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わけあり魔法少女さんじゅうななさい【後編】【オリジナル小説】

こんばんは。今日もお疲れ様です。
いやー。引きこもっていると脳内のファンタジー化が止まらない。明後日ハロワの予定なのでそろそろ現実に戻らなければと思いつつ、今日は火曜日なので書ききりました。こちら↓の続きの話です。



「お姉ちゃん、嘘。やめるなんて言わないでよ。私一人でなんて戦えない」
「逆だよ、マコ。私がマコの足を引っ張っているからマコは本当の実力が出せないの。ごめんね。私お姉ちゃんなのに、こんなに頼りなくて。今日の戦いでもう最後にするから」
「いやだよ、お姉ちゃん。そばにいてよ。一人にしないで……」

***

よだれが頬を伝う感触で目が覚めた。やだ、いい歳して口開けて寝ちゃった。これから面接なのにのどが乾燥しちゃう。…… って嘘、私また寝てたの? やだ。もしかして電車寝過ごした? あれ、まだ着いてない。予定ではもう着く時間なのに。
「ご乗車の皆様誠に申し訳ございません。当駅で起きました人身事故の影響で当車両は、申し訳ございません只今、皆様お急ぎのところ申し訳ございません。ご乗車いただき誠にすみません」
 謝罪が無駄に多すぎて状況が分かり難いアナウンスが流れた。どうしてこんな大切な日に限って。電車は私の目的地の一駅手前で停まってしまっていた。ミコの「マコちゃんは、落ち着けば大丈夫な子だから」と言うセリフを思い出した。ここからタクシーで行けばきっとまだ間に合う。大丈夫。私はまずは電車を降りることにした。
降りようとしたその時、ズシーンとくる嫌な衝撃。慌てホームに出ると、電柱ほどの大きさの魔物が「ドウシテードウシテー」と言いながら電車を揺らしていた。

こんな昼間からこんな巨大な魔物が現れることなんて今までそうそうなかった。思わず、「どうして」と呟くと、魔物も「ドウシテー」と鳴き返してくる。ちょっと山びこみたい。
 なんて言ってる場合じゃない。どうしよう、さすがにあの大きさの魔物を倒す力なんて私には無いし、面接の時間も迫ってるし、ここは見なかったことにして……

「キャアッ! 地震⁉」
「これはかなり震度でかいぞ」
電車の中に残っている人たちが騒ぎ始めている。彼らには本当に何も見えていないはずだけれど、魔物の影響は災害や事故などを通して認知される。見えている私が見えないふりをしても彼らがこの魔物から被害を受けてしまう結果になることは目に見えている。

「ここは私一人で戦うしかないってわけね」
苦笑いしてから私は魔物に向かって走りだした。何の力もない私が一人でどこまでできるか分からないけれど、出来るところまでやるしかない。

肚を決めて助走の勢いで思いっ切り飛び蹴りを相手にしかけた。確実に入った感触がして魔物が呻き声をあげる。やったぁ、決まった! ガッツポーズを決めた私の腕に倒れかけた魔物の中から何かが飛び出してきて、スポリと私の腕に収まった。嘘。これって……。
「赤ちゃん⁉」

驚く私の腕の中で一瞬、私と一緒に驚いた顔で見つめ合った赤ちゃん、まだ生後数か月なんじゃ無いかというその小さな子どもは大きな声で泣き出した。
「ドウシテー! ドウシテー!!」
まるで赤ん坊の泣き声に共鳴するかのように一度倒れた魔物も鳴き叫びながら立ち上がった。いや、それだけじゃない。
「この魔物、どんどん大きくなってる…… ⁉」
赤ん坊の泣き声に共鳴しながら、まるでエネルギーをその声から吸収しているかのようにどんどん巨大化する魔物、あっと言う間に最初の倍くらいの大きさに成長してしまった。

どうしよう。私には絶対に無理。この赤ちゃんを守りながら、こんな巨大な魔物と一人で戦うなんて。絶対に守りきれない。できるわけ無い。私のせいだ。私なんかがどうにかしようなんて考えを持ったから。
「ごめんなさい」

「どうなってんだよ! いつになったら動きだすんだよこの電車」
「申し訳ございません」
電車の中でも乗客と駅員がもめ始めている。どうしよう。全てダメになってしまう。もう、力が入らない。腕の中の赤ん坊が泣き叫びながらずり落ちていくのも止められない。

