ランランラン【オリジナル小説】
こんばんは。今日もお疲れさまです。
ギリギリになってしまいましたが、ショートショート的な何かを創作したので、アップします。
また、ダラダラ書いていたら言い訳も考えられない時間になってしまった。(良いから黙って上げろと言うことかな)
ランランラン
今日は何人に追い抜かれただろう、何人追い抜いただろう。右の方で一人が転んだようだ。誰も気にしない。私もそちらを見ることも無く進み続ける。
「あの、あのすいません!ここってどこですか?何かの大会中だったりします?どうして皆さん走ってるんですか?」
左の方で声がした。このスピードで喋れるなんてとちょっと驚きつつも、もちろん見ることは無い。私以外も誰も答えない。
「すいません。変なこと言ってるのは分かってるんですけど、私記憶が無くて、気がついたら走っていたんです」
驚くことに先程よりも大きな声で聞こえる。まさか近づいてきている?喋りながら??
周りも同じ衝動を感じたのかざわざわとスピードが上がる。私も遅れないよう必死になる。
「自分が誰かも思い出せないんです。助けて下さい!」
本当に驚くことにいつの間にか私の真横に来ていたその声に私が腕を引かれたのと同時に少し前の方で
「B5地点突破だー!」
と、誰かが叫ぶ。歓声が上がり、一気に周囲のスピードが上がる。一瞬、自分の中で色々な感情がぶつかり合ってわけが分からなくなる。膝と肘に衝撃と痛みを感じてそうか私は転んだのかと気づく。
歓声が、熱気が遠ざかって行く、おいていかれてしまう。慌てて立ち上がるが肘を引っ張られてもう一度地面に戻る。
「さっきの『B5』地点ってどういう意味ですか?あの人たちどこへ向かっているんですか?」
そんなに大きな声じゃ無くても聞こえるのに。凄い、エネルギーだ。でも私に答えられることは無い。黙って今度こそ立ち上がる。
「待って。ごめんなさい。お願いします。お願いです。私どうすれば良いのか分からない」
金切声が膝に染みるような気がした。私は初めてその声の主を見る。困惑。疲弊。恐怖。私と同じだ。けれど私に言えることは何も無い。黙って走りだす。追いつかなきゃ。早く、
「待って待って。お願いお願い!ねぇ、ここはどこなの?あなたは誰?どこへ行こうとしているの?」
私の方が先に走り出したのにすぐに追い越されて、私の前に立ちはだかる。そのエネルギーに驚きながら私はただ微笑んで首を振る。
「ねぇ、まさかと思ってたけどあなたも、みんなも同じなの?誰も自分が何者か、何処へ行くべきか分からずに走っているの?そんなのって……」
絶望。呆れ。焦燥。
「そんなの無理。馬鹿げてる。私はどうすればいいの?」
尚も私に答えを求め続けている。しかし、私に答えられることは何も無い。私は既に、自分も目的も言葉も失っている。
しかし、忘れていたはずの言葉がその時一つだけ降りて来た。
「あなたはどうしたいの?」
ハッとした。私も驚いている。私にもまだ言葉を発することが出来たのか。彼女はハッとして、何も言わなくなったかと思うと、私をおいてもの凄い勢いで走りだした。やはりエネルギーが違う。
私はあっと言う間においていかれてしまった。あのスピードならすぐに前の集団に追いついて、追い抜いて、どんどん先の地点へ進んで行けるだろう。
嫉妬、憎しみ、寂寥、悲しみ、言葉を失った私の中で残された感情だけが得体の知れない存在として渦巻いている。
それでも私はただ走り続ける。痛みと疲労を感じる。しかし、それすらもただ流しながら走り続けていると不思議なことに心地良さだけに満たされて行く。
何だか分からないものに、何だか分からないままに感謝しながら、私は今も、走り続けている。
《了》
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