん、番組に出演している芸能人、共に番組を制作しているスタッフから話を聞いている。ラインナップをあげればその豪華さが分かるだろう。

☆出演者インタビュー:
オードリー 星野源 千鳥 おぎやはぎ 劇団ひとり 東京03 伊集院光  板倉俊之(インパルス) 黒沢かずこ(森三中) 川島明(麒麟) 長谷川忍(シソンヌ) アルコ&ピース さらば青春の光 ウエストランド 渡辺隆(錦鯉) みりちゃむ 東野幸治

☆スタッフインタビュー:オークラ 大井洋一 土屋亮一

 ちなみに僕のおすすめインタビューはアルコ&ピースだ。理由は単純。一番腹をかかえて笑ったからである。これらのインタビューを読めば「佐久間宣行の仕事」が分かるといって過言ではない。

2.何のためにインプットするのか

 アウトプットよりもインプットに関する記事が僕のお気に入りだ。内容は影響を受けた50のエンタメを自身の歩みと一緒に語る記事と、東野幸治さんとの対談である。

 自分が何に影響を受けたかは定期的に振り返っておくとよい。自分の歩みや嗜好を確認できるからだ。佐久間さんの語りを読んで、僕も影響を受けたものを自分の人生と共に思い出してみたくなった。

 佐久間さんを形作ったエンタメのひとつが舞台だ。今も昔も多くの舞台を好きで観に行っている。佐久間さんは舞台を観ることについて、三谷幸喜さんの言葉をひきながら語っている。

 三谷さんが言っていたことで本当にそうだなと共感するのは、「面白い舞台はドラマや映画では味わえない感動があるけれど、逆につまらない舞台はつまらないドラマや映画の何倍もつまらない」と。でも、そのたまにある当たりが、自分の魂をとんでもなく震わせてくれたりするので、その体験を知ってしまうとまた劇場に足を運んでしまうんですよね。

『SWITCH Vol.42 No.5 佐久間宣行のインプット&アウトプット』p63

 この言葉はサッカー観戦にも通じるところだ。見ごたえがなかったり眠たくなるくらい大外れの試合はある。でもときどき震えるような試合に出会ってしまう。それを一度体験するともうサッカーから離れられなくなる。そんな経験に心当たりある人もいるだろう。

 東野さんとの対談では、編集者から「アウトプットで気をつけていること」を聞かれたときの2人の回答が共感できた。とても好きだ。

東野 何も意識してないです。“これが面白かった”って人に言いたいだけなんですよ(笑)。それが仕事に繋がるとも思ってませんし、まったく関係ない趣味というか。若槻千夏さんとか滝沢カレンに「これ面白かったですよ」ってDM送りますもん。僕とは趣味嗜好が違うので、反応を見ると発見になるし、楽しいんです。

『SWITCH Vol.42 No.5 佐久間宣行のインプット&アウトプット』p68

 そうそうそう。首を縦に振りながら読んだ。僕は自分の本質を「すすめたがり」だと思っている。読んで面白かった本や自分が面白いと思った発見をとにかく誰かに報告したりおすすめする。それができる場がもらえるなら、目立とうが何しようが構わない。人前に出ることもこうやって発信することも所詮は手段だ。「すすめたがり」という己の本質のためのツールにすぎない。

佐久間 "なんでこれが面白いと思ったんだろう"とメモしておくことが多いですね。学生時代から「エンタメ報告会」のように、オタク友達と毎日好きな作品を言い合っていたんですけど、そいつもオタクだから、良いプレゼンをしないと観てくれないんです。そこで訓練をしたから話せるようになったというのもあるかもしれないです。

『SWITCH Vol.42 No.5 佐久間宣行のインプット&アウトプット』p68

 書評や見た映像作品の感想を書くことには、佐久間さんが答えた「メモ」の要素もある。常に書評や感想を書くかもしれないことを念頭において、読んだ(見た)後ノートに印象に残ったことをさっと書くクセがついた。この雑誌の書評はそのメモを見ながら、書評用に何を書くかまたノートに箇条書きした上でキーボードを打ち込んでいる。

 2人に共通するのは「インプットに利益を求めていないこと」だ。役に立つから、話のタネになるから。目先の利益を目的に彼らはインプットしていない。面白いから、楽しいから、好きだからインプットしているだけだ。それが結果としてめぐりめぐって利益に「なることもある」。それだけだ。

3.『ブルーロック』声優が魅せる役作りのすごみ

 特集はもう一つある。「CHARACTORS」特集だ。アニメのキャラクターをどのように作り上げていくか。今春発表の話題作の『名探偵コナン』、『ブルーロック』、『怪獣8号』、『忘却バッテリー』のスタッフやキャストにインタビューをして解き明かしていく。

 例えば『ブルーロック』では現在公開中の『劇場版ブルーロック-EPISODE 凪-』に関して語られている。これはテレビアニメ版の主人公とは別の人物の視点で物語が進む。当然、テレビアニメ版『ブルーロック』に描かれた出来事と被ってくるところもある。

 『ブルーロック』本編の主人公・潔世一役の浦和希さんは、テレビで描かれているエピソードに関しても劇場版のためにほぼすべて録り直してい。アニメに詳しい人からすると当たり前かもしれないが僕には新鮮だった。いったい何が変わるのか。その答えは浦さん自身が語ってくれている。

――本劇場版では『ブルーロック」のエピソードが凪側の視点から描かれます。再収録はあったのでしょうか。
浦 ほとんどのシーンで再収録をおこなっています。TVシリーズでは潔の弱さや葛藤がフォーカスされ、それに沿った演技をしていました。一方で、本作に登場する潔は凪の前に立ちはだかる強者として描かれています。
その声には得体の知れなさが必要であると判断いただき、再度アフレコをさせていただきました。そんな中、“凪に聞こえている音〟を発することを意識して収録に臨みました。

――"凪に聞こえている音〟ですか。
浦 はい。凪の視点から見た潔は得体の知れないラスボスのような存在。なので、凪に聞こえている潔の声は脅威を感じさせるものであると考えたんです。それを体現するため、運動感を極力排し、常に余裕のあるそぶりを意識した演技を意識しました。

『SWITCH Vol.42 No.5 佐久間宣行のインプット&アウトプット』p92

 「声優の役作りのすごみ」というものを初めて文字で味わった。恐れ入る。僕は映像(YouTubeも含む)をほとんど見ない。そのためアニメにもまったく縁がないが、制作の奥深さを教えてくれる素晴らしい特集だったと思う。

【本と出会ったきっかけ】
 佐久間さんのファンとしてX(Twittter)をフォローしており情報を得た。

4.参考資料

◎2024/04/24 佐久間宣行のオールナイトニッポン0(ZERO)
 この雑誌を裏話が少し語られている。リスナーによる佐久間さんの掲載写真いじりは必聴。

◎佐久間宣行『佐久間宣行のずるい仕事術』
 佐久間さんの「アウトプット(仕事)術」といえばこの本。

◎「好きなことでムリなく働くために努力する」佐久間宣行のサボり方(ロガール)
 佐久間さんのインプットの話にも比較的多めに触れられているインタビュー記事。

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