「落ち着いて下さい、マコさん。あなたなら大丈夫。できますよ」 
私の目の前に、落ちかけた赤ん坊を「おっと」と言いながら支えてくれる人がいた。この間のハローワークの相談員、あの時のエルフだ。そのまま赤ん坊を抱き支えてくれる。ぎこちない手つき。でも、ちゃんと首は支えている。
「落ち着いて相手をよく見て下さい。あの魔物はせいぜいD級かC級レベル。20年前のあなたが平均0.5秒で倒していたレベルです。今のあなただってこれを使えば僕の分析ではものの10秒で片付けられる相手だと確信します」
突然現れて一気に理屈っぽく語りだしたエルフに若干引いているうちに何かを持たされた。これは

「口紅?」
何だかチープなデザインでおもちゃみたいだけど。
「さっきそこの百円均一で急いで買ったものですが、僕の魔力も込めておきました。使って下さい」
ひゃっきん。この男、プレゼントのセンスないタイプかなと場違いな感想を抱く。
「マコさん、エルフは耳が良いので失礼な心の声は届いてますよ」
「ごめんなさい。ふふふ…… ありがとう」

ちょっと笑えたらさっきまでの緊張と恐れが和らいだ。そうだ。もう、大丈夫。
私は口紅を頭上に掲げ、17年ぶりの言葉を叫ぶ。

マジカルメイクチェンジ!!
私の声に呼ばれたように虹色に輝くエネルギーが口紅に集まっていく。懐かしい心地よい光。口紅を塗るとその光が私の全身を包む。
「メイクアップシスターズ! シスターマコ、整いました!」
そう、宣言して立ち上がり、魔物を見る。あぁ、さっきまで見ていた世界と今見える世界が全然違って見える。変身したのは私のはずなのに、世界まで一緒に変わったみたい。
それでようやく分かった。さっきまで気づかなくてごめんなさい。私は目の前の魔物、いや、「彼女」に語りかけた。

「あなたも私と同じだったんですね。私と同じようにただ、恐れて、ただ不安になっていただけだったんですね。分かってあげられなくてごめんなさい」
そっと手を伸ばすと、巨大な魔物になってしまっていた彼女の身体はまるで空気に溶けていくみたいにみるみる小さくなり、元の小柄な女性の魂へと戻った。
「ごめんなさい。私ダメな母親なんです。申し訳ありません。私、あの子が泣くと自分がどうすればいいのか分からなくなって。すみません。ご迷惑おかけして申し訳……」
「大丈夫です。もう、謝らないで下さい。あなたは何も悪くないです。ダメなんかじゃ」
「ダメにもなりますよ、そりゃ」
 驚いて振り向くとエルフが後ろに立っていた。
「そんなに一人で何でも抱えて、責任背負い込もうとなんてしてたら人間誰だってダメにもなります。そういう時は自分で何とかしようとしなくていいんです。行政や、社会に頼って下さい。ダメになる前に助けを求めて下さい。そうしないと本当に大切なものを落としてしまいます」
パチンと指を鳴らして結界を解き、相談員は赤ん坊を母親に手渡した。

**********************************************************************************

「いやーマコさんやっぱ天才ですね! 変身してからわずか、0.3秒でしたよ。それも触れただけで倒してしまうなんて現役の魔法少女にだって無理な芸当ですよ!」
「大きな声でやめて下さい。私たちいい年の大人が魔法少女の話なんておかしいでしょう」
 騒ぎが落ち着いてから、なぜか私と相談員はファミレスで二人でタラスパを食べていた。面接の時間に間に合わなくなってしまい、先ほど慌てて謝罪の連絡を入れたが、今回は元々先行で進んでいた候補者もいたらしく、面接日を組み直してもらうことは出来なかった。せっかくやっとつかめたチャンスだったのに。落ち込んでいたら、テンション上がりまくった相談員にお昼奢りますから、祝勝会やりましょうと半ばむりやり連れて来られた。しかも、ファミレスって店選びのセンスも微妙な男である。タラスパおいしいけど。

「でも、本当にすごいです。僕の作った即席トリガーであれだけの力が発揮できるなんて」
 トリガー、相談員の用意してくれた口紅はそのエネルギーに耐え切れず、変身が解けると同時に割れてしまっていた。百均とは言え、一度しか使えなかったなんて勿体ない。
「安心して下さい、マコさん。次はもっと強力な素材を用意してトリガーを作ります。今度変身する時は」
「もう二度と変身はしません。この歳でして良い恰好じゃないです。あれは」
「イエ、トテモヨクオニアイデシタヨ」
「あなた、お世辞の下手すぎでそのうちケガするわよ」
「え。どういう理屈ですか? ちょっとマコさんどうして帰ろうとしてるんですか、話はここからじゃないですか、待って下さい。私の営業成績が……いや、世界があなたの力を必要としているんですよ! 世界を一緒に救って下さい! マコさーん」
一瞬あまりにも正直すぎる本音も聞いてしまった気がしたけれど私は「ご馳走様でした」と立ち上がって、振り返らずにそのまま家に帰った。
                          ≪了≫

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